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後日談4

 その日、魔王城城下町は盛大な賑わいを見せていた。

 世界が女神の手から離れた記念祭にして、ギュンター王誕生記念日のお祭りである。

 無数の露店が人族領からも出店しており、各国の王や重鎮など様々な者を呼んでの祭日であった。


 ネンフィアス帝国軍も数名が参加しており、今、任務を終え休暇となったラスレンティス、フローラモ、ロイド、オーガン、ゲドの五人はノーマンデ国のギーエンと共に露店を覗いていた。

 なんのかんのと仲がいい六人は、賑やかな街並みを見て笑みをこぼしている。


「随分と、賑やかっすね」


「魔王国、少し前まではディアリッチオ人形の群れに囲まれていたが、活気が戻ったようで何よりだ」


「しっかし、人族も魔族もここまで一緒な技術力があったってーのには驚きっすわ、隊長」


 オーガン、ロイド、フローラモが口々に告げる。

 ラスレンティスはフローラモの言葉に頷きながら露店の串焼きを人数分買って皆に振る舞う。


「ん? どうしたゲド、随分と挙動不審だが」


「え? いや、その……」


「ゲドっ」


 気付いたオーガンが尋ねた瞬間だった。口ごもるゲドの名前が呼ばれ、ゲドが物凄い変わり身で振り向く。その顔はだらしない笑みに変わっていた。

 やって来たのはレレアとべー。


「あー。そういや魔族の一つ目娘と婚約したんだっけ?」


「おぅ、悪ぃなオーガン。隊長、すいませんが俺は抜けます。門限までには戻りますんで」


 すんません。とばかりに掌を縦にしてゲドがレレアの元へと駆け付けて行った。


「くっそ、あの野郎上手くやりやがって! しかも二人だと!? 蟻娘の方は向こうから告ってきたんだろ。やってらんねぇ!」


「まぁ、上手く行ってよかったじゃないか。自分の好きな相手と結ばれるのはいいことだぞ?」


「ラスレンティス隊長、そうは言いますが、最初の時は隊長だってあいつはフラれるとか言ってたじゃないっすか」


「命を掛けたんだ。それぐらいの逆転はあるさ」


 ふっと、笑みをこぼして歩こうとしたラスレンティス。その視線の先にスライム族のモルガーナが居た。彼女は彼を見付けると控えめに手を振る。


「フローラモ、スマンがここから先は別行動だ」


「へ? 隊長?」


 驚くフローラモ達を放置してラスレンティスはモルガーナの元へ向かうと、鼻の下を伸ばしたような顔でそのまま人ゴミに消えていった。


「嘘だろ隊長……」


「あのクソ野郎いつの間に……」


「マジかよ」


「あ、悪ぃ、俺もハケるわ」


 呆然としていた三人にギーエンが応えて立ち去って行く。

 その先には鳥人族のハロイア。

 合流した二人は腕を組んで去っていった。


「おい、どうなってやがる!?」


「カップルが多過ぎだろっ!?」


「あ、悪い、俺も用事で」


 と、そそくさと去っていくロイド。

 その先には人族の女性が立っていた。


「バカな!?」


「これは……夢か?」


「悪いエルジー、ちょっと遅れた」


「気にしてないわ。今ディアの森から戻ったところよ」


 合流した二人が街中へと消えていく。

 残されたフローラモとオーガンはしばし呆然とした後、互いに顔を見合わせた。


「あー、お前にいい奴は?」


「お前こそ居たりしねぇよな?」


「「今夜は飲むか」」


 二人の男は溜息を吐きながら魔国の酒場へと消えていった。


 ------------------------------


 魔王軍東部隊魔将長であるラガラッツとシオリアもまた、同じ魔国で魔王祭を満喫していた。

 ラガラッツは緑の頭を掻きながら、頬を赤くし戸惑った顔で緊張で硬くなった身体を必死に動かしていた。

 その傍らにはシオリア。なぜか二人でデートすることになっていたのだが、ラガラッツにとっては何故こうなったのか理解できない。


 少し前の会話で頷いていたらいつの間にかこうなっていたのである。

 シオリアの言葉が巧みだったせいで誘導されて頷いてしまったのだ。

 気が付いたらこんな状態になっていた。


「あの、シオリア……殿?」


「何? そんなに改まって」


「いえ、その、なぜこうなっているのでしょう?」


「デートをすることを了承なさったのはラガラッツでしょう?」


「え。ええ。そうなのですが、私などでよろしかったので?」


「良くなければ誘ってはいません。仕事尽くしでしたからたまの休みくらい自分のしたい事をしたいと思いまして。日々の仕事でラガラッツは随分と優秀だということは理解できていましたから。コルデラに誘惑される前に優良物件は逃さず確保です。これからはラガラッツは中央、私は東と離れてしまいますからね。今のうちに所有権は主張致しますよ」


「それは……恋愛というものではないような?」


「ふふ、どうでしょうね? でも私は結構気に入っていますよ? ラガラッツはいかがです?」


「そ、それはもう、シオリア殿のような魅力的な女性であれば嫌などというはずも……」


「堅いですね、殿などいりません。シオリアとお呼びください」


「で、ですがシオリア殿」


 ラガラッツの言葉にむと膨れたシオリアはそっぽを向いた。

 うぐっと呻くラガラッツ。

 しばし迷ったが、やがて意を決したように、


「し……シオリア?」


「はい。何でしょうラガラッツ?」


 悪戯な笑みを浮かべ、シオリアが応える。

 尻に敷かれるだろうな。そう思いながらラガラッツは空を見上げるのだった。

 見上げた空は嫌に晴れ渡っていた。

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