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外伝・勇者、それぞれの始まり2

「おいおい、人間よぉ。ここは魔族の国だぜぇ?」


「へへ、無謀過ぎるだろ、楽には死ねねぇぞ?」


 魔族が支配する大陸を、矢鵺歌は一人、ひたすらに歩いていた。

 当然、魔族にだって遭遇する。

 既に疲労困憊の彼女だが、目だけはギラついていた。


「助けなきゃ。謝らなきゃ……」


「はぁ? 助けが居るのはテメェだろ? 俺様はレベル24だぜぇ。エルフだって屠れる凶悪な魔族で……ぶぎゃっ」


 自分の道を阻む魔族を矢で撃ち殺し、再び進む。

 矢鵺歌にとって目的はただ一つ。自分が真名を握られたせいで同じくあの外道宮廷魔術師に真名を握られたであろう若萌の救出だ。

 どこにいるかは分からない。護衛として付いていた誠も自分が殺してしまったのだ。

 若萌が無事に生き残っているのかどうかも分からない。

 ただ、宮廷魔術師が死んだから自分の真名による命令が解けたのは分かっていたので、おそらく逃げ伸びた若萌は魔族領に逃げ込んでいるはず。だからこそ、探しだす。


 だけど……結局、飲まず食わずで見知らぬ土地を彷徨うのは無謀だった。

 鳴り響く腹の音。痩せこけ、かさつく唇からは空気すら漏れにくくなっていた。

 どさり、赤茶けた大地に倒れ伏す。


 助けなければ。自分が起こしてしまった過ちを、若萌を救わなければ……

 必死に前に進もうと手を伸ばす。

 震える腕はいくらも前に進まなかった。


「あらあら、これが最近噂の人間さん? 死に掛けではありませんの」


「お嬢様、あまり近づき過ぎぬよう、手負いの獣ほど危険なモノはありません」


 誰かの声が聞こえた。

 霞む視界、明滅する意識。なんとか聞き取ろうとするが頭も回らなくなっている。

 必死に意識を保とうとするが、結局眠気に抗いきれず矢鵺歌の意識は闇に飲まれた。


「あら、アイテムダイアログが出ましたわ。教会に連れて行きましょう」


「え? アイテムを回収しないので?」


「ええ。人間を飼うというのも面白そうではありませんの。それも単身魔族領に乗り込む猛者ですのよ。ふふ、楽しくなりそうですわ。ああ、真名を見るのは私だけですわよ。他の者が見たり命令したりするようならそいつ殺して構わないわ」


「御意に」


 二人は矢鵺歌の遺体を回収し、歩き出す。その向う先には、魔族が作りだした街があった。




「MEY!」


「はいはいっと」


 深い森の中、突撃して来た鹿のような生物を横合いから槍で突き刺しトドメを指すMEYがいた。

 どぅと倒れた鹿のアイテム入手ダイアログにNOを押してから離れる。

 すぐ後ろの叢から、エルフ女がやってきた。


「ようやく様になってきたわね」


「そう? はぁ、もう、なんでこんなことさせられてんだろ。私ぃ、ゆっくり暇してるのがいっつもなのにぃ」


「長老の温情で村に住まわせて貰っている身だろう。食いぶちぐらい働いておけ。ほら、解体するわよ」


「あー、はいはい、周囲警戒してまーっす」


 MEYは今、エルフと共に生活していた。

 人間である彼女はエルフから敵意を向けられるのだが、かといってどこかに行こうにも竜巻のせいでこの森がどこなのかすらわからない。

 ついでに言えばエルフの集落を知る人間が他所に行くのをエルフ達が黙っている訳もなかった。


 神がこの女も同じ場所に連れて来たのも何かしら意味があるのだろう。と曲解した長老により処刑されることはなくなったものの、エルフと生活する以上、MEYも狩りやら何やらをしなければならない。

 ものぐさな彼女だったが、仕方無く狩りを手伝う事にした。


「全く、洗濯は爪が剥がれるから嫌だとか、芋虫の捕獲は嫌だとか、毒キノコがどれかわからないとか。戦闘以外役に立たないのにぶつぶつと文句垂れるわ。だから人間って嫌い」


「私だってエルフ好きじゃないし、男はタンパクだし、媚びただけで嫌悪されるってどうなのよ? しかも主食が木の実と芋虫? 何このゲテモノ種族」


「誰がゲテモノよ。獣の肉を共食いするようなゲテモノな人間には言われたくないわね」


 血抜きを行い肉を切り取ったエルフ女がMEYに肉を与える。


「アイテムで入手すると肉一つで終わるけど、解体すれば沢山手に入る。それに、精霊樹の雫をたらせば……」


 切り取られた肉が盛り上がり、殺したはずの鹿が起き上がる。

 鹿は自由に動けると知ると、慌てたように走りだして行った。


「これで無意味な殺生なく肉を手に入れられるでしょ。人間は自然の営みというのを壊し過ぎるのよ」


「私に言われても困るかなぁ。基本受け身だし私」


「受け身? 誰が?」


 じと目を向けるエルフ女を放置して、MEYは新たに作られたエルフの集落へと向かう。

 その表情に苦悩は無い。実はこののびのびとした生活が性に合っているらしいMEYだった。

 ブツクサ言いながらも今日もエルフたちと暮らして行く。

 彼女の周囲は、いつも平穏の日常が流れていた。

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