新魔王誕生2
「皆の者、顔を上げよ」
魔王の厳かな声に、皆、かしこまった顔を上げる。
視線が集中するのは俺、ではなく直ぐ横の魔王。
やはり求心力を集めているのはこの魔王のようだ。
「本日集まって貰ったのは他でもない。魔王軍の今後を左右する報告ができたので来て貰ったのだ」
ざわつく将軍たち。まぁ俺が玉座に着いていて今後を左右するとか言われたらもう、察しがつくよな。
「我は本日を持って魔王を引退することとなった。体力的限界もあるが、娘を下した存在が現れてな。これも好機かとこの機に位を譲ることにした」
ざわめきが大きくなった。皆信じたくないといった顔だ。その一部は俺を険しい目で見つめている。
「紹介しよう。彼はジャスティスセイバー。我に代わる新たなる魔王。そして、人間側が召喚した勇者の一人だ」
言っちゃうのかよ!?
ざわめき云々よりも敵意がバシバシと俺に叩きつけられる。
これ、大丈夫なのか? なんだか殺されそうな気がしなくもないぞ?
「正気でございますか魔王陛下! 恐れながら、そのような人族の者に魔王などを任せるなど、魔族を破滅に導くやも知れませんぞ!?」
「魔王は実力主義。力強きモノが王と成る。我はもはや老い先短い身、唯一我が後を継ぐと思われたユクリティアッドは真名を奪われた。つまりこの者はユクリティアッドの上に位置する存在だ。その上位に居るのは我のみ。つまり自動的に次期魔王となったわけだ。これも機会と見て我はそのまま魔王の座を譲ることとした」
「納得できかねます! その者はユクリティアッド様の真名を手に入れただけなのでしょう、ならば! 私が倒せば私が魔王、それでよいのですか!」
「できるものなら、構わん。ただし魔王足る者は一対一で魔王を打倒せねばならん。理解はしているな?」
あの、俺が理解してないんだが。
ずっと黙ったまま聞いてたんだけど、これ、納得言ってない奴等全員と戦闘のパターンじゃね?
『もーめんどくせぇし全員の真名呼んで縛っちまえ』
鬼畜か!? いや、一番面倒のない方法ではあるけど。
……そうだな。下手に戦闘をするよりも効果的ではあるか。
『言うのは良いけど、威厳だぞ、威厳。威厳をもって話すんだぞ』
威厳威厳煩いよ。お前は俺の母さんか何かか。
「なるほど……前魔王よ。つまり俺は、そこのミノタウロスの男。ホルステン・ワーグナス・ベルトホルンと闘えば良いのか?」
厳かさを意識して、地を這うように響く声をだす。底冷えする声にホルステンは目を見開いて立ち上がる。顔は真っ青だ。何しろ格将が集まるこの場で自分の真名を暴露されたのだから。
脂汗が一気に噴き出る。今、自分は人生最大の危機に直面していると気付いてしまったようだ。
「あ、あの、私は、あの……」
憔悴するホルステン。まさか闘う前から致命的な真名バレしているとは思ってもいなかったらしい。
俺は尊大な態度を意識して肘かけに肘を置き、足を組んでホルステンを見下ろす。
こんな感じでいいんだろうか?
「選ぶがいいホルステン。我に真名を捧げるか、我を殺すか。好きな方を選ばせてやる」
ホルステンの判断は早かった。
その場に片膝付いて臣下の礼を取ると、俯いたまま全身汗塗れで告げる。
「あ、新たなる魔王陛下に、我が全てを!」
「よかろう。ホルステン・ワーグナス・ベルトホルンに命じる。其の方の真名による命令は我以外の命令権を禁止する。以後我が命令のみを忠実に実行せよ。これからの忠義に期待しよう」
『やべぇ、下手な魔王より魔王だ。赤い悪魔王がここに居るっ』
黙ってろ武藤。俺は俺で一杯一杯だっつの。魔王演じるのも楽じゃねぇんだぞ!
「ふむ。折角だ。全員の忠義も今のうちに聞いておこうか。まずは、北軍だったか……」
それから一人一人ステータス強制閲覧で見た真名を告げて行く。
魔将たちは全員青い顔をしながら忠誠を誓ってきて、まだ忠誠を誓っていない魔将は自分の番が来て真名を呼ばれるのを呆然自失で待っていた。
『鬼畜だなぁ。これじゃあ魔族全員逆らえないぞ』
「……ん? コルデラ・レンドック・ローグ。真名無効を持っているのか」
「ひっ。は、はい……」
自分は安全と思っていたのだろう。突然真名を呼ばれ、奥の手スキルまで暴露されたサキュバスの女性が息を飲む。
もしかしたら意に沿わぬ相手はいらないとか言われて処分されるんじゃないかと恐怖におびえているようだ。
だが、俺にその気はない。
「ふむ。で、其の方はどうする? 我と敵対するか?」
「ま、真名を捧げることは出来ませんが、せ、誠心誠意、魔王陛下のために」
「信じよう。その忠義が本当である事を願う」
魔将たちの名を全て言い終え、俺は一気に大多数の魔将を自由に動かす権利を手に入れた。
ある意味恐怖政治みたいになってしまったが、俺と若萌の身の安全を考えれば妥当な処置だと思う。
魔将達の真名も手に入れたし、彼らも強制的に忠義を示してくれるだろう。




