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矢鵺歌・オブ・ザ・デート4

 とある正義の味方が闘いを教えてくれたのだ。

 御蔭で正義力に関係なく基本的な闘いは皆かなり実力をあげ、ようやく中級ヒーローとしてテレビに取り上げられ始めた矢先のことだ。


 俺は再び異世界に召喚された。

 日本の戦国時代を彷彿とさせるその世界で、俺はあり得ない人物との再会を果たす。

 そう、奴だ。俺が倒したはずのあの怪人が、ちゃっかり生存してやがったのだ。

 聞けば俺に倒されたように見せかけることで俺に敵を倒した満足感を与えて、自分は彼女の親と異世界でゆったり過ごしていたのだとか。


 別の異世界で冒険もしていたとかほざいていたが、突っかかる俺を他のクラスメイトが止めて、結局怪人と共同で異世界から脱出する事になったのだ。

 色々あった。辛い事もあったし、殺されかけた事もある。


 正義に迷っていた時期でもあって、自分の正義が何なのか、わからなくなっていた。

 そんな時だ。あの怪人は、俺を炊きつけるようにして励まして来た。

 いつもそうだ。俺が正義に迷う時、奴は必ずと言っていいほど俺の前に現れて、俺がおかしな方向に行くのを止めていた。


「ライバル……かぁ。あなた本当に正義の味方だったのね」


 俺の話を聞きながら、矢鵺歌は長い息を吐くように台詞を言う。感心しているのか呆れているのか、優しい笑顔がなぜか俺の心を抉った。

 ただ感心していただけかもしれないが、なんとなく自分の人生が一息で吹き飛ばされた気分になったんだ。


「でも、正義なんて曖昧でしょ。そんなに迷うものでもないと思うけど」


「だが、心情とする正義は曖昧じゃだめだろ。そんなモノに縋っていてはどこにも辿りつけやしない。その時その時の気分で正義を執行するなら、ソレは正義を語る殺人者だ」


『いや、今のお前ソレだからな?』


 え? マジで? いや、待て。武藤、俺、あれ?


「どうしたの?」


 ナビゲーターに指摘されて思い返す。

 確かに、今の俺は自分の正義を自分で決めている。つまり、その時の気分で悪を断罪して、許せると思う悪は見逃している。

 しっかりとここまでが悪でここが正義という線引きは無く、その線引きをするのは俺だ。


 そんな考えに気付いて愕然としていると、不思議に思った矢鵺歌が覗きこむように視線を向けて来た。

 無駄に可愛い。

 今の衝撃の事実が吹き飛んだ気分だ。


「ああ、いや、ふと思ったんだが、今までの俺の行動そのモノが偽善者と呼ばれても仕方無い殺人者だったんじゃと……」


「あー。まぁ、こんな世界だし、自分で自分の助けたい人を助けて他を殺すのは仕方無いんじゃない? 私も、ほら、ロシータを助けたいけど玲人は殺したいって思う訳だし、本当なら人間を助けて魔族を滅ぼすのが勇者じゃない。そういう観点から言えば私達って悪側よね?」


「まぁ、確かに、俺も既に正義の味方じゃないから問題じゃないっちゃ問題無いんだが。あーそう考えると正義って結局なんなんだって話になってくるよな。はぁ、また悩みそうだ」


「いいじゃない、勝てば官軍、正義は我にありっていうし」


 そんな諺あったか?

 矢鵺歌と正義に付いてああでもないこうでもないとどうでもいい会話を行いながら店を出る。

 まだ時間があるので他の店もいろいろと見回って行くのだが、気のせいだろうか?

 このデートを始める前に比べると互いの距離はとても狭まった気がする。


 思わず肩が触れてお互いを意識した時には、直ぐ目の前に矢鵺歌の顔があって焦った。

 なんか初々しいカップル見た感じの顔をする魔族のおばちゃんがうっとおしかった。

 そんなデートを終えて、魔王城へと帰ってくる。


 ロシータを失った心の辛さみたいなものはそれなりに解消出来たのだろうか?

 あの怪人のさりげなさを出そうと努力していたのは、途中から普通に忘れてたけど、印象は好意的になっただろうか?

 不安だらけのデートは終わり、矢鵺歌は割り当てられた自分の部屋へと帰って行く。


 しばらく謁見の間でボーっとしていると、帰還報告を聞きつけた若萌がやってきた。

 彼女は椅子に座った俺の姿を見て一言。「似合わない」と答えながら側にやってくると、玉座に付いた肘かけに座る。


「どう、デートは?」


「悪くは無かった。でも、俺ってこんなに女性に免疫なかったんだなって実感した」


 正直、もっと自然に肩を抱いたり、アゴくいっと持ち上げキスの一つでも自然にできるかと思ったんだ。あの怪人野郎も普通にやってたし。でも無理だ。俺には無理だ。すぐ隣で女性が歩いていると意識するだけでもうガッチガチである。


 赤らめた顔を見るだけで視線を合わせづらくなる。

 顔を背けてしまうと、もう相手の顔すら見れない状態である。

 ここまで恋愛に奥手だと自分が切なくなってしまう。


「矢鵺歌の方も持ち直せたみたいだし、二人きりにさせてよかったみたいね」


「ああ。でも、いいのか? 俺と矢鵺歌に恋愛感情が生まれたりしたらややこしくならないか?」


「気にしなくていいわ。既定路線だから……」


 既定路線? 疑問を口にした俺だが、話は終わりだと若萌は立ち上がり去っていく。

 俺は椅子に背もたれ、再び虚空を見上げる。

 正義の味方が魔王になった。数奇な運命を思い返し、これから自分はどこへ行こうとしているのか、答えの出ない思考の海に埋没するのだった。

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