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魔族街の人間2

「何してんだろうな俺ら……」


 数日後、俺は思わず呟いていた。

 この屋敷に来てからは起きて、食事して、部屋で暇を潰して、昼食をして、部屋で暇を潰して夕食を食べて、部屋で暇を潰して、ムイムイに頼んで作って貰った簡易風呂というかプールに火炎魔法ブチ込んで適温にしてから入り、そして就寝。

 もはやシステム化された日常になりつつあった。


 つい先日まで殺し殺されする闘いの日々だったのが嘘みたいだ。

 そして、そこに四人の仲間を残してきた心苦しさと、何もしない焦燥感が二人を苛んでいる。

 俺はベッドから降りると若萌に視線を向けた。


「一つ、気付いたことがあるんだ」


「何かしら?」


 黒髪の少女は億劫気に顔をあげる。

 一応、寝る前と起きた時にストレッチをしているが、それ以外食っちゃ寝している彼女もまた、運動不足感がでているような気だるげな動きをしている。


「俺にヒキコモリは向かない」


「知ってた。顔とか身体つきからして体育会系だもの。線は細いけど何の目的もなく外をふらつくような毎日を送ってそうな気がする」


「酷いたとえ話だなオイ。まぁいいや」


 とにかく、じっとしているのも飽きてきた。そろそろ活動期に入るべきだろう。

 と言ってもムイムイの自宅謹慎が解けなければ動けない事に変わりはない。

 なるべくムイムイに迷惑をかけないようにしないと、衣食住を提供してくれている気の良い魔族なのだから。


「入るぞ」


 ノックもなくドアが開く。

 本日も様子を見に来たムイムイが部屋を見回す。


「ふん。相変わらず食っては寝ての繰り返しか人間共」


「やること無いしな。そろそろ動こうかと思ってたところだ。謹慎はどうなった?」


「喜べ男。本日、これから貴様等に出頭命令が出た。私が連れて来た存在をみたいと上層部からのお達しだ。その状況次第で私の進退も決まる。全くとんだ貧乏クジだ」


 なるほど、俺達が何者か探りに来たか。

 俺と若萌は顔を見合わせる。


「いつかは来るだろうと分かっていたでしょう。私達だけなら逃げるくらいできるでしょうし、一応人間と判別されにくいように変身して向いましょ」


「ああ。そういえば若萌も変身できるんだっけ?」


「ええ。ジャスティスアイゼン……そうね、スーツ姿の時はアイゼンとセイバーで呼び合いましょう。その方が都合が良さそうだし」


「魔族領だしな、スーツ姿の方が人の姿よりは警戒感が無いか、なぁムイムイ」


「ふん。お前達の事は新種の魔族として伝えてやったからな。せいぜいボロを出さないようにしてくれ。私のために」


「酷い女だ」


「お前らに言われたくないッ」


 噛みつきそうなムイムイを無視して俺達は変身を行う。

 俺は赤いスーツ姿に、若萌、いや、アイゼンは純白のスーツへと変化した。

 やはり女性らしく胸元が強調されている。心なし、大きくないか?


 じぃっと視線を向けているとアイゼンが胸元を隠して睨みつけて来る。

 違う、変態じゃない。ただちょっと盛ってないかと思って見ていただけだ。

 そんなエロい気持ちは微塵もない、本当だからっ。


「と、ところでアイゼン、ロードできるのは弓でいいのか?」


「ロード? ああ、生成武器ね。私のはハルバードね。といっても外国式のハルバードではなく和式のもの、つまり薙刀なのだけど左右両方に刃が付いた薙刀が生成されるわ。なぜかハルバードと言わないといけないけど。多分薙刀を外国ではハルバードと言っているのね」

 そうなのか、薙刀ってハルバードなのか、確かにハルバードって槍と斧の融合体みたいなかんじだけど。




 アイゼンやムイムイと会話しながら郊外にある駐屯地へと辿りつく。

 館内へと入り、目的の室内へとドアを開いて入室すると、目の前に三人の魔族が待っていた。

 デスクの対面に座っていた厳つい顔の男性魔族。右側の壁に椅子が置かれており、そこに十代後半くらいに見える角の生えた女性と、出来る男感のある老齢の男が座っていた。


 デスクに肘を付いてどっかの指令官みたいに組んだ両手を顔の前に置いていた男性魔族が入室して来た俺達をギロリと睨む。

 さらに老齢の男がなぜか立ち上がり、女性を庇うように一歩前に出る。


「魔王軍第5部隊所属突撃部隊ムイムイ、ただいま参上致しました」


「うむ。そこの二人が件の新種の魔族か」


「はっ!」


 あ、ダメだ。ムイムイの冷や汗というか脂汗が滝のようだ。

 顔も真っ青になっていて、明らかに嘘がバレる直前だ。多分見る奴が見れば表情だけで疑惑が深まることだろう。


「さて、ではそこの二人に尋ねよう」


 と、一度魔族の女性に視線を向けた男は厳かに告げた。


「魔族領に、何用で来た、人間共」


 モロバレだった。

 ムイムイがあまりのショックで気絶した。

 急にバタリと倒れたムイムイを慌てて背後から受け止めるが、既に意識が無かった。


「ふむ。小娘には少々お灸が効き過ぎたな。其の方、その女は床にでも寝かしておけ」


 声を発したのは今まで座ったままだった女。外国人がお手上げしたような形状の角を持つ女性だ。

 深い藍色の髪を揺らしながら立ち上がる。着ている衣装がほぼビキニなだけに、むっちりとした身体が強調されてどこかエロチックだ。

 はちきれそうな胸を見ていると、思わず若萌に肘で小突かれた。


「朕の名はユクリティアッド。どのようにその女を誑かしたかは知らんが、素直に吐いてもらうぞ人間共」


 ニタリと笑みを浮かべるユクリティアッド。人を食ったようにペロリと唇を舐めた。

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