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ナビゲーター

 死んでしまった。

 もう、ここで俺は終わりなのだ。

 まだ意識はあるがもう身体も動かなければ声も出せない。

 おそらく、肉体が完全に死んでしまったのだろう。


 これはアレだ。

 アイテム入手確認ダイアログが出ている状態だ。

 俺の意識はあるけれど暗い闇の中一人存在しているだけの状況、誰かが生き返してくれなければ俺が生還する事などなく、アイテムを入手されればそこで終わる。


 完全に詰んだ外界の状況からして生き返されることはほぼ不可能。

 終わったのだ。俺の人生も、物語も、正義を成す事などできず、閉じてしまった。

 もう、俺は……


「なんだ河上、もうギブアップか。お前の正義ってその程度だっけ?」


 不意に、聞いたことのある声が聞こえた。

 あり得ない。と思いつつ顔を上げる。

 暗闇の中、人影が見えた。周囲に光が無いので人型が存在すると思われるだけで誰かは分からない。だが、知っている、そいつの名は……


 ――武藤!


 声にならない声で叫ぶ。その瞬間、暗闇の中の人影が明確な人へと変化する。

 否、それは人では無かった。気持ち悪い肌色のひょっとこのようなラッパ口を持つ細胞顔の化け物へと変化した。


 ――なぜだ武藤! なぜお前がここにいる!?


「おいおい、その武藤が誰かは知らないっつの。俺はただのナビゲーターだぜ? 神様から与えられたスキル覚えてねぇの?」


 ――スキル?


「ああ。その辺りは無意識なのか。まぁいいや。レベル5を越えたので覚えたスキル、ナビゲーターが俺だ。あんたの頭の中で一番必要としている人物の姿と口調でアンタをナビゲートするスキルっつー奴だ」


 ナビゲート? 俺の頭の中で一番必要としている人物の姿を口調を真似る……

 それでなんで武藤の姿なのかは疑問だが、成る程、こいつは武藤自身ではなく俺が作りだしてしまった幻の武藤ってことか。

 そこまで追い込まれていたのか俺は……


「それより河上、そろそろ動かないと本格的にヤバいぞ?」


 ――動く? 残念だけど武藤、俺はもう終わったんだ。


「はっ、何が終わっただ。まだ始まってもねぇっつの、ほら、耳を澄ませ正義の味方。テメェの耳に虐げられし者の助けは聞こえないのか? そろそろ正義を始めようぜ、ジャスティスセイバー」


 虐げられし者? 俺はもう、ダメだっていってるの……に……

 ああ、聞こえる。聞こえてしまう。

 若萌の助けを求める声が、本当は従いたくないと告げる矢鵺歌の声が。

 スケイルをこのままにしておくわけにはいかない。


「目を開け、現実を見ろ。テメェのエゴを押し付けろ。正義は勝者だからこそ正義足りえる。それがお前の正義だジャスティスセイバー」


 ――決めつけんなクソ野郎。チクショウ、なんでいつもこいつに促されて動くんだ俺はっ。悔しい。悔しいけど、今はっ


 目を開く、全身に力を入れる。立ち上がる。

 ステータス表示。ナビゲーターが使えたという事はおそらく……


 名前:武藤誠 真名:河上誠

 Lv:33

 状態:ふつう

 スキル:変身・変身解除・強制ステータス閲覧・モンスターテイム(1/4)・飛行・セイバー生成・人魚の血×11

 レベル制スキル:Lv5:ナビゲーター・Lv10:ステータス完全隠蔽・Lv15:真名無効・Lv20:金剛・Lv25:ハンドフリーシールド・Lv30:ブーストスタンピード

 必殺ギルティ系:バスター、ペネトレート、ライナー、スマッシャー、アーマー、セイバー、ニルカナイア

 装備:変身ブレスレット・アイテムボックス


 開放のスキルが消えた。

 代わりに変身解除、飛行、セイバー生成、そして人魚の血。そう、人魚の血だ。

 俺のクラスメイトには変な存在が多かった。そのうちの一人が人魚で地下アイドル目指してた女だ。武藤ハーレムに加わっていた奴だが、こいつの血を貰う事で肉体再生を行う事が出来るようになる。しばらくのあいだ不死になるっていうことらしい。


 そうか、開放のスキルが開放された瞬間この人魚の血スキルにより強制的に死亡がキャンセルされて体力が全快、鏃も抜けたってことか。

 ふふ、死んでから能力開花って最悪だな。だが、ああ、だが今は感謝している。

 今まで目を付けられることなく、クソ野郎を殺せるんだから。


「ロード、セイバー」


 蚊が飛ぶくらいの声で小さく呟く。

 手に生成される懐かしい感覚。

 少しの間手に持ってないだけで懐かしさを感じるほどにしっくりと来る重量。

 俺はぐっと握り込む。


 視線を上げると、驚き目を見張る若萌と視線が合った。

 下卑た薄笑いを浮かべるスケイルはまだ気付いていないらしい。

 さぁ、断罪の時間だ。


「行くぜ、ジャスティス。貫け、セイバー! 必殺! ギルティーペネトレイト――――ッ!」


「は?」


 不意に聞こえた声に驚いた顔をするスケイル。彼が異変に気付いた時には、既に遅過ぎた。

 自身を貫く不快感。ずどんと揺れる身体の胸元に、突起物が生えていた。

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