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魔王謁見

「ここが、魔王の間?」


「いや、父の部屋だ。父は動けんからな。ここで伏せっている」


 そんなに悪いのか。

 じゃあ世代交代はすぐじゃないか。


「父が死ねば魔族領は分断されるだろうな。朕より強い魔族もそれなりにいる。まずは10士族が分裂し己が覇を唱え出すだろう。朕にそれを止める術はない。せめて次期魔王になりたければ人間を多く殺した者。と告げるくらいか。しかし、実質今の魔王は貴様だえーっと、セイバー?」


「ああ。ジャスティスセイバーだ」


「偽名か。しかし正義の剣とか笑い草だな。お前は魔王ではないか」


「なりたくてなったわけじゃないだろ!? 何でお前は魔王の座から引きずり降ろされてそんなに楽しげなんだよ!」


「ふむ。他の魔族の慰みモノになるくらいなら、むしろ今の状況は朕にとっても問題はない気がしてな。そもそも朕に魔王など勤まらんし。爺やにじゃじゃ馬姫と呼ばれているくらいだぞ。王などやっていられるか」


『結果的に魔族領救ったってことでいいんじゃね? こいつが魔王だったらとりあえず適当にやっちゃって。で終わってたみたいだし。人間と魔族の全面戦争になってたと思うぞ』


 致命的な結果になるのを防いだってことで喜べと?

 魔王になったのに?

 そしてこれから消されるかもしれないのに?


 ドアを開く。咳込む声を聞きながら俺達は部屋に入室した。

 簡素な部屋には豪奢なベッドが一つ。付きっきりで裸のサキュバスが二人、魔王の左右で身体を押し付け温めている。


『リアルハーレムか!?』


 病気のおっさんというか魔王に何期待してんだよ。あれは雪山遭難時に行う体温を上げる作業だよ。

 闖入者に気付いた魔王が咳込みながら起き上がる。

 俺達を見た瞬間、くわっと目が開き圧倒的威圧感が俺達に襲いかかった。


 ヤバい、殺される!?

 予想以上の恐怖感が一気に押し寄せ若萌が小さな悲鳴とともに腰を抜かした。

 ついでにユクリもひぃぃっと腰砕けになっていた。


 クソ、この圧力、前にノリで武藤に使わせたなんとか闘氣とかいうのに酷似してるぞ。

 だが、抗えない程じゃない。あのクソ武藤程の絶望感は感じない。

 屈しそうになる身体に力を入れて顔を上げる。


 目が合った。

 圧倒的な強者の威圧がさらに圧力を増す。

 ダメだ、心臓が止まりそうだ。


 あまりの恐怖で過呼吸になり始めた若萌とユクリ、ついでにバトラはすでに起ったまま失神している。

 俺も過呼吸になりそうになるが、隣に居るナビゲーターの姿が、俺を屈させてくれない。

 この姿があるせいで、こいつに見られているせいで、膝を屈する訳にはいかなくなっていた。

 誰だって、自分の宿敵とも思える存在が直ぐ横で、この威圧に平然と立っている姿を見せられれば、負けるわけにはいかないと思うだろ。


『いや、俺はただのナビだからな。威圧とかくらってないからな』


 それでも、お前に見られてる状況で敗北を認める訳にはいかないんだよッ。

 俺の小さなプライドだ。

 正義力を高めろ。例え敵わずとも二人を救うため、正義のため。俺は巨悪に屈するわけにはいかない。

 何より、あの怪人が見ている前で、敗者になるわけにはいかないっ。


「ロードセイバー!」


 武器を召喚し構える。

 次の瞬間、場を支配していた威圧感が一瞬で霧散した。

 決死の特攻をしかけようとした矢先の出来事だったため、俺は前のめりに突っ込みかけて足を止める。


「ゴフッ、ふ、なるほど、報告は聞いているぞ。我が娘を下した人間がいるとな。どうやら意思は合格らしい」


 ニヒルな笑みを浮かべた魔王。その姿はまさに魔王を体現するような姿で、しかし、老い先短い老人のようにも見える。

 側頭部からは角が突き出ている。ユクリと同じ形状の角だ。


「初めまして、魔王だ」


「あーその、初めまして? ジャスティスセイバーだ」


 ベッドから上半身を起こした状態で威厳ある声をだす魔王。

 どう返して良いか分からなかったのでとりあえず自己紹介を返す。

 一応、警戒の意味を込めてセイバーだけは向けたままにしておいた。


「剣はしまってくれないかな。こちらに攻撃の意思はない。それとも、病弱の我を殺すか?」


「冗談を。俺じゃ逆立ちしたって勝てないよ。実力はともかくレベルに差があり過ぎる。なんだよレベル999って、俺はまだ30だっつの」


「レベルの差はなかなか覆せんからな。御蔭で病弱ながら魔王をやれている」


 くっくと笑いながら咳込む魔王。どうやら病気なのは本当らしい。血まで吐き出した。


「何の病気だ?」


「さて? 状態回復魔法でも回復する事のない不治の病だ」


『状態異常回復ってのは身体に対する異物や魔法による状態の変化を戻す、あるいは強制排出させて正常に戻すものだ。回復でも状態異常でも無理っつーなら、おそらく癌とか体内で勝手に変化した病だな』


 急に現実的な名称がでてきたな。異世界感が無くなった気がするぞ。

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