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外伝・勇者の報告

「……以上が、僕が対面した状況になります」


 大悟は謁見の間でなんとか告げ終えた報告に一人安堵する。

 目の前には国王と、隣に侍る愛しき王女。


「どう思うソルティアラ?」


「いろいろと問題はありますが、この国が一番の問題にあげるべきは魔王との交渉でございますわお父様」


「やはり、そこか」


 国王とソルティアラは同時に顎に手をやり考え込む。

 考える仕草が同じの親子を見ながら大悟は心の中で苦笑する。

 王女の考える姿も綺麗だなぁ。そんなどうでもいいことを思っていた。


 そんな大悟など気にも留めず、国王とソルティアラは同時に同じ考えを張り巡らせていた。

 大悟の報告によれば、勇者の殆どが生存しており、魔族領で暮らしていたとのこと。

 さらに誠、今はジャスティスセイバーを名乗る勇者はなぜか現魔王を退け自分が魔王の座に付いたのだと言う。


 魔族に助けられたことでムーラン国まで助けに向った矢鵺歌。二人と行動を共にする若萌。

 この三人はほぼ確実に魔族側に付いたとみていいだろう。

 折角人間側の勇者として召喚したというのにその半分が魔族に鞍替えしてしまったのだ。

 正直ここまで上手くいかない状況になるとは思っていなかった。


 さらには魔王軍としてムーラン国で確認された魔族たちも問題である。

 魔王ギュンター。その娘ユクリティアッド。この二体はこの国でも確認済みだ。

 全人間国に喧嘩を売ったギュンターとその娘の情報は、人間族にとって周知の事実とも言える情報だからだ。まぁ、王侯貴族限定であるともいえるが。


 だが、現れた魔族はさらに凶悪な者しかいなかった。

 古文書にしか載っていないような、こんな魔族も居たという程度の書物に載っていた古き者たちが復活していたのだ。

 否、封印状態だったものをジャスティスセイバーが解き放ったのだという。

 つまり、新たに生まれた魔王は魔王ギュンター以上の脅威であると確信できるのだ。


 何しろ紳士なる狂公、破滅の魔眼公、無垢なる虐殺姫、殲滅の魔狂帝という二つ名だけでも震えあがりそうな凶悪な魔族を従えてしまっているのだから。

 一体一体が現状存在する人間の誰も敵わない、否、手が届くかどうかすら分からないレベルの存在なのだ。

 一体屠るだけでどれほどの犠牲がでるのか、もはや趨勢など闘う前から決したといってもよかった。


 だが、好機でもある。

 何しろ魔王が人間寄りのジャスティスセイバーなのだから。

 魔族の暴走は気をつけねばならない懸念事項ではあるが、今回向こうから和平を結びたいと言って来たということであれば、こちらもそれに乗ってゆっくりと内部から腐らせていけばいい。

 そして脆くなった土台ごと諸共に押しつぶしてしまえばいいのだ。


 同時に同じ結論に達し暗い愉悦を浮かべる国王とソルティアラ。

 こちらを見ている大悟に気付き即座に笑みを引っ込める。

 一応、大丈夫だろうかとチラ見したソルティアラだったが、ぼぉっとソルティアラを見つめる大悟の顔はどう見ても恋する瞳で曇った少年の目だった。

 どうやら今の笑みは見てなかったか、見ても無かったことにされたようだ。

 あるいは、あの笑みすらも可愛い仕草とでも思われたのかもしれない。


 ならば好都合。ソルティアラはクスリと微笑んでさらに思考を巡らせる。

 魔族との友好を結ぶか否か。どちらを行うかの結果までを考え、周辺国家の反応を考え、最も効率的な一手を模索する。


「ふむ。それでは魔族への返事は……」


「大悟と共に私が参りますお父様」


「ソルティアラ? しかし……」


「お父様と同時進行を行いましょう。各国に召集を掛け人間国だけで集会を開くのです」


「……なるほど。そう来たか。やるではないかソルティアラ。くく、これは面白い事になりそうだ」


「魔族との交渉がどうなるか、その結果次第にはなりますが、面白い事になりそうです」


 ならば、と二人は次に思考を切りかえる。


「ムーラン国の難民についてだな。国王が庇護を求めて来たが、さてどうするか」


「真名を頂き我が国で過ごして戴くのがよいでしょう。王侯貴族は率先して空いている土地を与えてやればいいのです。別に庇護を求めて来ただけですし、平民と同じ扱いでも文句は言えないでしょう」


「成る程、嫌がるのであれば別の国に行かせられるか」


「邪魔なプライドを持つ貴族とそうでないモノの選別にもなります。数日過ごさせた後不満なくしっかりと働いているモノがあれば取り立てるのもありでは?」


「よいな。平民共の難民は城門前にテントでも張ってやるか」


「場所が無いのでと言って配給をしておけばよいでしょう。余裕があるのならば城門を広げて人足を増やす事も出来ますが」


「その辺りも今度の集会で話して来よう。各国の中には人手を欲している者も居よう。恩を売っておいて損はない」


 そう告げて、二人は再び黒い笑みを浮かべ合う。

 そんな二人を見て、親子だなぁ。とふんわり目を細める大悟であった。

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