新魔王誕生1
主人公の自覚無き猟奇的行動がございます。ご注意ください。
「あのさ、これって魔王生き返したら問題無いんじゃないのか?」
「それは……」
「父が望んだのだからそのまま逝かせてやってくれ」
ふとアイテムダイアログ見て思った俺に呆れる若萌と困った顔をするユクリ。
少し考え、だが。とユクリがニタリと笑みを浮かべた。
「楽に死ねずに復活させられ戸惑う父というのも面白そうではあるな。よし、Noを選んでしばし待て。悪魔神官を連れて来る」
「折角だ。危険部位を取っておくか」
「病の可能性ね。でもどの臓器かはわからないでしょ?」
『強制ステータス閲覧を部位ごとに見ればできるんじゃないか?』
「部位ごとに? やってみるか」
アイテム入手欄は若萌にNoを押して貰う事にして、俺はセイバー使って魔王の腹を搔っ捌く。
猟奇的な赤きスーツの男に思わずうっと呻き目を逸らす若萌。
すまんな。俺も出来ればこういう事したくないんだが……
「強制ステータス閲覧……うわっ」
強制的に無数のステータス欄が出現した。部位ごとにHPがあるらしく、内蔵が軒並みHP枯渇に陥っている。
状態異常が入っているのは……あった。肝臓だ。胃もか。とりあえず摘出だな。
この場合血液にも入ってるかもしれないな。どうしたらいいんだろ?
わからねぇからとりあえず血抜きだな。どっかに吊るして全部血を出して……
「連れてきたぞ二人と……父上――――っ!!?」
戻ってきたユクリと悪魔神官が見てしまったのは、腹を掻っ捌いた魔王を吊るし、死体に鞭打つ血だらけの赤い悪魔だった。
「ちょっと待っててくれ。今血抜きをしている」
「これ以上父を辱めるなぁ――――っ!?」
ある程度の血抜きが終わったところで強制的に中断された魔王の病気切除。多少不安はあるものの、結構な量の癌を切除したのでしばらくはまた大丈夫になるだろう。
泡吹いて気絶した悪魔神官が起き上がるのを待ち、魔王を復活させるのだった。
「まったく。折角死ねたと思ったのにやってくれるなジャスティスセイバー」
復活した魔王は玉座に座り、不機嫌そうに告げる。
肘かけに肘を付き顔を手に乗せた状態で、横に立つ俺を睨んでいた。
折角助けてやったのに何て言い草だ。
「まぁよい。余はどのみち引退だ。力は既に引きつがせてあるしな。今の余はただのレベル999の魔族でしかない」
「それはただの魔族のレベルじゃねぇな」
「まぁよい。それで、まだ誰も来ておらんようだが?」
謁見の間には、今、俺と若萌、ユクリと魔王の四人しかいない。
左から若萌、ユクリ、魔王、俺。の順に並んでいて、玉座に座っているのは魔王だけ。と言ったところなのだが。
不意に魔王が立ち上がる。
「まぁいい。それよりこれからここは貴様の席だジャスティスセイバー」
「え? いや、あんたの席だろ」
「今まではな。しかし、魔王の力を与えた以上貴様が魔王。旧魔王である余が座っておっては誤解があろう」
立ち上がった魔王は俺を拘束して無理矢理に玉座に座らせた。
逃げようとしたが、タイミング良く扉が開かれ無数の魔族が入室して来る。
各々、玉座に座らされた俺に気付いて目を見開くが、隣に立つ魔王を見て、慌てて規則正しく整列し、臣下の礼を取る。
「北方四騎将全員参上致しました」
「南方十二将は八人です。他四名は未だ人族と戦闘中のため此度の招集に参れず申し訳ございません」
「西方海将軍参上。本日もこちらは穏やかでございます」
「東方八騎将は本日私一人ではございますが推参いたしました。他指令官は人間共の砦構築の件で現場を離れられないことを悔やんでおりました」
「中央軍総司令官スクアーレ、本日はお呼び立ていただいたこと嬉しく存じます。こちらは本日の件で共に参るようにと伝えられたムイムイにございます」
口々に告げる魔王軍。ムイムイだけが所在なさげに青い顔をして俯いている。
あ、顔上げて気付いた。噴いた!?
一斉に周囲の魔族に見られ、慌てて口を噤むムイムイ。彼女の頭はクエスチョンマークで一杯だろう。なにしろ自分と別れて魔王城に向ったセイバーとアイゼンがなぜか魔王の横に居るのだ。しかもセイバーは玉座に座っている。意味が分からないのも仕方が無いだろう。
「士族長参りました。これよりはリザード、ゴブリン、オーク、コボルト、ハウンドドッグ、夢魔、トロールなどの代表者が順次入室致します」
戻ってきたバトラがユクリの背後にやってきて直立不動。微動だにしなくなった。
気付いたら魔王の背後にもあの女性二人が侍っている。
「全員そろったようだな」
室内を見回し、魔王が厳かに告げる。
『気合い入れろよジャスティスセイバー。こういうのは舐められたら終わるぞ。魔王らしく威厳に満ちた声で話せ』
話せ。と言われても、俺に何が出来るってんだ? とりあえず、促されるまでは魔王に全てお任せしよう。




