魔神たちの暇つぶし
「んじゃぁ、俺はとりあえず自由行動ってことでいいのか?」
「そうだな。余が魔王の仕事をするのであればその分の余裕は好きにすればいい。城下町でも見て来てはどうだね?」
「暇なら各種族を見て来るのもアリだと思うぞ夫よ」
「私は仕事についてもう少しギュンターさんと詰めるわ。折角だから矢鵺歌も連れていってあげて」
「え? 私は別に……」
若萌に促され戸惑う矢鵺歌。少し考え、俺を見る。
「じゃあ、その、よろしく、です」
「ああ。気分転換に少し見て回るか」
「シシーも、シシーも行くッ」
「まぁ、待てシシルシよ。少々聞きたい事があるのだ。暇つぶしに付き合ってもらうぞ」
「ええ――――っ!?」
ラオルゥの言葉に不満顔のシシルシ。しかしラオルゥの方が実力が上なので仕方無く付き合う事にしたようだ。
ちぇっと落胆しながらラオルゥに付いて部屋を出ていく。
メイドが部屋に案内していくのを横目に見ながら、俺はディアに視線を向けた。
「ふむ。ルトラが暴走しないよう、私が見ておきましょう。貴方様の覇道の邪魔になるようであれば消滅させておきますのでこちらは心配なきよう」
「あー、うん?」
ルトラが何気に人生の危機迎えてる気もしなくもないけど、能天気馬鹿のように高笑いしている彼はおそらくそんな事には気付いていないだろう。
街の探索から戻った時、彼の姿がありますように、とルトラを拝んでおく。
「ところでギュンター。書物などはありますか? 最近は館から出ておりませんでしたので最近の本がどのようなものか興味が付きません」
「ディアリッチオ様の知らぬ書物があるかどうかは疑問ではありますが、地下書庫でしたら我が城にございます」
ディアはギュンターに地下書庫の場所を聞き、ルトラの首根っこひっつかんで向って行った。
あとはユクリなんだけど、彼女はギュンターに付き従って仕事を覚えるようだ。サイモン、コルデラともに魔王の仕事を少し覚えるために一緒に残るようだ。
つまり、矢鵺歌と二人きりで魔王城城下町を探索するってことになるのか。
気付いた矢鵺歌がこちらに振り向く。俺も困った顔で彼女を見る。
と言ってもスーツ姿なので困った顔は見られる事はないのだが。
「でも、私も誠も城下町についてはあまり知りませんよね?」
「いいじゃない。せっかくだからデートでもして気分転換しなさいな。ロシータさんが生存している可能性が出来たとはいえ、精神的負担はかなりあるでしょ」
若萌の言葉で俺は気付いた。
確かに矢鵺歌の心労はかなりあるだろう。
何しろ真名を奪われ俺達を襲い、その悔恨から単身魔族領に飛び込んで来たのだ。ロシータの話では死ぬまで放浪していたともいうし、その後はロシータ拉致で怒りのままムーラン国まで移動した。
あの時の矢鵺歌の恐ろしさはさすがにちょっと引いたくらい恐ろしかった。
殺意を向けられた玲人は俺の覚えた怖さ以上の恐怖だったことだろう。
ともかく、知らず心労が溜まっていてもおかしくないようだ。
つまり、俺に求められているのは矢鵺歌の心のケアということか。
できるだけ優しく接した方がいいな。
『お前に出来んのかよ? 童貞君』
煩いよ武藤。と言いたいところだが、悔しいが貴様の方が女性経験においては俺の数段上を行くことは確か。悔しくはあるが背に腹は代えられん。
武藤、貴様の手練手管、真似させてもらうぞ。
俺は武藤が行っていたさりげない気配りを思い出す。
例えば、女の子と歩いている時、ちょっとした段差でも相手の手を引いていたり、ドアは自分が開けて女の子を先に通していたりと、さりげなく自然に行っていた紳士的行為。
咄嗟の時に自分が前に出て引っ張っていくリーダー行為。
どれも意識せず行ってやがった。ソレを見る度にあの野郎ッ。とイラつきを覚えたモノだ。
そうやって当然といった動きをするので不自然さもまったくなかった。
自覚のない動きなので女の子もこいつ私を狙ってる? みたいに思う事も無く、きっとアイツの側にいると安心感を覚えたことだろう。
それを、俺はぶっつけ本番で意識してやることになる。
流石にワザとというのは見破られるだろう。それでも俺が嫉妬に駆られた動きを模倣するだけだ。
そうやって出来るだけ矢鵺歌の心労を取り払えればと思う。
「じゃあ、行く?」
「そうだな。一応先に聞いとくけどどこか行きたいところはあるか? あれば優先して回るよ?」
「いいえ。こちらの城下町は初めてだから何処に何があるかも分からないし、行き先は任せるわ」
「分かった、じゃあ行こうぜ」
ちなみに、今のも武藤の真似だ。あいつは大抵女性の行きたいところをさりげなく聞き、行きたいところを把握しておく。アイツの場合はどこでもいいと言う女性が本当に行ってみたい場所を語調から把握していたようだが、俺にはそんな高度なテクニックはできないのでとりあえず行きたいところが無いと言うのであればいろいろと適当な場所をうろつくことにしよう。なにより俺だって城下町歩くのはほぼ初めてみたいなものだし。




