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悪意の一撃

 エルフの激戦区に向う、振りをして俺達はその側面を突き抜ける。

 かすかに聞こえる剣撃を右方向に感じながらも無視して進む。

 矢鵺歌があっちから声が聞こえますよ? と不安げに告げるが、俺も若萌も気にせずこっちが中央だと向って行く。


 その先には多分エルフはいない。

 何しろ俺達が向っているのはエルフが守る中心部ではなく、そこを通りすぎた先にある場所なのだから。

 ひたり、足元に水を感じて思わず足を止める。


 海だ。海水が地面に染み出ている。

 どうやらここが境界線になるらしい。

 森はまだ続いているが、地面は徐々に水没しており、海が森を侵食している。


「あの、こっちは魔族領に向う事になりますよ!?」


「中心部ってくらいだし、ここの中央なんじゃないの? 行きましょう!」


「ああ。行こう!」


 矢鵺歌が戸惑っているが、俺達は気にせず歩みを再開する。

 途中からは陸路が無理だったので木に登って枝から枝を伝って行く。

 木々が水没しているせいか、徐々に水面に近づく枝葉のせいで、木の上を歩いているのに水面を歩いているのと大差ない状況になる。


「凄いわね。海の中で木が生えてる。なのに本当に枯れてない」


「精霊樹の御蔭なのかね。不思議な事もあるもんだ」


「あの、やっぱり戻りませんか? これ以上行ってもエルフの中心地は無いと思います」


 海を渡りきり、再び地面に降り立った俺達は、周囲を見回す。警戒したがスケイルは付いて来ていないようだ。安堵の息を吐いて若萌に視線を向けた。


「矢鵺歌さん。残念だけど私達はエルフと闘う気は無いわ。このまま魔族領に向う事にする」


「え? それって、逃げるってことですか!? MEYさんもいないのにっ!?」


「仕方無いでしょ、好機はおそらくこの一度切り、下手に戻ればスケイルだっけ? 宮廷魔術師にいいように使い潰されて終わるだけでしょうね。だったら誠と魔族領で自力生活した方がマシ。私は真名も知られてるから、あの国に居る方が危険なのよ」


「や、やっぱり……逃亡するんですね」


 ああ。と俺も答える。

 つらそうに震える矢鵺歌。その両手が、弓と矢を構える。


「矢鵺歌?」


スケイル様・・・・・の言った通りですね、誠さん、残念です・・・・


 ひゅんっと矢が飛んだ。

 俺はただそれを呆然と見ていた。

 仲間だと思ってたんだ。だから、だから攻撃されるなんて思ってもみなかった。


 心臓に、矢が突き立つ。

 意味が分からず矢を見ると、鏃は完全に体内に埋没していた。

 身体から急激に力が抜ける。


「誠っ!? なん、なんで!? 矢鵺歌、なんでこんなっ……」


「あはっ。簡単ですよ若萌さん。このまま逃亡されて私のゲームにイレギュラーが発生して貰うの困るんですよね。折角楽しい遊び場ができたのに、駒が勝手にどっか行くとかあり得ないでしょ?」


 壊れた笑みを浮かべるように矢鵺歌は嗤いだす。


「あはっ、いや、ホント、アホばっかで嫌になるわぁ。真名? そんな詰まんないシステムどうでもいいっつの。この世界ならいくらでも人を射れるんですよ。最高じゃないですか、なのに逃げるとか、訳わかんない。それだったら私の糧として逃げる獲物役やってくださいよっ。どうせならMEYさんも纏めて狩っちゃおうかと思ったけど、まぁそれは後でいいか。今は二人も獲物が出来て嬉しいっていうかぁ……さぁっ、ほらっ、さっさとケツ振って逃げろや雌豚ァッ!!」


 再び番えた矢を若萌に向ける矢鵺歌。

 完全に間違えた。この女。イカれたゲーム脳の持ち主だ。

 クソ、身体が動かない。


「くっ、誠……っ」


 悔しげに呻きつつ、矢を避け逃げ出す若萌、矢鵺歌は嗤いながら彼女を追って行った。


「いやいや、ここまで上手く行くとは思わなかった」


 俺は死ぬのか? そう思った次の瞬間、嫌味な声が聞こえて背筋がゾクリとした。

 顔をあげれば、そこには下卑た顔のスケイル。


「貴様……矢鵺歌に何を、した?」


「真名で少々、認識を弄りました。ああ、ご安心くださいな、三人の女性は皆凌辱は行っていませんよ。まだ、ね」


 イカれた女なんて言って悪かった。矢鵺歌は真名で認識改革されたんだ。こいつが何かしたんだ!!

 いきなりの矢鵺歌の裏切りはおかしいと思ったんだ。

 こんな事できるイカれ野郎だったらもっと早くに馬脚を現しててもおかしくないし、エルフの死を見て吐くわけがない。もっと仲間を信じろ自分ッ。

 だが、いつだ? いつ、どうやって……


「真名は……あんたの真名は俺が唱えたはず、矢鵺歌とMEYは……」


「君は、真名について本当に勉強不足だね。いいかね、真名を知れば操れるというが、操られない方法があるのは分かるだろう。そう、信頼できる存在に捧げればいいのさ、その方だけの命令は聞くが他の命令は聞かないというね。君等が来るまでソレをしてない存在が居ないと本気で思っていたのかね。暗殺の観点からも国王陛下に臣下は真名を捧げているに決まっているだろう」


「つまり、テメェ、俺が真名で命令したの、聞いた振りしただけってことか」


「君の真名を唱えて命令してもよかったのだがね。こちらの方が面白いし、君が存外役立たずなのでここで消しておくことにしたよ。大したスキルを持たない勇者など不要だ。ああ、安心したまえ、矢鵺歌君には若萌君を殺さないように命令している。ボロ雑巾にしてから私の前に連れて来てくれるよ。君が死ねば命令権は白紙になるからゆっくりと私専用の勇者として可愛がってやるとしよう。ふふふ、はーっはっはっは!」


 くそ、結局、結局こいつの掌の上か……

 武藤、何故だ。何故俺じゃ救えない?

 正義の味方に成れない?

 ああ、なんで俺はこんなに……無力……―――― 

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