初めての帰還
「テメェ、何処行ってたんだよ!」
森から出た瞬間、見つけたっ。とばかりに玲人が食ってかかってきた。
「森の中だが、悪かったのか?」
「悪いに決まってんだろが、いきなりパーティー反応が消えて焦ったぞ。兵士のおっさんどもが死んだとか騒ぎだしたし、俺らのレベルが一気に6まで上がったし!」
え? 6? 俺のレベル14なんだけど。
あ、そうか。パーティー途切れた後に戦ったからその経験値が全部俺にだけ入ったのか。
「どうやらパーティー編成には有効範囲があるみたいね。早めに知れて良かったと思いましょ。でも、単独行動は感心しないわ」
若萌もやって来て窘められる。
なぜだろう。彼女に苦言を言われると素直にすまないという気持ちになってしまうのは?
頭を掻きながら集まっていた他の面々のもとへと向かう。
「そろそろ帰るってさ」
「はーやっと終わった」
「ご無事で、なにより……」
大悟、MEY、矢鵺歌の順で俺の横を通り過ぎて街へと戻る。
兵士さんの話では、レベル5以上になるまでもっと掛かると思っていたらしい。
明日には別の門にいけるようだ。
門番の横を通り抜け、僕らは再び街へと戻ってきた。
といっても下町の空気に皆がまたうっと呻く。
そう言えばここ臭かったんだっけか。
そんな臭い下町の入り口付近に薄汚れた兄妹が立っている。
そう言えばこの二人、朝出る時も見掛けたな。
物乞いというわけではない。
兵士達も素知らぬ顔で彼らがうろついているのを放置している。
「少し、いいか?」
俺は兵士の一人に声を掛ける。
当然ながら歴戦の戦士風のおっさんの方だ。
「なんだ?」
「あの二人は朝もこの辺りで見掛けたけど、何をしてるか知ってるか? 普通不審な動きをしてたら兵士が注意しそうなもんだけど?」
「ああ、君の居たところにはいないのか? あれは国名係のアルバイトだ」
「国名係?」
「ここはゲネルグヴァーズ王国です。この台詞を旅人に告げるのが仕事だ」
なんだそれ?
「どんなに話しかけられてもそれ以外喋ってはならない。しかし一日中の仕事だからな。稼ぎは良いらしいぞ。下町の子供でも数日生きられるくらいの金が貰える」
な、なるほど、ただ国名を教えるだけでも収入になるのか。
「へー、なぁクソガキ、喋ってみろよ」
「ここはゲネルグヴァーズ王国です」
「他に喋れねーのか?」
「ここはゲネルグヴァーズ王国です」
「マジでそれしか言わないのかよ」
「ここはゲネルグヴァーズ王国ですっ」
なんか、嫌な客に絡まれて泣きそうな酒場の店員さんみたいに涙目の少年。
俺はそっと玲人を彼らから引き離した。
「あ、こら、もうちょと遊ばせろよ」
「止めてやってください。別の言葉を喋った瞬間、もう二度とあの仕事が出来なくなるのです。彼らにとっては死活問題ですよ」
「そうなの? あはは玲人ひとでなしー」
「ンだとMEY。テメェだってやりたそうにしてたじゃねぇか!」
「バッ、ンなわけないっしょ。MEYやさしーし!」
MEYと玲人がぎゃあぎゃあわめくのを聞きながら中流街へとやってくる。
この辺りは男爵家やら城勤めの兵士の家族やらが住んでいるらしい。
下町には無かった下水用水路が張り巡らされている。
しばらく進むと上位貴族のいる上街だ。貴族同士なので中流街との関はないようだ。
ただ、建物の大きさと広さが段違いで分かりやすい変化はあるけれど。
にぎわう大通りは様々な人や馬車が行き交っている。
おお、ラクダがいる。でも三つ瘤だ。
城に戻って休息。
皆で一室に集まり、今日の成果を話し合う事になった。
それでも兵士達が数人付いて来てたけど、これは俺らの安全のためもあるらしい。ただ、監視されているせいか不用意な事を言ってしまわないか緊張はしてしまうのだが。
組織という物を幾つも見てきたせいか、どうにもこの国を信じ切れないんだよな。
だから、俺のステータスはあまり見せない方がいいだろう。
一人突出したと知られれば何言われるかわかったもんじゃない。
「とりあえず、僕らはにっちゃう相手に闘う術を覚えた訳なんだけど、その間森に消えた君はなにをしてたのかな?」
「ああ、えーっとパンチャーラビットとかいう魔物が出たから倒して、鹿の魔物追ってたんだが、気が付いたらパーティー編成が切れてて慌てて引き返したってところだな」
他の魔物に出会って倒したことは全て伏せておいた。
大悟と玲人はこれを信じたようで、間抜けだなとか笑っていたが、女性陣は無言だった。
まぁMEYの奴はネイル直すのに集中していたけど。
とにかく、俺たちは兵士達の思惑を良い意味で裏切り、早々に次の戦場へ向う事になった。
目標としてはこの国周辺で20レベルまで達せれば次の段階に移るんだとか。
俺は……出来れば単独行動をしたいな。できるだけ彼らが20レベルになるまでにレベルを上げておきたい。何をするにしても強くなっておいた方が良さそうだしな。