魔王の挨拶回り3
「ほー、我以外にも四人も居るのか。魔王領も随分楽しそうな場所になったものだねぇ」
ラオルゥが楽しげに笑う。
俺の首に腕を巻きつけるように背中から抱きついて来るのは勘弁してほしい。
小さいながらも胸が当ってその、俺にそういう耐性はないんだ。
俺で遊ぶな。分かっててやってるだろっ。
「ら、ラオルゥ様よ。なぜ我が夫に色目を使うのだっ」
「んふー、ほっほぅ、いつの間に妻が出来てたのだねセイバーちゃん?」
「いや、ユクリが言ってるだけだからな。まぁ彼女も居ないし、ユクリは可愛いから問題はないっちゃないんだが」
『若萌はどうするんだよ若萌は、あと萌葱』
うるせぇ。萌葱はガンナーと結婚して若萌生んだんだろ。未練たらしく娘を貰い受けるとか、惨め過ぎるわ。
だけどユクリなら自分から俺の妻になりたいとか言ってるわけだし、問題は……
「ふーん。ということはぁ、妻募集中なんだ。へー、ふーん。魔王の妻、というのも面白そうではないか? ふふ。どうかねセイバーちゃん。我を妻に、してみない?」
にやにやと笑いながら胸を押し付けて来る魔王を越えた超生物。
これを妻に? 恐れ多いわっ。レベル差があり過ぎて尻に敷かれる未来しか見えない。
というか、絶対に振りまわされるだけ振り回されて飽きたらポイだ。
「考えておくよ」
「なんと冷たいっ」
「ほれ、ほれっ。朕を妻にするからラオルゥ様はご遠慮願おうということではないか」
「どう曲解したらそうなるのか、事細かく教えて貰おうか」
俺の後ろで二人の女が遊んでいる。キャットファイトに発展しないのは有難いことだ。
『つかよ、この二人だとキャットファイトじゃなくてアルマゲドンだよな』
そうだな、軽く世界が滅ぶ……嫌な終末戦争だ。
「着いたぞ」
最初にやってきたのは西側だった。
比較的平和で人間も居ないため、安全に謁見できるということでここに来たのだ。
ここで封印されている化け物は数百年前に現れたドラゴンらしい。
自らの塒である洞窟にヒキコモリ、そのまま魔族により封印されたらしい。
気性が荒いらしいので、あまり会いたくないとギュンターが告げる。
ただ、一応古参のプライド高い存在らしいので無碍にするのも怒る要因なのだとか。
魔王並みの魔力を持ってないと入ることが出来ないそうで、塒に入れるのは俺と元魔王、ついでにラオルゥだけだった。
暗い洞穴の中、息遣いが聞こえる。
規則正しい鼻息。巨大な鼻から漏れ出る音にラオルゥがむぅっと唸る。
目の前には、巨大な、それはもう巨大なドラゴンが一体、眠っていた。
「ふむ。これはまた随分大きく育ったわね。何ドラゴン?」
「確かカルネージドラゴンだったかと」
ギュンターの言葉にラオルゥが頷く。
「ああ、溶岩風呂に入りたがるアレか。なんでまたこんな場所に?」
「なにぶん余の時代よりも前の事です故、そこまでは……」
レベルは4399、フラジャイル・ヘルディガンドが真名らしい。なぜ名前がフラージャなのか疑問だが。
レベルは高いがラオルゥを見た後だと強さが……
「ほれ、起きよ」
ラオルゥを誰か止めてくれ。
寝た子を起こすとか何考えてんだ。
「んぐぉ?」
べしべしと鼻面を叩いていると、フラージャの目が開く。
「何をしている娘?」
「お、起きたかえーっと……」
名前を言おうとして首を捻る。
困った様子で俺を見て来た。
「フラージャさんらしい」
「うむ。ではフラージャ、こちらは次期魔王と成ったジャスティスセイバーというらしい。よろしく頼む」
無言のフラージャにそれだけ告げて、踵を返すラオルゥ。
起こすだけ起こしてさよならって、いくらなんでも挑発しすぎだろ!?
『やべぇ、このパーティートラブルメーカーしか居ねぇ!?』
「舐めるか小娘ッ」
息を吸い込むフラージャ。寝起きで機嫌が悪い時にこの唯我独尊女に起こされ一言告げられて終わりなのだ。許せるはずがなかった。
渾身のドラゴンブレスが吐き出される。
次の瞬間、はらり、ラオルゥの目元を隠していた布が落下した。
俺達側からは見えないが、ラオルゥと見つめ合ったフラージャはしっかりと見てしまった。
破滅の魔眼公の一撃、フラージャの身体が膨れ上がる。
何アレ!? 何が……
「ごぶぉばっ!?」
次の瞬間、フラージャの巨体がパンっと破裂した。
周囲を大量の血が埋め尽くす。
血溜に身を沈ませたままラオルゥは静かに眼帯を拾って締め直し、こちらを振り向く。
「さぁセイバーちゃん。アイテムは貴方にあげることにしよう。感謝せよ」
意味が分からないながらもふらふらとラオルゥに近づいた俺はアイテム入手を行う。
レベル4000越えの魔物の爪やら牙やらが手に入る。鱗はスケイルメイルにしてしまうべきだろうか。
とりあえず、俺には不要だから若萌からユクリにでも作ってやるか。
「でも、良かったのかラオルゥ?」
「話聞きそうになかったからな。下手に暴れられるよりマシであろう?」
ああ、彼女もやっぱり魔族なんだなぁ。と妙に納得してしまう俺だった。




