魔王暗殺計画1
コルデラが突然尋ねて来た。
これからの事を魔王、じゃなかった旧魔王だっけか。と話し合おうとしていた俺は、その証言を聞いて頭を抱える。
やっぱ無理があったらしい。
『いやぁ。真名握られてるのに反乱を企てるとか、なかなかやるなぁあいつら。魔族としては優秀じゃないか?』
「裏切りを許容しきれるほどの余裕は俺にないっつの」
俺は旧魔王に視線を向ける。
己のベッドに腰掛けた彼は、顎鬚をさすりながら左上に視線を向ける。
「ふむ。我が時代であれば極刑だったな。一族郎党我直々に処刑していた。が、さすがに数が多い。今粛正すると人間共に対抗出来なくなりかねんぞ?」
「幸いにも東軍の代表が叛意なしというのは有難いことだな。あちらはいろいろと面倒らしいからな」
旧魔王の言葉を補足するように話しだすユクリ。
「とりあえず、この報告を持ってきてくれただけでも有難いわね。どうするセイバー」
「ふむ。ひとまずコルデラには帰って貰おう。彼らの指示通り俺の暗殺に動いておけ」
「え? あ、あのでも……」
「彼らの目の前で殺すのか一人で殺しに来るのかはわからんが、とりあえず明日の議会で決まったように動けばいい。可能であればその方法を教えてくれると助かるがな」
「お教えいたします。我が命に変えましても、ですから、ですから我が夢魔族への処罰だけは……っ」
もともと前魔王みたいに一族郎党うんぬんをする気はない。
とりあえず今は覚える事を優先しよう。
「夢魔については今までどおりでいい。こちらも引き継ぎがまだ済んでいないので配属などについては後日に纏める。コルデラ。報告は助かった」
「はっ。有難く存じます。で、では、私はこれにて……」
コルデラが退去するのを見守って、俺は息を吐き出す。
「やべぇ、俺暗殺されるんだってよ」
「他人事ではないか。まぁいい。それで? 我が伴侶よ、反逆者どもはどうするのだ?」
「ああそれは……伴侶?」
「朕の真名を奪い魔王になったのだぞ。周囲からは朕が貴様の慰みモノにされていると噂されるのは必定。たとえ手を出されずとも噂が付けば朕の貰い手がなくなるのは自明の理。責任は取ってもらうぞ」
『ハーレムリア充へ、ようこそ』
武藤、くたばりやがれ。
隣では若萌が頭を抱えていた。なぜかああ、こういうことか。と呟いていたが、俺はスルーしておくことにする。
「と、とにかく。これから覚えることは魔王軍の軍団情報、人間との戦場、と戦闘理由。どの辺りが戦況が悪くどこが有利かも知っておきたい。あと魔国の地図とかはないのか?」
「軍団は独立しているから各軍に聞かねばならんな。報告書を出すように告げた方がいいかもしれんが……」
命令するしかないだろうな。嘘偽りなく書くように。
今の俺だとあいつら警戒してるから絶対虚実織り交ぜて来るだろう。
そして地図はなかった。
魔族とすれば自分が認識出来ていれば問題無い。ということらしい。
地図の作製は必須だ。早めに部隊を組織して測量させるしかないだろう。
実際に歩かせて測量させるべきか。一部隊だけだと不安だから五部隊程作って別々の方向から測量させてみるか。
出来がよい地図に賞金を出す方式にすればそれなりに良い地図ができるだろう。
街名やら部下の名も覚えなければならない。
真名については出会った時にステータスを見ればいいが、重役の名前だけでも覚えておくべきだろうな。
ユクリにピックアップしといてもらおう。
「魔王としてやっておくべきことはあるか?」
「そうだな。早めに古き者への挨拶回りはした方がよかろう」
「古き者?」
「うむ。余が魔王になるより前からこの地に潜む魔神たちだ。五人程いる。東西南北、そしてこの魔王城の地下に一人。あまりに強大な力を持っているためまず自分の領地からでないようにして貰っているがな、皆変人が多いので下手に刺激するとどこかに致命的な被害が出る。好き勝手やる前に彼らの逆鱗に触れぬよう挨拶回りをしておくのがよいだろうな」
本来であればこんな報告を前魔王から聞くことはないのだ。逆鱗に触れて初めてそのような者がいると気付く。余も何も知らず……と青い顔で震えだした旧魔王様。威厳は台無しだ。
そして、これからはこの魔王も魔神として崇められるのだろう。
正味、魔王になった今も全く勝てる気しないし、俺、本当に魔王なのだろうか?
「んじゃあ、まずは魔王軍内のごたごたを片付けて挨拶回り、夢魔族にでも地検を頼んで地図を作って、あとは報告書次第かな。んじゃぁ、次は処刑についてだけど……」
「いや、もう、それについてはアレでいいんじゃないか? 朕はアレを見てコイツに逆らうのはよそう。と本気で思ったし」
どういうこと? ユクリの言葉に首を捻る俺。
しかし、察せなかったのは俺だけだったらしい。若萌もアレはないとしみじみ頷いていた。
だから、何だよ?




