若萌と矢鵺歌2
「旧魔王ギュンターだ」
「新魔王のジャスティスセイバーだ。改めてよろしく」
「ギュンターの娘ユクリティアッドである。セイバーの妻になった」
俺達が復活したロシータと対面して自己紹介をしている最中。ユクリが爆弾を落としてきた。
え? と矢鵺歌が驚いた顔をしているが、察してくれ。こいつが言ってるだけなんだ。
若萌が苦笑しているのに気付いてああ、成る程。といった顔をしたので多分大丈夫だろう。
「私は若萌。矢鵺歌と同じく人間族に召喚された勇者の一人よ」
「矢鵺歌から聞いているわ。矢鵺歌が酷いことしてしまったと嘆いていたわよ」
本題については既にエルナンド経由でロシータに伝わっている。
若萌が矢鵺歌と話したいということで連れて来たのだ。
なので若萌と矢鵺歌は二人きりになって貰って積もる話でもして貰おうと思う。
二人はエルナンドの勧めで矢鵺歌の自室へと向かって行った。
そして、地獄の耐久時間がやってきた。
「初めましてですかね? ディアリッチオと申します。北の古き者と呼ばれておりました」
ディアの言葉でえ? とロシータとエルナンドが固まる。
噂で聞いたことがあるのだろう。
「うむうむ。次は我だな。我が名はラオルゥ。魔王城に封印されておった魔眼公である」
と、何故か俺の背後から首に腕を回して頭の上に胸を乗っけて来る。
やめろ。ちょっと柔らかい。やっぱそのままで。
「シシーはねぇ、シシルシっていうんだよ。南の祠から赤いおぢちゃんに連れ出されたの、よろしく」
よろしく。のところだけ深淵が覗くような眼でロシータを見てにたりと笑みを浮かべるシシルシ、威嚇してやるな。ほら、漏らしちゃってるじゃないか。
「僕様は……」
「お姉ちゃんが粗相してる。ペットでもちゃんとトイレに行くんだよ? ほら、着替えて着替えて」
シシー、もしかしてワザとルトラの紹介潰した?
イラッとしたルトラだが妨害したのが自分より強いシシルシなので反抗出来ずに顔を引くつかせるだけしかできていない。
エルナンドに連れられロシータは泣きながら衣装替えに向ってしまった。
「うぬれシシルシ! 貴様なんの恨みがあって僕様の自己紹介を妨害した!」
「えー? ルトラちゃんの妨害なんてしてないよー。ねー赤いおぢちゃん?」
俺に振るな俺に。
困った俺はディアに視線を向ける。
ディアは俺を無視してお茶を嗜んで居やがった。
『それで、俺らって何しに来たの?』
当然矢鵺歌と若萌の会話が終わるまでここで待機するためだ。
ああ、ただの暇人だよ。どうしよう何もする事が無い。
「と、とにかく、お口に合えばいいのか分かりませんが、摘まめるものをご用意いたしました」
エルナンドが先に戻り俺達の前に茶菓子を置いて行く。
空になったディアのティーカップには新しい紅茶が注がれようとしている。
ただ、紅茶を入れているメイドさんの手が物凄い震えているのがちょっと怖い。
「恐れる心配はございません。いつも通りにすればいいのです。ただの客。貴女がやるべきことはただお茶を入れ下がる。それだけでしょう、まずは落ち付きましょう?」
ディアが控えめに告げる。物凄い笑顔なのだが、なぜだろうな? 粗相するなよ貴様? と全身からオーラが立ち上っているようにしか見えない。
結局見かねたエルナンドがメイドを下がらせ自分でディアのティーカップに紅茶を注ぐ。
流石にお嬢様専属執事というだけあってなかなかに手際は良い。若干震えているのは御愛嬌だろう。
着替えを終えたロシータがやってくる頃にはシシーとラオルゥ、ユクリによりお茶菓子がほぼ空になってきたところだった。
やはり女性は甘いモノが好きなのだろうか? いや、ルトラとディアもちょいちょい摘んでいたから皆結構気に入ってるんだなこの茶菓子。
俺? 変身中だから普通に食べれないよ。食べる必要もないみたいだしな俺は。
「遅れまして失礼いたしましたわ。魔王陛下におきましてはご機嫌麗しゅう」
先程の粗相は無かったことにしたらしい。
今来たとばかりにお辞儀するロシータ。
今回の雑談はシシーやラオルゥを参加させずにギュンターに任せた方が良さそうだな。
俺の視線に気付いたようでエルナンドがメイドに指示して新しい茶菓子を持ってこさせる。
これで女性陣は黙らせられるはずだ。あと何気にディアも結構食べるよね。
代わりに暇を持て余し気味なのがルトラ。何もする事が無いので俺の横に座り込み貧乏ゆすりを始める。
腕組んでふんぞり返って片足を胡坐みたいにしてもう片方の足に乗せながらの貧乏ゆすり。滅茶苦茶目立つし、その顔がむすっとしてるのでロシータとエルナンドがなんか粗相しちゃったかな? と凄く不安そうにおろおろしだす。
「チッ、僕様は暇だぞ魔王。そうだそこの雑種、僕様を楽しませろよ。なんか踊れ」
いきなり暴走した我がままショタっ子はロシータに無茶振りした。
どうする? ロシータ。




