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消えた王国

「ところで矢鵺歌さん。真名を自分に掛けることができること、知っておりますか?」


 ふいに、地面にしゃがみ手を翳していたディアが立ち上がった。

 質問の意図が掴めず矢鵺歌が怪訝な顔をする。


「真名を自分に? 自分で自分を縛るってこと?」


「通常であればソレを行った事で自身を縛ることはできません。しかし、たった一つだけ、自身に命令出来る真名命令が存在します」


「それが……なんなの?」


「どうしようもなく身動きをが取れなくなり、真名も他者に知られ、もう操られるか死ぬしか道が無くなった場合、相手に自分を渡すくらいならばと、たった一つの命令を、自身で命令出来るのです。すなわち……」


 その瞬間、矢鵺歌はディアが何が言いたかったのかを理解した。


「自……決?」


「自分で条件付けをして、このような条件を満たせば肉体すら残さず強制的に死ぬ。自分で自分に命令出来る唯一の命令です。一応解除は出来ますが、これを行うということはそれ相応の覚悟をした者であるため余程の幸運で生還でもしない限り……」


 矢鵺歌から力が抜けた。

 よろよろと牢屋へと近づき、ディアの側へと向かう。

 牢屋内に残されたロシータの服の前に辿りつくと、膝を折って座り込む。


「じゃぁ、この、残されたのが……ロシータの形見?」


 たった少しの時間だった。

 嫌な予感がして、若萌たちについて行った。それだけの時間だ。

 もしも、家に居残っていたならば……否、それでは意味がなかっただろう。ロシータと共に囚われ、自分も同じように自決していたに決まっている。

 ならば、そうだ。あの時ロシータも一緒に連れて来ていればっ。


「私が、私が一人で外出なんかしたから……っ、あの時ロシータを連れていればっ」


 今更な話だ。そもそもロシータを連れ出す理由も無かった。

 自分が助かっただけでも幸運だった。

 でも、それでも矢鵺歌は許せない。


 ロシータを連れ出した玲人を。

 ロシータを救えなかった自分を。

 ロシータが死なねばならなかったこの世界を。


「ああ、あああああああああああああああああああッ!!」


 立ち上がると同時に振り向く。

 呆然と矢鵺歌を見つめていた玲人に向け、躊躇いなく矢を撃ち放つ。


「玲人様ッ!」


 だが、一瞬早く玲人を守るように庇う女が一人。


「エル……パシア?」


 背中から矢を受けた女は玲人を庇い切り必死に力を入れて玲人を抱えあげる。

 御姫様抱っこされた玲人を手に、ふらつきながら逃げ出すと、入れ違うように王女とその付き人達が牢屋内へと雪崩込んで来た。


「エルパシア、玲人様を早く逃しなさい! 勇者大悟、そして他の勇者どもよ、この国に置いてはあなた方を国王陛下と勇者への弑逆罪として今ここで捕縛しますわ!」


「お、おいおい、正気か王女様……おい玲人、イイのかコレ?」


「良いも悪いもあるかっ! 覚えてろよ誠! テメェら全員殺してやる。女どもはレイプして精神壊してから殺してやるからなッ!」


「いや、そういう訳じゃなくて、いいのか玲人。止めるなら今のうちだぞ。お前のせいで国が滅ぶぞ」


「は?」


 意味が分からず呆然とする玲人。そんな彼をエルパシアが連れ去り階段を上がっていく。

 結局、彼は王女の暴挙を止めることは出来なかった。

 目標を見失い弓を投げ捨てる矢鵺歌を横目に見つつ、俺はルトラに視線を送る。


「人死には出さないようにしてくれ。後の交渉が面倒になる」


「ふん。ようやく遊べる訳か。こんな城一瞬だがな。久々に全力を出させて貰うぞ。クク、ハーッハッハッハ。さぁ、見るがいい愚かなる人間共。貴様等が敵対しようとした存在が何者であるのかを! 我が名は第389代魔王殲滅の魔狂帝であるぞ、頭が高いぞ俗物どもがっ!!」


 強烈な魔力の奔流が吹き荒れる。

 王女は一瞬で後悔した。

 自分たちが敵対しようとした存在、それこそが魔王であったなどと、夢にも思わなかっただろう。


 ただ、ふと思う。今の魔王は400数代目ではなかっただろうか? と。

 だが、次の瞬間そんな些細な疑問は魔力の暴虐と共に吹き飛んだ。

 世界が一瞬白濁化する。

 次の瞬間、王女たちは外に居た。


「……え?」


 瞬間転移? 初めに思ったのはソレだった。

 周辺一帯は荒野となっており、地下牢の床がかろうじで残っているだけ。

 階段を上って逃げていただろうエルパシアが空から降って来て地面に落下、尻餅を付いて痛みに呻いていた。


 それだけじゃない。

 次々と空から降ってくる人、人、人。

 この国の王様だって座った恰好のまま地面に落下して来る。


「やれやれ。御仕置き確定ですな」


「全くだ。少しは考えろ阿呆め」


 ディアとラオルゥが魔力を展開して二階、あるいは三階以上の場所から落下して来る人々の落下速度を緩和する。


「なに……が?」


「あはは。これは凄いねー。シシーにはできないよルトラちゃん。無機物だけ消し飛ばしたの?」


「ふっ。この僕様にかかれば人だけを生かし生活拠点を破壊する事など造作も無い。さぁ人間共よ。僕様の脅威に怯えながら原始生活を送るがいい。ハーハッハッハッハ」


 まぁ、その発想を実行できる実力は凄いのだけど、結局ディアとラオルゥがいなかったら大量虐殺だからな。

 よし、後でルトラは御仕置き確定だな。サイモンと同じ御仕置きにするかどうか真剣に考える俺だった。

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