外伝・共同戦線
「来たか……」
先日エルフから奪い取った森に急造した砦で、大悟はそいつの到着を待っていた。
浜崎玲人。自分と同じく勇者として召喚された存在だ。
いつの間にか大悟の居た国から消え去り、別の国の勇者として共同戦線を持ちかけて来たらしい。
「よぉ、久しぶりだな大悟」
「玲人……そちらは?」
「あ? ああ、俺の護衛部隊だよ」
両側にくっついている女性兵の腰に手を回した状態で歩いて来た玲人。その背後にも女性兵が3人付いて来ている。
このむさくるしい砦には不釣り合いなほど綺麗どころが揃っている。
だが、その全員が玲人の護衛なのだそうだ。
「能力を、使ってるのか?」
「最初だけだ。後は真名を聞いて奴隷兵士にしてんだよ。お前はまだ姫様の尻追っかけてんのか?」
「最悪だね。女性の想いは無視なのか」
「はっ。女の意思? 顔の綺麗さで優劣付けて男が寄ってくれば金を蝕んでバックやら化粧品やら高いモノ貢がせようとしてくるだけの奴らだろ。こっちは身体だけが目当てなんだよ。あんな奴らの想いなど不要だ。こいつらも俺に尽くすためだけの存在にしてやったのさ」
思わず剣の柄に手を掛けそうになった大悟はぐっと怒りを飲み込む。
こんな奴だったのか僕の知り合いは?
玲人への仲間意識は一瞬で消えた。
もしもこれが外交のかかっていない状況でさえあれば、今の瞬間にも玲人に斬りかかっていただろう。
だが、ソレをしてしまえば姫に迷惑がかかってしまう。
「潜入作戦じゃちぃっと邪魔になるが、前日と帰って来た時の俺の性処理に呼んだんだ。テメェら手を出すんじゃねぇぞ? 他の男に犯されたら自殺するように命令してあるからな。そんときゃ国同士の戦争だ」
女性陣の姿にごくりと生唾飲んでいた兵士たちが違う意味の生唾を飲み込む。
「んじゃぁなぁ大悟。明日からはよろしくなぁ相棒」
「ぐぅっ、あ、ああ、よろしく」
悔しい? そんな思いは湧かなかった。ただ、許せない。いつかは玲人も倒さねば人族にとっての迷惑になる。アレは生かしておいてはならない存在だ。
全ては姫のために。姫が操られない内にあいつを殺しておかないと……
自分に割り当てられた部屋へと去っていく玲人の後ろ姿を見ながら、大悟は静かに決意した。
少しずつ、溝は深まっていく。
勇者たちはバラバラに、無数の悪意によって互いに争うように動き始めていた。
魔族領への侵入は容易かった。
少人数での潜入だ。魔族に見つかる危険も少なく、勇者が二人もいるためか戦闘になってもこちらの圧勝であった。
アタッカーの大悟と後衛の玲人。思うところはあるのだろうが、最初の数日で互いに組んで戦ったのだ相手の動きが分かっているぶん連携は他の兵士以上に高い。
大悟側からは騎士団長ベックナーと二人の兵士、玲人側からは護衛としてやってきた近衛騎士団エルパシアとメリッサ。他のメンバーは砦で帰りを待つらしい。
大悟側と玲人側はそれぞれ独立していて、戦闘こそ協力するものの、道中の会話はなかった。
「大悟殿、そろそろ森が途切れます」
「ああ。ここから先は魔族の蔓延る大地だ。皆気を引き締めてくれ」
「だとよ。エル、メリー、気ぃ付けろよ」
「了解」
「わ、わかりました」
エルパシアは任務と割り切ったようにコクリと頷き、メリッサは不承不承頷く。
メリッサの方はあまり乗り気ではないらしい。魔族領に少人数で乗り込むのだから当然か。
大悟は自己完結で納得しつつ森を抜ける。
赤茶けた荒野が広がっていた。
少し遠くに街のようなモノが見える。
魔族領に街?
「ベックナーさん。この辺りはずっと前から魔族領なんだよね?」
「その筈です。しかし、ここ数百年ということですのでさらに前の時期にはもしかすれば侵略される前の街が存在したのかも」
「ということは、数千年くらい前はこの辺りも人族領だった可能性もあるのか。その建築物を占領して我が物顔で生活しているってことか?」
「アホだろ大悟。魔族もアレくらいの街を作れる。そう考える方が普通じゃね?」
「煩いっ、そ、それくらい考えてたよ!」
玲人に指摘されイラッとした顔で大悟が口調を強くする。
「どうだか。しかし、街っつーことはあそこに大量の魔族がいるってことだよな」
そんな大悟を鼻で笑って玲人は口角を釣り上げた。
皆がゴクリと息を飲む。
沢山の魔族がいる。そんな場所に、たった7人で挑むのだ。
「作戦はあるか?」
「まずは兵士を何とかしましょう、二手に分かれ、片方が陽動、町に火を放ちます」
「火消しに追われたところで別働隊が潜入か。だがよ、誰が火を放つってんだ? 俺の魔法は闇だぜ?」
「こちらの兵士が簡単な魔法を使える。我々で陽動を行おう。勇者様方は別働隊でお願いします」
ベックナーたち三人がそう言って行動を開始する。
元々彼らは陽動に回る予定だったのだろう。
大悟と玲人、そして玲人の取り巻きを残して逆側の門へと向かって行った。




