矢鵺歌・オブ・ザ・デート2
弓が置かれた場所に来た。
矢鵺歌も今回は真剣に選び始める。
こうして見ると様々な弓があるな。
木の弓にコンボジットボウ。あれはストライプボウか?
鉄の弓に銅の弓、あっちは梓弓か? 小型の弓と大型の弓で扱いが違うらしいんだけど、俺には何が違うのかわからない。ジャスティスアーチャーはアーチェリーの弓が一番扱いやすいとか言ってたけど、矢鵺歌は小型のボーガンタイプが好きらしいし、真っ直ぐ飛ぶ弩弓を探しているようだが、ここは普通の弓しか置いてないようだ。
それでも鋼の弓やら銀の弓など幾つもの弓があり、変わったところではシルフィードという風の精霊シルフを象った弓とか、ウンディーネという名前の水の精霊を象った弓とかがあった。でも属性が付くかと言われるとどうもつかないらしい。何の変哲もないただの弓なんだとさ。世知辛い世の中だ。
「意匠にこだわってるのが多いわね」
「その分高いな。おそらく貴族向けの弓だろう。強度は無骨な奴の方がいいと思うぞ?」
「そうなんだけど……これ、可愛い」
ピンク色の可愛らしい弓。おそらく子供用の弓だろう。
耐久力もそこまで無さそうだが、意匠が気に入ったようだ。
どうやらそれ以外に気に入った弓は無いらしい。
仕方無いのでとりあえず子供用の弓を買って、ディア辺りにこういうのでオーダーメイド出来る奴がいないか聞いてみようという事になった。
郵送で魔王城に送るように店員にお願いし、俺達は手ぶらのまま次の場所へと向かう。
次にやって来たのは防具屋だ。
デートなのに武器屋に防具屋というのはどうなんだろう? と思ったが、ファンタジー世界なのでこういうのもいいんじゃない? と矢鵺歌が嫌がっていないようなのでそのまま防具屋に入った。
「魔族領も人族とあまり変わりないですね」
「ああ、むしろ魔族の方が品質良かったりするぞ。ほら、隕鉄の鎧だってさ」
「流線形の全身鎧……」
少し欲しそうな顔をしている矢鵺歌。やはりこういうゲームをやりまくっているせいか実物には目が無いようだ。
集めたくはあるが自分が身に付けられるものではないので悔しそうに視線を逸らしている。
「この辺りは革製防具、あっちは金属製、向こうは軽装、あの辺りは全身鎧か」
「あっちは盾ね。カイトシールドにスモールシールド、スケイルシールドもあるわっ。見て誠、ゴールドシールドだって! ジュエルシールドとか需要あるの!? あはは、一億って。誰が買うのよこれっ」
いつの間にかテンションが上がっている矢鵺歌さんの声が大きくなってます。
こういう姿は初めて見るが、好きな事を目の前にしてテンションあがる人っているよなぁ。
『矢鵺歌が暴走中。あとでコレぜったいに黒歴史に加わるんだぜ』
黙ってろっての。
呆然としていた俺だったが、ナビゲーターの言葉で我に返ってむしろ冷静になれた。
楽しげに盾を見ている矢鵺歌の元へ向う。
「すげぇなぁ、なんだこの金ぴか」
「えーっと、ダイアモンドを基調にサファイア、エメラルド、紫水晶、オパールなど無数の宝石をちりばめ、中央に魔神ラオルゥの意匠を彫り、胸元にスタールビーをあしらった至高の一品、だって」
二人して興味深げに需要の無い盾を見ながら、しばらく。
あっと我に返ったらしい矢鵺歌が恥ずかしげにこちらを流し見る。
「あー、その、今のは……」
「気にしなくていいだろ別に? 矢鵺歌の一面が見れたってだけだし」
「うっ……なんで私こんなにテンション上がってるんだろ。恥ずかしぃ……」
俺から離れるようにしてカウンター近くのベルト置き場へと向かう。
ベルトというかポシェットというか、作業用腰帯びか。武器を吊るための腰帯びがずらりと並ぶそこは、矢鵺歌にとっても重宝しそうな場所であった。
自分の腰元を見ながら真剣に選び出す。
弓矢を扱うために武器以外の荷物をこの帯で縛ったりして持ち歩くのだ。沢山ぶら下げられるベルトもあるが、見栄えは悪くなってしまう。まさに機能性重視。見栄えを求めるのならどうしても容量は少なくなる。
一番高い宝石使ったベルトはキラキラ光って目立つだけで、実質一つも袋を付ける場所はなく、佩刀用の鞘を取りつける部分が一つあるだけである。
「この辺り、かな?」
無地だがそこまで機能性重視ではなくスタイリッシュな帯を手に取り自分で納得する矢鵺歌。
ちなみにお買い上げの場合金を払うのは俺。魔王様への領収書を切って貰っている。
この買い物は魔王城の財政、つまり国民である魔族の血税で賄っているのである。
うん、いくらでも使えると思うと思わず買い占めたくなるな。
俺の金という訳じゃないんだけど。
まぁ、魔族を潰そうと考えるなら一番楽な方法かもしれない。
金融が立ちいかなくなって滅ぶ魔族か……世知辛い世の中だ。




