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外伝・勇者、それぞれの始まり1

「よくぞ無事、エルフの森を攻略してくれた。改めて礼を言おう勇者たちよ」


 王国に戻った大悟と玲人は、たった二人となった勇者として王国から褒章を受け取っていた。

 誠と若萌は行方不明。MEYは大悟の前で竜巻に攫われて行った。生存は絶望的だろう。

 矢鵺歌はいつの間にか居なくなっていた。どこに行ったのかも分からなかったので、おそらくエルフに討たれたと判断された。


 結果、生存して森から国へと戻ってきたのは、大悟と玲人だけになっていた。

 二人は未だ理解できない顔で国王の言葉を聞き、そして大広間を後にする。

 部屋に戻っても大悟は狐に抓まれたような気分だった。


 ベッドに腰掛け、気抜けた老人のようにぼぉっと虚空を見つめる。

 人を殺した。

 否、人型の亜人を、それも自分から率先して、楽しんで虐殺した。

 自分以外が身体を動かしているような不思議な感覚だったが、殺す事に快楽を見出していたのは確かだった。


 両手の平を見る。

 綺麗な肌色だったが、何故だろう、真っ赤に濁って見える。

 沢山殺した。自分が殺した。

 つい先日まで、平和な日本で暮らしていたはずの学生が、笑いながら大量のエルフを虐殺してしまった。


「なのに、なんで……」


 本来なら許されないことだ。

 だが、この感情はなんなのだ? 内から溢れ出そうになる、歓喜の雄たけびは?


「失礼します」


「え?」


 コンコンと、音が鳴り、ドアが開かれる。

 光と共にやってきたのは、この国の王女。

 想定外の人物の訪問に大悟はただただ呆然と彼女を見つめていた。


「貴方様が戻って来ていただいて、嬉しく思います大悟様」


「姫、様?」


「正直、皆死んでしまわれるのではと不安でたまりませんでした」


 ゆっくりと部屋に入ってきた彼女は、大悟の隣に腰掛け手を取る。

 身体を寄せ、上目遣いに大悟を見上げた。


「帰って来てくださり、ありがとうございますわ大悟様」


「え、あ、うん?」


「私、大悟様の帰りをずっと、ずっとお待ちしてましたのよ。一目見た時から貴方こそ私の勇者だと」


 驚く大悟に、王女は言葉を尽くしてほめちぎる。

 可愛らしい女性から褒められ、慕われるような言葉を尽くされれば、童貞少年が靡かぬはずもなく、直ぐに王女を意識し始め、エルフ虐殺のことなど頭からすっぽ抜ける大悟。

 そんな大悟に王女はさらに詰め寄り耳元で告げる。


「大悟様。互いの真名を交換いたしませんか?」


「真名を、交換?」


「はい。お互いのみの命令しか聞けないようにするのです。そうすることで相手を縛り、自分も縛られる。この国では夫婦の宣言とみなされております」


「ふ、夫婦!? いや、あの、でも、僕なんて……」


「あなたが、良いのです。大悟様。真名を、下さいますか?」


「……うん」


 こくりと頷く大悟にありがとう存じますと抱きつく王女。

 ぎゅっと抱きつかれた大悟は柔らかい胸を押し付けられて真っ赤になる。

 どぎまぎする大悟に抱きついたままの王女が、ニタリと醜悪な笑みを浮かべるのを、彼が気付くことは無かった。




「チッ、どうなってやがるこの国は」


「玲人様?」


 玲人はベッドに寝転がりながらふと告げる。

 その隣にはとある侯爵家の妻がいた。

 魅了の魔眼で一度落として真名を聞きだし、今は真名で縛っている女だ。

 彼女の話では相思相愛であれば真名を交換するらしいのだが、政略結婚の場合はこれを行わないそうで、簡単に真名を玲人に捧げたこの女は彼のパトロンと化していた。


「お前の夫は今日は?」


「本日は帰りませんことよ。エルフの森の件で数日は城に詰めますわ。それに宮廷魔術師様も戻っておられないようですし、我が夫の仕事がさらに増えるでしょう」


「そりゃよかった。俺は近日中にこの国を出る。その為の支度をしたい。金を出せ。後でバレでもいい訳できる程度でいい」


「それでしたら私のポケットマネーから……」


「大切なお前の金を貰う訳にいかないだろ。主人の金からでいいさ」


「ああ、なんとお優しい玲人様」


 まぁ、どっちからもふんだくるんだけどな。と一人ごちる玲人。

 ベッドに転がりながら玲人は考える。

 消えた四人の勇者。気が付くまで嬉々としてエルフを殺していた自分。抗う事すら出来なかった真名の威力。


「まさか寝てる間に真名で操られてるとはな。ふふ、だがイイことを知れてよかった。一人だけに名を捧げれば問題無いとはな」


「あん、もう、浜崎玲人、命令です。私を抱いてください」


「アホか、真名使わなくても抱いてやるっつの」


 玲人は夫人にキスをしながら今後を考える。

 自分の能力は魔物テイムに魅了。

 この二つさえあればそれでいい。俺はこれで成り上がる。

 これからの未来に向け、玲人は静かに冷笑するのだった。

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