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外伝・新魔王誕生3

「クソッ!」


 ガーゴイルの男は、謁見の間から立ち去ったジャスティスセイバーたちを確認して舌打ちと共に床を叩きつける。

 納得などできなかった。確かに、魔族では真名を奪われることは相手への屈服と同意義だ。

 相手が魔王ならば確かに納得はいく。事実人間の王もそういうふうにして部下を縛っていると聞く。

 しかしだ。今度の魔王だけはムリだ。


「人間が、魔王だと?」


「魔王陛下は気でも狂ったか?」


「しかし、我等にはどうにもできまい。真名を握られては……」


 すっと、皆の視線がサキュバスに移る。

 コルデラは真名無効という特異スキルを持っていたが故に、唯一名を奪われ自由な動きを制限されていないのだ。

 つまり、今回の魔王を暗殺できる数少ない実力者である。


「コルデラ、次期魔王をする気はないか?」


「えぅ!? わ、私が?」


「そうだ。我らではあれをどうこうすることはできん。だがお前だけならば倒す事も出来る」


「真名を使って来たのだ、そこまでレベルが高い訳ではないだろう。我等なら誰であれ一対一で倒せる程度の実力のはずだ」


 魔将達はほぼコルデラを魔王にせんと息巻いている。当のコルデラは戸惑いながら周囲を見回すが、仲間と呼べそうな人材が居ない。

 このままでは数の暴力で魔王殺害計画に協力させられるだろう。

 だが、コルデラ自身はそこまで今回の魔王への怒りはない。


 そもそもコルデラにとっては自分たちサキュバスを吸精生物だからと遠ざけるような魔王でなければそこまで忌避感がないのだ。

 もちろん意に沿わぬ命令を命令されるのは御免だが、今のところ殺害に協力する意味はない。

 下手に動いて次期魔王に警戒されたり処分されるならば、知らぬ存ぜぬで関わりない場所に居ておきたかった。

 だが、真名無効のせいで代表にされてしまっては逃げ場がなくなってしまう。


「す、少し考えさせて」


「むぅ、やはり魔王になるのは不安か?」


「仕方あるまい。一日考えてくれ。明日に魔将のみで会議を開こう。新魔王への対策会議だ」


 盛り上がる魔将たち。

 コルデラは溜息を吐いて、中央騎士団長とその横で顔面蒼白になっているムイムイに視線を向けた。

 彼らは蚊帳の外だったようで、騎士団長スクアーレは苦い顔をしており、ムイムイは止めようと出した右手を所在なさげに彷徨わせて震えていた。


 止めないと大変なことになるとわかっているのだが、止めるのは自分ではできないと気付いているようで、命を賭けて進言すべきか迷っているのだろう。

 ここは何もせず観客に徹するのが正解だ。


 事実、魔王が変わっても問題無いと思うメンバーは沈黙を貫いている。

 真名を奪われたと言うのに、幾つかの魔将はどうでもいい。と言った顔をしているのだ。

 そのうちの一人、西の武将に理由を聞いて見れば、西はあまりにも平和なので真名を奪われようとまず呼ばれることはないそうだ。


 同じ理由でいつ死ぬとも知れない東軍でやってきた唯一の将軍も気にしていないようだ。

 むしろ人間との戦いに終止符を打てるんじゃないかと期待しているとも言っていた。

 最前線ではもう闘いたくないという人材がかなり多いそうだ。


「期待はしているさ。ただ、人間が魔王になるというのは前代未聞だ。最初はおそらく融和策を練ろうとするだろう。そこでどれ程の損害を防げるかが肝になる」


「融和策、ですか?」


「人間らしいからな。人間同士分かりあえると思えば融和を考えるだろうさ。だが、人間共は必ず牙を向く。そこで魔王も死ぬやもしれん。だが、それを生き残り、惨状を見た時。我等に本当の魔王が君臨するだろう。おそらく、今までの歴代魔王の中で最悪最凶の魔王が。ふふ、その時が楽しみだ」


 コルデラにいとまを告げて彼は去っていく。

 ソレを皮きりに少しずつ帰って行く魔将たち。

 彼らを苦笑いで見送りながら、コルデラは考える。


 このままいけば確実に次期魔王暗殺計画に巻き込まれ、自分と眷族が殺されかねない。

 元魔王まで側に居るのだ。彼が認めている魔王を暗殺などすれば、その魔将と家族は確実に死ぬ。

 自分が魔王になるなど夢のまた夢。

 そして魔王になったからと言って何が出来る訳でもない。おそらくその後は魔将たちによるバトルロワイヤルが始まり、自分は早々に敗退させられるだろう。


 そこまで考えて、コルデラは軽く身震いする。

 生存率の一番高い方法は、おそらく一つだ。

 自分の生存のため、コルデラは即座に踵を返す。


 謁見の間からさらに奥の魔王の寝室へ。

 途中女性兵により足止めをされるが、緊急報告を告げ連絡を取ってもらい、顔合わせを実現させる。

 魔王とその娘、人間と思しき赤きスーツの男と白いスーツの女が居る魔王の寝室に案内されたコルデラは、先程の会話を事細かに話し、自分は関係のないということを包み隠さず報告するのだった。

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