非情なる決闘3
「バカな。朕の真名を……?」
呆然とするユクリ。その周囲でユクリの真名を聞いた魔族たちがざわつきだした。
なんか、ヤバいな。下手するとユクリが誰かに操られかねない。
仕方無い。
「重ねてユクリティアッド・ミークラトス・フレイアスティラに命じる。俺以外の真名による命令を以後聞かないようにしてくれ」
「バカな!? 貴様正気か!!」
真名による命令を告げられ焦るユクリ。
「仕方無いだろう。こうしておかないとここで真名を聞いていた他の誰かに良いように使われるぞ」
「そういう問題ではないッ!」
慌てて立ち上がったユクリが俺に掴みかかる。
殺意を込めた目で恨みがましく睨みつけられる。
コイツの一撃を喰らえば俺などボロ屑のように殺されるだろう。しかし、彼女は感情のままに殺す事はなかった。
悔しげに俺を睨みながらも、クソッと吐き捨てながら俺から離れる。
今、俺を殺す事の意味を理解したのだろう。
そう、俺を殺せば命令は白紙に戻る。代わりに、他の誰かに操られる可能性が出て来る。
「なんてことだ。父上に申し訳が……」
「あーその、なんだ。酷い命令とかはするつもりはないぞ。俺は若萌と二人で安全を確保できればいいだけだし」
「そういう問題では……ないのだ。貴様は今、次期魔王になったのだぞ。理解できているか?」
……
…………
……………………
「はぁっ!?」
『おー、すげぇ。正義の味方様は魔王様にクラスチェンジかよ。神様腹抱えて笑ってんだろうなぁ』
黙ってろクソ武藤。
ちょっと待て。落ち付け。落ち付け俺。
魔王? え? 俺が、魔王?
「ど、どういう、意味?」
「どう言うも何も朕が次期魔王だ。父も既に病に倒れている。つまり実質朕が魔王であった。しかし、その朕を真名により下した存在がいる。つまり朕の上位に位置する存在だ。魔王の上の地位などない。つまり、実質貴様が魔王ということになり朕が魔王の座から転がり落とされたということだ」
「聞いてねぇよ!? 魔王の座とかいらないからっ。返上するから!」
「残念だが、非公式の試合であればともかくこれ程の人数に見られている上でお前に支配された以上、朕は貴様のモノ。魔王を手に入れた男が魔王になるのは当然だ。皆もこのまま支配された朕が治めるなど納得しないだろう」
「ぷふっ」
若萌が思わず噴き出した。
いや、ちょっと待て。肩揺らして笑ってる場合じゃないだろう。魔王だぞ。勇者召喚されたのに魔王になってるんだぞ。おかしいだろ。
しかも俺正義の味方っ。アルバイトだけど、というかもう止めて元正義の味方だけどもっ。
あ、そう言えば止めたはいいけどスーツ返してないな。まぁ、今更ジャスティスセイバーじゃなくなるのもアレだし返す気はないけど。
「仕方ありませんな。こうなれば御父君に相談せねばなりますまい」
「ぐぅ、バトラ、先ぶれを。おのれ人間め。ペットにしようとしたら逆にペットにされるとは……」
「セイバー、ここは流れに乗っておいた方がよさそうね。下手に逃げると魔族領にも居場所がなくなるわ」
「既に致命的だと思うぞ。娘さんの真名を奪った男が、俺次の魔王になるからよろしく。とかどの面下げて現魔王に報告に行く気だよ。殺されても文句言えんわ」
『でもあと11回は殺されても復活するからな。良いサンドバッグができたもんだ』
ぶん殴るぞこの野郎。
ああ、しかし最悪だ。
決闘するだけのはずだったのになぜ倒したら魔王にならなきゃいけないんだ。
「あのさ、勇者が魔王倒したってことで丸く収めるわけには?」
「今魔族を束ねるモノが消えれば楔を失った魔族が世界各地で己の判断で暴れ回るが、それでよければ」
ユクリの言葉に頭を抱える俺。
どうしてこうなった。おい、ナビゲーター。俺はどうすればいい?
『魔王になれば、イイトオモウヨ』
ぶっ殺すっ。
『しっかし正義の味方様が魔王なぁ。ああ、でもいいんじゃないか? 人間と講和に向かっちまえば丸く収まるんじゃね?』
そうか。俺が魔王になるってことは俺の方針が魔族全体に行きわたるんだ。人と仲良く。と告げれば、まぁ流石に告げただけで何とかなる訳じゃないだろうけど、命令できる立場になったというわけだ。
そう思えば魔王の座も悪くはない気がして来た。
人と魔族の融和政策。なんだ、これ正義の味方っぽい行動じゃないか?
『ついでにイイ女を自由にできるしな』
お前と一緒にするな!
俺はバトラが帰ってきたことでユクリに伴われて城に戻ることになった。
ムイムイが青い顔で震えていたが、彼女はスクアーレに止められ、自宅待機になっていた。
すまないがもうしばらく震えておいてくれ。
『ふむふむ。強制ステータス閲覧で相手の真名を手に入れて自分専用宣言。ハーレム生成か。しかも若萌にムイムイ、ユクリさんとすでに三人も。なんという鬼畜、なんという非情。まさに魔王の所業っ』
本当に殺すぞこの武藤野郎。




