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外伝・不幸な英雄の伝承2

「精霊樹が!?」


 不意に、MEYのすぐそばで女の声が聞こえた。

 さすがに強風で振り向くことすら出来ないが、彼女はこの巻き上げる風の中MEYの腕を掴んで離れないようにしている。

 しかし、知り合いではなかった。


「ああ、精霊樹が空にっ、嫌っ、精霊樹が無くなったら私達はっ!」


「耳元で煩いっ、何なのよこれはっ」


 叫ぶ女に叫びで返す。


「へ? エルフ? いえ、人間!? チッ」


 MEYに気付いた女は慌てて腕から手を放す。が、今度はMEYが咄嗟に腕を掴み取った。

 その瞬間、視界の先に誰かが映った。

 この巻き上げる風の柱の中心で浮遊している一人の男。

 半身が機械でできた不思議な男が竜巻の中央で浮いて沈んでを繰り返していた。


「あれは……」


「放せっ、放せ人間ッ」


 空中でもがくエルフ女らしき女に気を取られた時には、もう男の姿は見えない場所に来ていた。

 竜巻の頂上だ。

 吹き上げられた頂上から異物はいらぬというように吐き出される。

 風が冷たい。上空からパラシュートなしの自由落下。

 高度は果たしてどれ程なのだろうか?

 少なくとも凍りつくほどの寒さは無い。だが、下に雲が見えるくらいの高さである。


「これ、絶対死ぬな」


「放せ人間っ」


 もがくエルフ娘を掴んだまま、命綱無しの生身でフリーフォール。上空数千メートルの自由落下は、恐怖など一瞬で吹き飛んだ。

 MEYの視界に広がるのは見たことのない雄大な自然の大地。

 ビルの上からでも見ることのない壮大で、荘厳で、優美な景色に、しばし魅入る。


 が、落下は直ぐに始まった。先程までは横に放物線を描くような落下だったが、重力に引かれる速度が速まるについて、景色を見ている余裕などなくなった。

 口が風で凄いことになっている。見れた顔じゃない状況なのは隣のエルフも同様で、綺麗な顔が風圧で笑える顔になっている。


 二人して視線が合い、互いの形相に思わず笑う。

 風が口の中に入って来て息がつまりそうになった。

 ここまで来ると二人とも余裕はなくなり、ただただ身を寄せ合うようにして確実に迫る死を悟る。


 いつしかどちらともなく悲鳴が上がっていた。

 真下に見えるのは湖。しかし、丁度その少し横の大地に激突する角度で落下している。

 ああ、死ぬんだ。MEYとエルフ女は互いにぎゅっと身を寄せ合う。

 自分は死ぬのだと悟ると、一緒に死ぬ存在が横に居るのがなぜか安堵感に繋がる。


 その時、きっとMEYとエルフ女は確かに通じ合った。

 次の瞬間上昇気流が吹き上げ再び舞い上がる二人、地表すれすれからちょっとだけ上昇して吐き出されるように湖に放り投げられた。

 突然水中に放り込まれ、MEYは息を全て吐き出してしまう。

 エルフ娘と二人先を争うように水面に飛び出し息をする。


「げはっ。うげぇ、死ぬかと思った……」


「い、生きてる、私、生きてる?」


 ただ、エルフ娘は泳げなかったらしい。直ぐに沈みそうになったのでMEYは思わず彼女を助けて岸まで連れて行く。


「あ、ありがと……」


「気にしないで。でも、結局なんだったの?」


 余裕が出来たMEYたちは顔を見合うと、同時に上空に視線を向ける。

 エルフ達が自分たちと同じように湖へと落下して来ていた。

 さらに、湖の中央、上空から一人の男が落下して来る。


「ちょ、長老、空から男の人がっ」


「なんじゃとっ」


 MEYは思った、あれ? なんかこんな場面、男女逆で見たことある。と。

 そんなMEYの前で、湖が盛り上がり始める。

 連続して起こった意味不明の事象に呆然とするMEYの目の前に、巨大なワーム、いやオ二イソメという海の底にいるらしい生物に似ている気がする。そんな生物が湖から飛び出した。


「アレはっタイダルネクツァ!?」


 隣のエルフ娘が絶望的な声を上げる。湖向って飛んで来るエルフ達の一部がタイダルネクツァの口に放り込まれる位置で落下して来る。

 死んだ。そう思った時だった。

 空から降りて来るようにゆっくり落下していた半身機械の男が動いた。


 彼の背中から発射されたのは、おそらくミサイル。

 ファンタジー世界に不似合いなホーミング弾は放物線を描きながら旋回してタイダルネクツァを撃破する。

 その光景を、エルフ達が見上げていた。

 長老が口を大きく開けて「あれは、まさか……おお、おおおおおお……」と、謎の声を発している。


 そんな男が降ってくる、と思われた次の瞬間、再び風が渦巻き男だけを巻き上げ、ここでの用は済んだとでもいうように連れ去って行った。

 代わりに、タイダルネクツァの亡きがらを引き裂くように湖の中央に落下して来る精霊樹。

 タイダルネクツァの身体をクッションがわりにして押しつぶし、湖の中央に突き立った。


 しばらくの静寂、が、直ぐに歓声と歓喜が渦巻く。見事着陸した精霊樹の御蔭で、エルフ達が生還したことを実感したのだ。

 精霊樹もタイダルネクツァの直立した身体が支えと成り湖に丁度根を降ろした状態で生還を果たした。早速エルフ達が精霊樹の補強に向う。


「長老、今のは……」


「遥か昔、黒き聖女が我等に予言した……約束の日、西より侵略者、東より略奪者が攻め寄せる。汝等に逃げ場無し。しかし案ずるべからず、死力を尽くし樹を守れ、さすれば戦と不幸を司る神が汝らを救うだろう。空より来るアンゴルモアの王が悠久の湖へと導くだろう……ああ、予言は成った。成ったのじゃ」


 MEYの近くにいた長老とやらが涙を流して膝を付く。

 その場に人間で一緒に飛ばされたのはMEY一人。他の人間は見当たらない。皆道中に放り出され死んでしまったようだ。

 しかし、エルフは戦争の生存者は全員無事らしく、生還を分かち合って泣きだしていた。

 予言通り、まるで神の思し召しのようにエルフたちは何者かに、確かに救われたのだった。

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