表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

39/337

外伝・不幸な英雄の伝承1

「ちょっと、放してよ、放せっつってんだろっ!」


 MEYがようやく大悟の腕を振り解いた時には、すでにエルフの戦場へと辿りついていた。

 元の場所に戻ろうにも既にどの方角か分からなくなっている。

 下手に探しに向うよりもこのまま騎士団と国に戻った方が安全ではあるのだろう。


 MEYとしては誠と若萌と共に魔族領に逃れてしまいたかった。

 だが、現実はそうもいかない。

 大悟に連れられて来た自分は大悟より強いのだ。振りほどこうと思えば手を振りほどくなど簡単なはずだった。

 だが、結局は流されるままこっちにまで来てしまった。


 そして、何故だろう。エルフを倒さなければならないという強迫観念が自分を支配しているのを感じる。

 変だ。違和感を感じる。自分はもっと面倒臭がりで、やる気のない存在ではなかったか。

 人が闘ってる横でダルいダルいといいながらスマホをポチポチとやっているだけの存在ではなかったか?

 なのになぜ、自分は……?


「がぁぁっ!?」


 無慈悲に槍を突き刺し、エルフを殺している?

 先程まで殺し殺されの現場を見るだけで吐いていたはずの自分が、なぜ?

 憎しみを込めた目でこちらを睨みつける美系の男。

 普通なら媚びた目で話しかけるほうなのに、今は冷めた視線で彼の心臓を貫く。


 変だ。自分は本当に自分なのだろうか?

 疑問を持つがその端から潰されるように疑問が消されていく。

 まるで自分の身体が誰かに乗っ取られたかのような不快感を感じながら、エルフの血に塗れて行く。


 いつの間にか直ぐ横に矢鵺歌がいた。

 矢を放ってMEYと大悟のフォローを始めていた。

 少し離れた場所では玲人が闇の魔法でエルフに攻撃を仕掛けている。


「もう、疑問とかは後で考えればいいや。今はとにかく、エルフを殺す。全部、殺せば……」


 殺して、どうなる?

 あれ? なぜ殺そうとしてるんだっけ?

 私は……なぜ?


 不意にMEYは立ち止まる。気が付けば、自分の周囲は血に染まっていた。

 血溜の中、血塗れの自分が立っている。

 血煙りに鉄錆のような臭い。臭気に思わず吐き気が押し寄せる。


 なぜ? あれ? どうして?

 ついさっきまで、自分は何をしていた?

 おかしい、おかしい、おかしいっ。何が起こった。何をしていた? 自分は今、エルフ達になにを……


「これじゃ、大悟たちと同じ真名で操られた……うぷっ」


「え? あれ……俺、なんで?」


「ちょ、ちょっと待ってくれよ、僕は、あれ? 僕が、彼らを殺した……のか?」


「……私、なんてことを……若萌さんっ!」


 まるで今まで夢でも見ていたみたいに、一斉に我を取り戻す面々。ソレを見て、MEYは悟る。

 真名は隠していたつもりだった。なのに、なのにだ。彼ら同様自分もまた操られていたのだ。

 その事実に気付かされ、MEYは絶望感に苛まれる。


 ダメだ。このまま国に戻ったら自分はただの奴隷にされる。

 あの破裂した少女のように、弄ばれて殺される。

 口元を拭い顔を上げると、既に矢鵺歌の姿はなかった。

 どこかに走り去ってしまったらしい。


 未だ混乱している大悟と玲人は自分たちがしたことを再認識して愕然としている。

 彼らもエルフを殺す気はなかったはずだ。

 なのに気が付けば沢山の屍の上に立っていた。


「見つけたぞ人間めッ」


「殺してやるっ」


 しかし、仲間を殺されたエルフにとって大悟たちがどんな存在かなどどうでもよかった。

 人間側に組する敵。その事実があれば問題無いのだ。


「う、うわあああああああああああああっ!?」


 大悟が最初に逃げ出した。

 玲人も弾かれたように逃げ出す。

 MEYは……MEYはただただそれを見送るだけで、自分も逃げないとと、思った時にはすでに目前へとエルフ達が近づいていた。

 殺される……っ。


 悲鳴を上げるべく口を開いた、その刹那。

 風が……吹いた。

 異変を察したエルフ達が動きを止める。怯えるMEYの眼前、切っ先はおそらく5ミリも離れてないだろう。


 間近に迫っていた死の危機を目の当たりにしたMEYは呼吸荒く、切っ先から視線を反らせられない。ただ、死ぬ時間が多少伸びた事を理解していただけだ。

 でも、次の瞬間、そんな死の恐怖など一瞬で吹き飛んだ。


 轟風が轟いた。

 木々を巻き上げエルフ達を吹き飛ばし、MEY自身も風に巻き上げられて空高く吹き飛ばされる。

 悲鳴が上がったが風の音にかき消されていた。


 竜巻だ。エルフの森に竜巻が襲いかかって来たのだ。

 突然過ぎる風の襲撃に、エルフも騎士団も成す術なく巻き上げられていく。

 エルフの存在根源である精霊樹もまた、その身体を巻き上げられていた。

 MEYは絶望感を更なる絶望で塗りつぶされながら、自分がどうなるかをただただ風に飲み込まれながら見ていた。


 ぐるぐると回転しながら急激に上昇していく。

 終わりはきっと、すぐそこだ。

 何も出来ない無力感を味わいながら、ただ流されるまま竜巻の上方へと押し上げられていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ