さよならは突然に
「いや、お前な。その姿で再戦とか、ムリだろ」
つかしぶとく生き残ったのな。
必死に生き足掻く信也は、見ていて可哀想になって来るというか、流石にこれで倒すのは気が引けて来るな。
横にいる怪人野郎は普通にトドメ刺しそうなんだが、俺はそこまでコイツを殺そうって気にはならない。一度殺されはしたが、相手も一度殺した。だからという訳じゃないが、俺はそこまでこいつに怒りはないんだ。
魔将が一度壊滅したらしいが、実際に見た訳じゃ無かったし、女神に操られていた人形だと言われると、なんというか、哀れだ。という感情が先に来てしまう。
彼はそれでも女神の為にと決死の顔で俺を睨みつけていた。
「女神はもう、居ないぞ?」
「そ、そんなことあるもんか! 神が死ぬ訳が……」
「別の神々に掴まった。もう、この世界に来ることはねぇよ」
「くっ……くそっ、何で俺は……こんな不甲斐ないんだっ。最強の勇者だなんだって言われて有頂天になって、負けちまってんじゃ笑えねぇ……チクショウっ」
剣で支える事も出来なくなったのか、そのまま前のめりに倒れた信也は悔しげに地面を叩く。
つか、どうしようこいつ。
あ、待てクソ怪人。トドメ刺そうと動くんじゃねぇよ!
思わず手で制した俺に、武藤はあ、お前がなんかすんの? じゃぁ任せるわ。みたいな顔で踏み出そうとした足を引っこめる。
―― あー。なんか面倒そうだしあちしにお任せなされ。人形っぽいけど人格はあるみたいだし、元の世界戻しておくぜぃ ――
「……は? お、おい、待て、やめろっ! 俺はまだ……」
天から声が聞こえたと思った瞬間、信也の身体が光に包まれる。
ふざけんな。そんな罵声と共に彼の存在がこの世界から消え去った。
……あー、うん。まぁ、とりあえずあのクソ女神も害悪だな。あとで殴るくらいはしておいてもいいかもしれない。
俺は思わず武藤を見る。
武藤も同じ思いだったらしい。悔しいが今回だけは意見は一致だ。マロン殴ル。
「とりあえずは、これで後顧の憂いは断てたってことか?」
「ああ。しかし……結局召喚された勇者で生き残ったのは俺と若萌だけだったか……」
「MEYさん、ディアリッチオの森に向かったきり、帰って来なかったそうよ。直後にディアリッチオによる炎弾で森自体が消失したし、人形の群れがそこかしこを破壊したから、もう……」
「……そうか。こればっかりは、戦争だからな」
「河上、用事は終わったみたいだし、俺らはそろそろお暇するぜ?」
「ああ。そうだな。俺も……」
「いや。お前は後からでいいよ。知り合いと積もる話もあるだろ? 俺らはパルティさん送って一足先に帰るからさ、明日にでも至宝が迎えに来るよ」
「帰るならクアニも! クアニも連れってって!」
「あ、チキサニずるい! わ、私も、その、一度家に戻りたくはありますけど、一緒に、いいですか?」
あの二人は完全にオトされたな。何があったのかは気になるが、見なかったことにしよう。
俺と別れを告げた彼らは一所に集まって行く。
琢磨と十三、光子が稀良螺の元へ向かい、本当にそいつらと行くのか? と戸惑った顔で聞いていたが、稀良螺の決意は固かった。
多分、幼馴染寝取られた、みたいな気分なんだろうな。琢磨と十三が凄く残念そうな顔で一度フィエステリアを睨み付け立ち去って行った。
「えっと、送って貰うのはいいんですけど、私の世界、分かります?」
「グーレイの奴から聞いてるよ。あたしの行ったことある世界だ。折角だからついでに送ってやるさ」
「ありがとうございます。神界に戻る前に一度アルセに顔だしでもしてこようかな」
「あー、そう言えばあの小娘欲しがってやがったな」
手塚がぷちっと自分の髪の毛を一本引き抜く。パルティにそれを手渡していた。
「なんか前回コレくれっつってたんだよ。折角だから持ってってやってくれ」
「髪? ですか?」
「あたしの身体の一部が欲しかったらしいぞ。何に使うか知らねぇけど」
「では届けることにします」
「っし、ンじゃ、このメンバーでいいな。萌葱は後でいいんだよな?」
「ええ。ちょぉっとセイバーさんとお話があるので」
「了解、明日迎えに来るわ。ムーブ!」
手塚、武藤、パルティ、チキサニ、稀良螺の姿が消え去る。
異世界すら越えれるムーブの魔法、滅茶苦茶便利だよな。俺も欲しくなる。
そんな俺に、別れを終えた萌葱が笑顔で近づいて来た。笑顔なのに怒りが見えるのは何故だろうか?
さぁ、新たな闘いを始めましょうか? そんな顔の萌葱は、ユクリやラオルゥの集まっていた場所へと向かう。
なぜか対立するように向い合う。俺の気のせいか、視線が今バチッと放電しなかったか?
思わず生唾を飲む俺の横に、若萌がやって来る。
「いつか言ったでしょ。母さん、この世界に一緒に来れなかったこと、後悔したって」
「お、おい、まさか……」
「ハーレム、乙」
立ち去って行く若萌に俺は愕然とする。つまり、怪人フィエステリアに負けたくなかった俺が辿りついたのは、あいつと同じ修羅場であったのだ。




