後日談7
「お、お、おおおおおおっ! なんだ、ここは!?」
「あ、こら、いきなり迷子フラグ立てんなっ!」
本日、シシルシは地球に様子を見に来た手塚至宝に強請って秋葉原へと繰り出していた。
至宝のムーブで一気にここへとやって来たので移動にかかった時間は1分もなかった。
メイド喫茶が立ち並ぶ街並みを見てシシルシが目を輝かす。
「お、おお!? 三つ目、三つ目少女がいるんだな!?」
「こ、コスプレ、ですかな。拙者、写真撮りたいでござる!」
「モコ氏、おまわりさんこっちです案件ですぞ、ここは涙を飲んで見守らねば!」
「だとよーシシー」
「写真? シシーの写真撮りたいのお兄ちゃんたち。別にいいよー?」
無邪気に微笑むシシルシに、カメラ小僧達が群がって行く。
そのまま至宝まで巻き込まれ写真を取られまくりながら電気街へと向かう二人だった。
オタ系男子たちに笑顔で手を振りながら別れを告げたシシルシは、深淵の覗く瞳で「ケッ」と唾を吐き散らすようにしていたが、至宝以外はその顔を見ることはなかった。
「で? なんだあの人畜無害なオーク共は?」
「シシーが珍しかったんだろ。なぜあたしまで撮られてたかは知らんが」
二人が向かったのはゲームショップだった。シシルシがここに来た目的の一つである。
パソコンゲームではなく今は持っている家庭すら少なくなった家庭用ゲーム機だ。
スマホゲーム普及により人気が奪われ気味のゲーム機だが、シシルシにとっては初めて触れる未知の娯楽である。
目を輝かせて店内を見て、あっちこっちにふらふらと寄り道しては至宝の元へと戻ってきて興奮気味に話し始める。
「すごい、すごいよ至宝ちゃん! 見て見て、あのクオリティ、目がおっきぃ、あんな人居るの!? 現実にいないよね。でもすっごく可愛い。アレ欲しい! 三つ目だよ三つ目!」
店内の天井に付いていたテレビ画面から流れていた最新ゲームの案内に目を輝かせるシシルシ。
「アレは……死天使系魔法少女トリプルアイズ? 属性くっつけりゃ良いってもんじゃないぞ。黒い翼に死神の鎌で三つ目のツインテール?」
「目からビームでてるよ! すごいすごい。アレシシーはできないよ! 今度練習してみよう! 三連装ビーム! かぁっくいぃーっ」
「他人に迷惑掛けんなよ……」
何言っても無駄だろうとせめて他人を巻き込まないように告げながら件のゲームがあるコーナーへと向かう。
そんな時、入口方向から金髪の少女と赤髪の少女がやって来る。
「フローシュ先輩、本日は何故ここへ来たんだお?」
「ハニエル様が最近出た新作ゲームプレイしたいとかで、えっと、死天使系魔法少女トリプルアイズ? っていう題名のゲームなのですよ。全く大天使の癖に何してんですかねあの人は、ハニエル様らしいっちゃらしいのですが」
「あ、あそこですお!」
至宝に案内されたシシルシがゲームコーナーからソフトに手を差し伸べる。
その瞬間、別方向から伸ばされた手が同時にソフトを掴み取った。
「ん?」
「お?」
出会ってはいけない二人が邂逅してしまったことを、まだ、誰も知る由もなかった。
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「ギルティーセイバーッ!!」
「ぎ、ぎゃあああああああああああああっ」
ジャスティスセイバーの一撃が悪を滅ぼす。
ジャスティスレンジャー結成の切っ掛けとなった悪の組織パステルクラッシャーの残党がついに滅んだ。
周囲を見回し、安全を確認してから変身を解くと、誠は大きく息を付く。
「ふはぁ。ようやく決着付けられたか」
「御苦労セイバー。これで本当の意味でお役御免だな」
今、河上誠はラナリアへの指名依頼を受け、古巣であったジャスティスレンジャーと共にパステルクラッシャー残党の討伐任務を受けていた。
ラナリアは首領の意向で現代版冒険者ギルドを行っており、正義の味方や怪人が冒険者のように依頼を受けてその成否でランクを上げる会社なのである。
元秘密結社でありながらも普通に日本企業として成り立っているラナリアには全国から依頼が届き、地元のヒーローや怪人により依頼が解決されているのだ。
セイバーもジャスティスレンジャーを離れてからはラナリアに就職してそれなりの成果を叩きだしていたのだが、本日、古巣のジャスティスレンジャーから是非にと指名依頼が届けられていたのだ。
戻ってきた途端の出来事であったし、萌葱の勧めもあり、二人でこの依頼を受けたのである。
懐かしい顔ぶれと共に報告のあった場所で残党を追い詰め、今しがたついに決着を付けた。
近くには青きスーツのジャスティスガンナー。黒いスーツのジャスティスバッシャー、緑のジャスティスアーチャーがいる。
「お前が本当に来るとは思っていなかった。御蔭でなんとか倒せた。礼を言う」
「スピアーが居なくなってるのには驚いたけどな。皆は変わってないようで安心したよ」
「あいつは死天使系なんとかっつーののカードゲームの武者修行するとかいって全国行脚中だ」
「何だそりゃ?」
「それよりセイバー、強くなってるみたいだしさ、戻って来る気はないの? 今回の依頼もガンナーがどうしてもセイバーがいなきゃダメだーって言ってたのよ。あなたに帰ってきてほしいんだーって」
「な、ち、違う。俺はただどうせ暇してるだろうから情けで誘ってやっただけだ」
「素直じゃないんだから。男のツンデレとかキモいだけだって」
「違うッ」
アーチャーとガンナーが楽しげに笑っている。
居場所がないとジャスティスレンジャーを抜けた誠だったが、彼ら自身は誠を受け入れてくれていたことを今更ながらに理解していた。
けれど、自分はそこから逃げたのだ。今更厚顔無恥に戻ることは無理だった。
「悪いなアーチャー。俺はやっぱり正義の味方じゃないんだ。俺の正義なんて万人に理解されるものじゃないことは俺自身がようやく理解できた」
「萌葱からも言ってやったらどうだ? ジャスティスレンジャーに居場所が無いわけじゃないって」
「バッシャーさん、セイバーさんの決めたことだから、私はこの人をもう一人にさせないようにするだけです。目を離すとどっかの怪人みたいに愛人作り出すみたいだし」
と、白い目で見て来る萌葱。ガンナーがだったら別れちまえとか小さく呟いていたが誠は聞こえなかった振りをしておく。
「俺には今の傭兵稼業が性に合ってるのさ。ラナリアで、首領っていう魔王様の味方で充分だ」
そう、河上誠は正義の味方ではない。赤き魔王と呼ばれる程に悪寄りで、それでも正義を成したかったダークヒーロー。そんな自分にジャスティスレンジャーという名の正義は眩しすぎるのだ。今ぐらいがちょうどいい。正義でもなく、悪にも染まらず、魔王の味方。そのくらいで丁度良いのだ。
自分の本音にようやく気付けた誠は空を見上げる。彼の心境を表すように、空は青く澄み渡っていた。




