魔王の視察4
ロシータの屋敷を後にした俺達は街中を視察していく。
普通の生活を行う魔族というものを見ていくのだが、なんだろうな、人間と殆ど変らない気がする。
ただ、所々で魔法が飛んだり、魔族自身が飛んでたりする程度。あとはサイズの違いくらいか。
「ふむ。下々の暮らしはあまり見たことは無かったが、こんな暮らしをしていたのだな」
「そう言えばルトラは元魔王だっけか?」
「うむ。あまりこういった光景は見たことは無いのだが、雑種の営みというものも面白そうではあるな。まぁ僕様には不要な長物か」
子供らしき魔族が数人遊んでいる光景を見ながらふっと笑う。
その背後に忍び寄る男の子が一人、両手を組んで人差し指と中指を合わせ、きらりと眼を光らせる。
俺とシシルシは無言でそっと横に避けた。
「しかし、雑種の餓鬼どもは元気だな。何が面白くてあんな……ほごぉぅっ!?」
その瞬間、物凄い衝撃がルトラを襲った。とだけ言っておく。
少年は事を終えるといえーっと勝利宣言しながら走り去っていく。
後には尻を押さえて悶絶するルトラが口から泡を吐いて痙攣していた。
「凄いね、あの技は初めて見たよ。シシーも覚えようかなぁ」
「頼むから覚えないでくれ。ズボンとパンツを打ち破って届くような一撃食らったらディアリッチオでも悶絶しかねんぞ」
「あは、それ面白そう。でも後が怖いからやめとく~」
ころころと笑うシシルシ。この可愛らしい少女がレベル四ケタのバケモノだと言う事が信じられない事実である。
「殺す……」
ようやく復活したルトラが立ち上がる。
「殺してやるぞクソ餓鬼がぁぁぁッ!!」
刹那、濃密な魔力がルトラから溢れだす。
遠くで様子を窺っていた少年は自分が何に悪戯をしてしまったのか、ようやく気付いて恐怖に震える。肌が緑色なのはゴブリンか何かの種族なのだろう。
喉から卵を吐き出すどっかの星の人ではないはずだ。
掌を上へと向けるルトラ。その上空に、漆黒の球体が形作られて行く。
もはや周囲の驚きなど完全放置、先程の子供を抹消する事しか頭に無いらしい。
ブチ切れたルトラが魔法を放つその刹那。
「はい、ど~んっ」
「ほぐぉふっ」
背後に回ったシシルシの浣腸攻撃がルトラを襲った。
短パンとパンツが消し飛び衝撃波が周囲の家をビリビリと揺るがす。
駆け抜ける衝撃波が怯える少年の所まで届く頃、魔力を消失させたルトラが声も無くどさりと倒れた。
「お、おいおい……」
「うーん、軽くやってみたけど衝撃波で当る前に吹き飛んじゃった。しっぱいしっぱい。てへ」
こつんと頭に手を当て可愛らしく言うシシルシ。一応未遂に終わったようだが、未遂でこれならば直撃した場合ルトラは衝撃波で尻から破裂していたのではないだろうか?
疑問に思ったが下手に言うともう一度やってみると言いかねないので黙っておくことにした俺だった。
「でも、こういう攻撃とか面白そうだよねー。人間と闘う時やってみようかな。ねぇ、赤いおぢちゃん」
言外に闘う時は自分も呼べよ。そう告げるシシルシ。
断る術はおそらく皆無だ。
しばらく街中を散策した俺達は、馬車のある場所へと戻ってくる。
ルトラはまだ回復しないのだが、仕方無く背負って持って帰って来た。
高魔力と衝撃波のせいで色々と街が騒がしいのだが、俺達は知らぬ存ぜぬで馬車前で皆の帰りを待つ。
しばらくすると、若萌とユクリが帰って来た。
幾つか紙袋が見えるに、結構楽しんで来たらしい。
「よぉ、楽しめたか?」
「ええ。魔族の街もあまり変わらないわね。服屋には色々なサイズの服があって見るだけでもおもしろかったわよ。ほら、シシーにもこれ」
「わぁ、若萌お姉ちゃんありがとー」
なぜ、俺はおぢちゃんで若萌はお姉ちゃんなのだろう? お兄ちゃんと呼べとは言わないが、もうちょっと言い方ってあると思うんだ。
紙袋を受け取り両手で抱きしめるシシルシは、無駄に可愛らしかった。
とりあえず、ちょっとだけ面白くないと思う俺だった。あ、こら怪人野郎。茶々入れんな。
「それで? ルトラ様はなぜ気絶してるんだ?」
「あー、うん。その、悲しいことが、あったんだ」
ふっと、ユクリから視線を逸らす。
「そうだ若萌、さっき矢鵺歌に会ったんだ」
「え? 矢鵺歌さんに? なぜここに?」
「ああ、なんか貴族っぽい魔族の奴隷になってた」
「大変、助けなきゃッ! というか、助けたのっ?」
「え? いや……」
「何してるのよバカッ!」
自分の紙袋を全部俺に投げ渡し、走り出そうとする若萌、しかしシシルシががしりと腕を掴んで若萌の動きを止めてくれた。
ナイスだ。
「あーその、話すとややこしいんだけどちょっと落ち着いて聞いてくれ。とりあえず矢鵺歌はそこまで心配いらなそうだ」
「でも、奴隷にされてるってことは真名を握られたってことでしょ。しかも魔族に、人間の彼女がそんなことになったらどうなるかなんて……」
戸惑う若萌に、俺は先程のやりとりを説明する事にした。




