後日談3
「暇、ですわねぇ」
ルトバニアの貴族院は本日も暇だった。
国王と王女暗殺の報が国中を駆け廻った時は焦ったのだが、ムーラン王が即位したことで国政が滞ることは避けられた。
しかし、ムーラン王が即位した為ルトバニアは実質ムーラン国に乗っ取られた形となり、でもルトバニア国民にとっては頭がすげ変わったところで生活に問題なければ全く気にも止まらないできごとだった。
しいていうなればムーラニアという国名に変更されたぐらいだろうか。
あとムーラン国の人々が奴隷身分から解放され各国から戻ってきており、重臣にも登用され始めているくらいだろうか?
どの道貴族院にはあまり関係のないことだった。
本日もお茶会を開いている彼女達にとってはシシルシに会えない日々の方が大ピンチである。
メルクリウ・カストレット、ラジアータ・ドーレッツィアは互いに視線を向けてはぁっと溜息を吐く。
シシルシの御蔭で彼女達は沢山の友人が出来た。貴族平民関係なくだ。
流石に上下関係はしっかりしているものの、彼女達が気を許す程の存在は今までの比では無くなっている。
この学園の殆どが知り合いになってしまったのだ。
そのため二人のお茶会に参加したのは大人数になっている。
ミンファ・ロロイデス、ドーラ・レカントラングの二人は歯噛みしていた。理由は簡単、仲良し三人娘の一人ハルツェ・メーニクスがシシルシの策略でクレランス・ロレンツィアと良い仲になっているからである。
本日もこの茶会に二人でやって来てラブラブップリを見せつけてくれていた。
「まさかシシーの狙い通りに婚約まで結ぶとは……」
「私、シシーに紹介して貰えば良かったと思う……」
「シシー、戻って来ないかなぁ。ねぇフェレさん」
「どーでもいいっすわ」
ちなみに、シシーの代わりに魔族の交換留学生としてフェレが学園に強制的に来させられていたのだが彼女にとっては迷惑でしかなかったようでほぼほぼミンファ達の部屋で惰眠をむさぼっている。
本日だけは上流貴族からのお誘いなので強制参加させられていた。
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「ご機嫌伺いに参りました」
ギュンターから定期的に見て来てほしいと言われていたので、エルジーは旧ディアリッチオの森へとやってきていた。
大地を休める働きがあるらしいシロツメクサという種を撒き散らされた大地は既に緑に染まり始めていた。
湖にも雨が降って水嵩が増え始めており、水底から成長を始めた霊樹がのびのびと育っている。
たった数週間で随分と成長したものである。
水に浸かっているというのに気にすることなく成長する霊樹は、ルトラが魔法で保護しているかららしく、エルフが生まれたら移動方法などを聞いて場所を移すことになるらしい。
流石に水が必要な樹木といえども万年湖に身体を付けていれば腐ってしまうだけである。せめて幹の部分だけは引き上げておくべきだろう。
「おお。エルジーか。もうそんな日か?」
大体一週間置きに来ていたエルジーの来訪に、ルトラが植林の手を止めてやってくる。
魔神と呼ばれていた存在の癖に今は農村の少年といった出で立ちなのが何とも言えない。
ただ、彼がやる気を出しているので指摘するのも悪いだろう。
「ギュンター陛下より進展を聞きに来ました」
「うむ。そろそろ始まりのエルフが生まれる頃だ。霊樹の魔力もMEYの奴が熱心に注いでいるからな。急成長をして……お、丁度良いタイミングみたいだな」
ルトラはそう言って霊樹に視線を向ける。
すると、霊樹が光を発していた。
水に浸かり、魔力を捧げていたらしいMEYも光に気付いて視線を上に、霊樹から放たれた光が人型へと変化し、一人のエルフを形作る。
女性型のエルフだ。
まだ赤子のソレはゆっくりと落下して来て、慌てて手を上げたMEYの両手に収まった。
MEYはそれを愛おしそうに抱きしめながら、ルトラ達の元へとやってくる。
見せつけられた神秘にエルジーは驚いていたが、可愛らしいエルフの赤子を見て優しげに眼を細める。
「なんか、不思議……」
「エルフは男女はあるが基本霊樹の成長に合わせて生まれるからな。一応有性生殖でも生まれはするが、エルフ共淡泊だからな。霊樹からの授かりものの方が始祖エルフとして多くなるはずだ」
「ハイエルフというモノですね。では彼女がハイエルフの中の始祖となるわけですね」
「そうなるな。名前は……」
「ラオラ」
ルトラが適当に決めるより早く。呟くようにMEYが告げる。
「この子の名はラオラよ」
「まぁ、何でもいいが、ほれ、そいつにばかり構っておらず霊樹に魔力を授けて来い。乳などやらずともエルフ共は周囲のマナを吸い取って成長するからな。エルジー。こいつをしばし持っていろ。明日には5歳くらいの人間あたりの大きさに成長する筈だ」
「え? 早くないですか?」
「立ち上がれるようになるのは早いんだ。その後が長いがな」
成る程。と納得していないながら頷き、エルジーがラオラを預かる。
ディアリッチオの森は、着々と緑に溢れつつあった。




