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最後の敵

「お、終わっ……た?」


 絶望に顔を歪めながらゲドに抱きしめられて事の成り行きを見守っていたレレアはただただ呆然と呟いた。

 あれ程無数に押し寄せていたディアリッチオ人形が破裂して消えていく。

 まるで今までの光景が悪夢なだけだったように、夢から醒めたように、空には綺麗な夕焼けがあった。


「はぁ……結局矢が尽きた俺らは最後役に立てなかったが、なんとか生き残ったな」


 ネンフィアス軍は既に見学するしか出来なくなっていた。

 防衛用の魔力も尽きて矢も尽きて、上空に居るディアリッチオ人形にはもう何も出来なくなっていたのだ。

 これは魔族も同じで、役立つメンバーに魔力回復薬を割り振った結果、何も出来なくなった暇人が大量に出現してしまったのだ。

 彼らができたのは、女神以外の神に祈りを捧げるくらいだった。


 実質的に最後まで頑張っていたのはパルティ、ラオルゥ、シシルシ、至宝、フィエステリアの五人だけだ。

 パルティの魔力は未だに魔力切れを起こしていなかったが、青い顔をしているところを見ると限界は近かったようだ。

 ラオルゥは魔眼だけなので魔力の減りはないのだが、沢山の相手と目線を合わせたせいか精神力と体力に限界が来始めており、至宝に至っては魔力が尽きたせいでシシルシと共に肉弾戦を挑んでいた始末である。


 シシルシはこれを見越していたのか、ルトラが力尽きた瞬間、入れ替わるように前に出て肉弾戦を開始してしまった。飛龍に乗って空へとあがり、そこから魔力尽きるまで魔法で応戦。あとはルトラ側をフィエステリアに任せ、至宝と共に肉弾戦を行っていたのである。


 そして、全員の魔力が尽きてからの功労者は、やはりフィエステリアだった。

 単身空を駆けあがり、敵の魔法を一身に受けながら復活を繰り返し無数の敵を踊り狂わせた。その姿はまさに死神であり、仲間である魔王軍もネンフィアス軍も等しく怯えた程の凶悪さである。

 魔力が尽きたシシルシに代わり四方の一角を一人で守り切った彼の働きは、広範囲攻撃を持たない者としてはあまりにも多くの敵を屠ったと言っていい。


 勝利に湧く面々を見ながら、そんな功労者フィエステリアはふぅっと息を吐いていた。

 彼の両手にはチキサニと稀良螺が絡みついている。

 なぜ、こうなったんだろう? 溜息しか出て来ない。


「やっぱり寝取り魔でした」


「違う、俺はそんなつもりはない。というか若萌さんや、セイバーどうした?」


「おと……セイバーなら女神と直接対決に向かったわ。ディアリッチオ人形が消えたことから勝ったんじゃないかしら」


「おー、ついにやったかあの野郎」


「さすがセイバーさんです。やっぱりあの人は正義の味方ですね。悪には負けません」


 萌葱と至宝がやってくる。

 萌葱のセイバー好きに呆れた顔で、至宝がフィエステリアに振り向いた。


「にしても、マジ寝取り魔な。どうすんだよ薬藻。娶りすぎじゃね?」


「俺に言うな。不可抗力です」


「でも、言い訳にならねーよな、不可抗力」


「じゃあ、ウチも不可抗力で折ってまうわー。とか言われそうですよね」


「やべぇ、冗談のはずなのに笑えねぇ……」


 既に確定した死亡フラグにフィエステリアが戦々恐々している目の前に、光の柱が降って来る。

 光が収まった先には赤いスーツの男。

 たった一人、女神に闘いを挑んだ正義の味方が、戻ってきたようだ。


「お、御苦労さん河上」


「チッ、戻ってきて一番最初に見たのが武藤の顔かよ。最悪だ」


「お前助けに来てやった相手に随分な言い草な。まぁいいけど」


「セイバーさん、女神は?」


「ああ、倒した。今は神様連中が連行してるよ。アレならもう、ちょっかいは掛けて来れないだろ。文字どうり、大勝利だ」


「おー、赤いおぢちゃんやったじゃん!」


 魔神の三人が集まって来る。

 さらに魔族の魔将とギュンターが、ネンフィアスの将軍が、セイバーの元へと集まりだした。


「セイバー。勝利おめでとう」


「ああ、ラオルゥも、よく頑張ってくれた。皆の頑張りは上で見せられてた。皆が頑張ってくれたから、俺も女神を倒せたよ」


 本音は隠し、正義の味方として告げる。

 フィエステリアに負けたくなくて女神に勝利しました。じゃ締まらないからでもある。


「セイバー。改めて礼を言いたい。我はお前に感謝してもしきれない恩が……」


「水臭ぇよギュンター。魔族を救うと決めたのは俺自身だ。お前どうこうじゃない。俺はこれで元の世界に戻るしな、これからの魔族を引っ張るのはあんただギュンター。できれば、人族とは友好的な道を歩んでくれ。もう、女神に左右される心配はないからな」


「分かっているさ。幸いネンフィアスとも共同しているしな、レシパチコタンの生き残りも魔族と敵対するのは止めるらしい。最後の闘いで共闘したのが決め手になったそうだ。なぜかカップルまで生まれているみたいだがな。ここを足がかりに何とかやってみせるさ」


 まさに大団円だった。魔将達が次々に賛辞を送って、皆で勝利に湧いて、宴でも開くか。そんな事を言っていた時だった。

 何かを引きずるようにして、そいつはやってきた。

 剣を支えに、なんとか彼らの元へと辿りつく。


「赤い……魔王ッ!!」


「っ!?」


 ジャスティスセイバーは聞き覚えのあるその声に、思わず顔を上げる。

 そこにいたのは……


「一騎打ちだ……俺と、俺と闘えっ! 俺は勇者、女神の勇者だっ、人形なんかじゃねぇっ!!」


 すでに回復能力を無くしているのだろう。砕けた足を引きずりながら、信也が現れた。

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