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外伝・侵入作戦

「侵入作戦?」


 大悟は姫からの言葉を聞いてオウム返しに答えていた。

 巨大なキングサイズの天蓋付きベッド。これはこの国の姫である彼女の部屋にあるベッドだ。

 今、彼ら二人はベッドに入り込んだまま、寝物語として話をしていた。

 その内容はこれより後に行われる魔族領侵攻作戦。


「ええ。それも他国との合同」


「大丈夫なのか? 嫌だぞ僕、背中から刺されるの」


「大丈夫よ。参加する代表者の一人が知り合いだから。貴方が刺されることは無いわ、多分」


「知り合い?」


「ええ。勇者玲人」


 大悟は驚いた。

 彼の記憶では玲人はまだこの国に居たはずなのだ。

 いつの間に他国に身を寄せていたのだろう?


「私もつい最近知ったのだけど、かなり巨大な権力を持った公爵夫人に取り入って他国に逃亡したようなの。そんな彼がその国の勇者面してこの国との共闘を持ちかけて来たわ」


「どういうつもりなんだ?」


「ソレが分からないから、父は貴方の派遣を決めたの。共に魔族領に侵入して、魔族の生態を調べ、崩せそうな場所を探って来てほしいって」


 あまり行く気にはならないが玲人が関わっているとなると捨て置けない。

 たった一人生き残った勇者の仲間なのだ。

 ぜひとももう一度会い、話をして国のために一緒に働いてほしい。

 例えいけすかない相手であろうとも……


 想いを胸に、ネグリジェ姿の姫を抱き寄せる。

 いけませんと告げる姫だが抵抗は無い。

 彼女と一緒に居られる。それだけで大悟は幸せだった。


 他の何もいらない。ただ彼女が嘆く事があるならば、その全てを命を賭して排除しよう。

 勇者である自分に出来ることはそれだけなのだ。

 だから、気付かない。

 抱きしめた姫の顔が醜悪に歪んでいることを。


 溺れよ勇者。

 偽りの幸せにまどろみ全てを見失え。

 そう告げるように、姫は黒い笑みを浮かべ、彼に悟られぬよう表層の奥底へと隠して行くのだった。



「では、向こうの国の砦から向うという事で?」


「ああ。言っただろ。俺はお前達の味方だ。奴らが隠したい情報だろうが普通に報告してやるとな」


 玲人はニヤリと笑みを浮かべ、国王に告げた。

 不遜な態度の玲人だが、この国では比較的重用されていた。

 姫のお気に入りということもあり、別の国から移籍して来た、その国の秘密を知っている玲人は、この国からすれば涎モノの逸材だった。

 裏切りの心配はあったが、女性好きという分かりやすい性格も幸いし、比較的操り易しと懐に引きいれることにしたのである。


 結果は、正解だった。

 彼は本当に前に居た国に嫌気がさしていたらしい。

 この国で大いに働き実力を示し、見事に王の信頼を勝ち取った。

 今回の魔王領侵入作戦を提案したのも彼である。


 玉座を後にし、玲人はこの国の姫の間へと向かう。

 大悟と違い、彼は自分からがっつくことはない。

 魔眼により落とした女性を侍らすのが彼のスタイルだ。


 王女の部屋には既に魔眼で落とし真名を奪った女が四人。

 いずれもこの国の貴族の娘で、父親も喜んで差し出してきた安全な娘ばかりだ。

 あまり危険な場所に手を出して足元を掬われるのを嫌った玲人が選んだ四人であった。

 これに王女を加えた五人が、この国で玲人が手に入れたハーレムである。


「どうでしたか?」


「アホな王で助かるよ、お前の父親は。完全に俺がお前らのためにあの国と交渉して来たように勘違いしてやがる。俺が魔族の女を奴隷にしたいがためだけの遠征だなどと考え付きもしないだろうな」


「ふふ、酷いお方」


 眼をハートマークにしながら告げる姫がしなだれかかる。

 乱暴にベッドに押し倒し、玲人は自分の額に手を当て見下すように嗤う。


「見てるか誠ォッ! テメェは死んじまったらしいがなぁ、俺はこうして生きてる。大悟のように操られ傀儡になってるわけでもねぇ! 俺が勝ち組だ。男の中で俺だけがなぁ! ああ、残念だ。生きてりゃ若萌もMEYも矢鵺歌も俺の女にしてやれたのになっ。クク、ハーッハッハッハ!!」



 若萌と会話を終えた矢鵺歌は不意に、ぶるりと背筋を這う何かに震えた。

 得体の知れない悪寒。それだけじゃない。近いうちに何か嫌な事が起こりそうな謎の悪寒。まるで虫の知らせのようだ。


 若萌が帰ってくると、誠たちも腰を上げて帰り支度を始める。

 ロシータが泣きじゃくりエルナンドに慰められていたのだが、一体何があったのか矢鵺歌は聞くことは止めておいた。世の中には知らない方がいいこともあるのだ。


 見送りに出ようとした矢鵺歌は、しかしなんとなく嫌な予感が拭えない。

 このまま彼らを見送るのはマズい。そんな気がするのだ。

 久しぶりに会えた若萌ともう少し一緒に居たかったのもある。


「誠、いえ、今はセイバーだったわね。そちらの宿にちょっと寄ってもいい?」


「矢鵺歌? 別にいいけど、このメンツだけど大丈夫か? 気を抜くと死ぬぞ」


「大丈夫だよ赤いおぢちゃん。シシー人間弱いって分かってるから許可なく知り合いで遊んだりしないよ?」


 シシルシの場合知り合いと、ではなく知り合いで遊ぶらしい。

 ちょっと引き気味の矢鵺歌だったが、ロシータに連絡を入れてから魔王達の馬車に乗り込む。この選択が、後の彼女の未来を左右していたなど、この時の彼女は欠片すら気付いていなかった。

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