魔王の挨拶回り4
フラージャを撃破してしまった後、俺達は北の封印地へと訪れていた。
ギュンターの案内するままにやってきたのは、一つの豪勢な洋館。
どう見ても封印された魔族が住むような場所じゃない。
ただ、気になるのはこの屋敷に向うための道を、まるで歓迎するように串刺しにされた骸骨が道の横に等間隔で設置されていたことだ。下手に機嫌を損ねると、おそらくこの串刺し死体に仲間入りになるだろう。
呼び鈴を鳴らして出てきたスライムのような生物にギュンターが何かを告げる。
しばらく待って、俺達は屋敷の中へと入る。
幾つかの部屋を通り、中庭へとやってくる。
花? 咲き乱れる無数の花が綺麗な庭園だ。
その中で、一人の男が優雅なティータイムに興じていた。
こちらに気付いた彼は視線を一度だけ向けて、しかし興味を失ったようにティーカップに口付ける。
モノクル(片眼レンズ)を掛けたその男は、燕尾服を着た初老のイケメン男だった。
無駄に絵になる姿で白いテーブルに肘を付き、白い椅子に腰かけ、ティーカップを放して視線を再びこちらに向ける。
「やぁ、ギュンターくん。私に御用だそうですね。何でございましょう魔王陛下どの?」
名前:ディアリッチオ 真名:隠蔽とのレベル差があり過ぎて表示できません
Lv:9999
二つ名:紳士なる狂公
状態:自己封印
スキル:隠蔽、真名無効、隠蔽とのレベル差があり過ぎて表示できません
魔法:隠蔽とのレベル差があり過ぎて表示できません
装備:隠蔽とのレベル差があり過ぎて表示できません
魔王が霞んで見えやがる。
何だこの意味不明なチート存在。
思わずステータス表示してみたら、まさかの表示不能だった。
「ほぅ。ほうほう。これはまた面白い存在を連れて来たのですねギュンターくん。いや、実に素晴らしい。まだまだ粗削りだが、ふむ、人間でありながら魔王か。そうか、うん。うん。ベネ、グッド、ブラボー。エクセレント! これ程の逸材が外に生まれたのですか。なんと素晴らしい」
ディアリッチオは立ち上がると優雅な動きで俺の元へとやってくる。
なぜか優雅に一礼すると、俺の全身を隈なく見学し始めた。
うろうろしながら時に座り時に立ち上がり、忙しなく横から前から後ろから、俺を見定めて来る。
大仰に歓迎する態度を取ってみせたことで、彼が俺を気に入ったらしいことがわかった。どうやら今のところは串刺しは回避できるようだ。
「ギュンター。それにそちらの魔族は良いレベルだ。強いのが分かるよ」
「ふむ。我はゆえあってセイバーと共に行動する事にしたのだ。今は魔王より強い最古参の五人とやらに挨拶回りをしているらしい。お前で三人目だ。一人目は我だぞ」
どうだ。とばかりに無い胸をはるラオルゥ。そういうこと言う相手はちょっと考えてほしい。
レベル差があり過ぎるので彼の機嫌を損ねてしまうと、先程のフラージャごとく、今度はラオルゥが殺されかねない。俺達の最高戦力がおそらく一撃でお陀仏だ。
「なるほど、貴女もこちらの魔王を気に入りましたか。ふむ。そうですね。私も折角ですしご一緒致しましょう。貴方の紡ぐ世界は興味深い。是非にその近くで拝見させていただきたい」
いや待て。お前は俺に何を見てそんないきなりへりくだる?
10倍以上の差がある存在に傅かれることほど危機感はなかなかない。
いつ裏切られるかわかったもんじゃないくらいだ。
「ふむ? あまり乗り気ではございませんか?」
「それはそうだろう。真名無効で契約すらできないのに、自分より強い相手を二人も養える程の器はあるまい」
「なるほど、では隷属契約を行えば信用していただけますな。ふふ。仲間を救う正義の心、仲間を憎む悪意の心。蝕まれし思考、貴方の正義は素晴らしい。ぜひともその正義を振りかざし私に余興を見せていただきたい」
絶対に信用ならないキチガイ男は、なにやら呪文を唱え出す。
魔法陣が俺と彼を包み込み、強制的に何かの魔法が発動した。
俺の腕とディアリッチオの腕を光る帯が結んで行く。
「ステータスを御確認下さい。私は以後、貴方様の目となり鼻となり行きつく先を見守りましょう。ああ、ですが戦闘は行いませんよ。私が出てしまうと人間など即詰んでしまいますからね」
カラカラと笑うディアリッチオ。
どうやら学者肌という部類というか、自分が興味ある事以外は行う気はないらしい。
一応、本当に俺の奴隷になったらしいのだが、このステータス表記もあまり信頼はしない方がいいだろう。
本人曰くなんなら死ねと命令していただいても構いませんよ。と告げて来るが、その瞬間俺の首が弾け飛ぶ未来しか思い浮かばないので無視しておいた。
しかし、ラオルゥといいこのディアリッチオといい、殆ど封印されてるというより自分で閉じこもっているだけのような気がする。こいつらが本気になったら魔王とか吹き飛ぶぞ。
なんて薄氷の上に座る魔王なんだ俺は。




