非情なる決闘1
「ユクリティアッド……」
「ふむ。会話は可能なようだな。人間というのはもっと見境なく我等に襲いかかってくると思ったが」
「私達はこの世界に召喚されたばかりだから、その辺りはこの世界の人間とは違うのよ」
俺が黙っていると、若萌がユクリティアッドと会話を始めた。
初めて出会った奴にそんなことほいほい伝えちゃっていいのか?
『おい、見ろよ河上、このおねーさんすっげー胸してるぞ。やっべー、これはマジやべーわ』
煩い黙れ偽武藤。
武藤ならそんなことは言わねぇだろ。
『あん? そりゃ俺はお前が考える武藤くんだからなぁ、本来の性格じゃないだろ。というか、俺は無意識化でこいつはこういう存在だとお前が認識してることを喋ってるだけだぜ? 多分女子風呂お前と覗くのが多かったせいじゃね?』
本当にどうでもいいよそんなこと。少し黙ってろ。そしてうろつくな。目障りだ。
「ほほう、この世界の人間ではない。か。何とも興味深い話だな」
『ところでよぉ、このおねーさん、そこに居るエラそうな奴放置して会話して来てるけどあいつより位高けぇのかな?』
だから黙ってろ。茶々いれてくるんじゃねぇよ。ホント邪魔しかしないなお前は。
『いや、一応、俺ナビゲーターなんだけど?』
ナビゲートならナビゲートしてくれ。しないなら黙ってろ。
「そうね。その辺りの話はまたおいおいに、今の問題は何故この魔族領に来たか、でしょ?」
「むぅ、気になるじゃない。だが、よかろう」
今、一瞬無邪気な女の子みたいな口調が出たぞ。もしかしてこの娘、無理矢理キャラ作ってるんじゃ……
「まずは理由を聞かせて貰おう。正直に話せ。命令だ河上若萌」
いきなり真名だと!? ステータス強制表示が使えるのか!?
「そうねぇ……真名でいきなり命令しなくても話す気だったんだけど……まぁいいわ。私達が来たのは人間領が危険だと判断したから。私達を召喚した国は真名で私達を無理矢理従わせようとした。勇者として召喚しておいて奴隷のように使うなんて許されると思う?」
ニヤリと不敵に微笑む若萌。既に彼女の命令権は俺専用に委譲させて貰っているので他の誰かによる真名での操りは効かない。
そのことに気付いたようで、ユクリティアッドも不敵な笑みで対応して来た。
「なるほど、対策は万全と言う事か。残念だ。人間をペットに出来ると思っていたのだがな」
「あら、それはご愁傷様。真名については人間領で嫌という程体験したからもういらないわ」
黒い笑みを浮かべあう女性たち。なぜか周囲の空気が一気に冷えた気がした。
なぜ女性ってのはこう、向い合うだけでここまで怖くなるのだろう?
『女って怖いよなぁ。俺も刺されないように気を付けないと』
実際刺されるんじゃないか? あ、もう死んでるから刺される心配は……あれ? そういえば武藤も人魚の血飲んでなかったっけ? ってことは生きてる可能性があるのか。
ま、まぁあいつのことはいいや。この世界じゃ関係の無いことだし。
「なるほど、つまりお前達は魔族の庇護下に入りたいと?」
「そんな事は言っていないわ。この地域にいるけど手は出さないでほしいといっているの」
「はっ。人間が魔族領に居ると知って放置などできるか阿呆が」
おっと、なんだか雲行きが怪しくなってるぞ。バカ怪人の相手をしてる場合じゃなかった。
『バカは余計だ。つかお前だってだいぶバカじゃないか。ちょっと考えれば分かるだろ若萌のこととか』
若萌? 若萌がなんだってんだ? もしかして、俺に惚れてる!?
いやいや、さすがにそれはないか。でも萌葱の娘なら……
いかんいかん。そういう目で仲間を見るべきじゃない。うん、そういうのは確信が持てるまで放置だ。
「なぜ? 何もしないと言っているのよ?」
「ふん。だから放置? 巣作りして卵を産んだ鳥の隣に蛇が越して来るようなものではないか。安心できる訳が無かろう」
『言いえて妙な例え話しだな。蛇って鳥の卵食べるし。食べないよとか言われても絶対信用できねぇぞ』
解説すんな。殴り飛ばすぞ。黙ってろ。
「ならば、どうする気?」
「朕の側近として召し抱えてやろうか? 絶対服従は約束して貰うがな」
まさに悪逆といった顔で不敵に微笑むユクリティアッド。
『なんかよぉ、この人キャラブレしてないか? でも今のちょっとウチの首領に似てた気がする』
だからいちいち感想言うな。はっ倒すぞヒョットコ野郎ッ。
「冗談でしょう? でも、交渉決裂というのなら、やるしかないのかしら?」
「ほぉぅ。いいぞ。実力で屈服させてやるのもやぶさかではない」
『お、これ、もしかして強制戦闘パターンじゃね。やったな河上。美女とくんずほぐれつできるんじゃないか? 胸触っちまえ、今なら事故ですませられるぜ』
られるぜ、じゃねぇよ。変態怪人。テメェマジ黙ってろ、「ぶっ殺すぞコラ!」
「なんだと? いい度胸だな赤い男。朕が直々にボコボコにしてやるッ」
……ん?
なぜか若萌ではなく俺が闘う事になった。




