エルフの森攻略戦3
「全軍、前進!」
隊列を組んだ兵士達が森へと進んでいく。
一糸乱れぬ行軍は、まさに威容。
俺達は思わず息を飲みながらその姿を見送る。
騎馬隊が入って行くと、ついに俺達の番になった。近衛部隊と共に六人パーティーで森へと入る。
大悟と玲人が物凄い顔で森へと突き進んでいく。
まるで人が変わったようにエルフを殺せーっと先陣を切る勢いで走って行った。
多分、本来ならあれくらいの勢いでエルフを討伐してたんだろうな勇者全員が。
それがここの宰相が真名を使って命令したことなんだろう。
MEYと矢鵺歌が同じように顔色を変えて森に突撃する様子は今のところ無い。
どうやら昨日の出来事が上手く作用したようだ。
俺と若萌がバディを組み、MEYと矢鵺歌がその後ろを警戒しながら付いて来る。
森の中はエルフだけではないらしい。
ムンクの叫びみたいな顔の人型が出てきたり、木で出来たイノシシが突撃して来たりする。
今のところはエルフは出現して来ない。
とりあえず、目指すのは真っ直ぐ西大陸だ。
「嫌に静かね。先行部隊はどうなったのかしら?」
「そう言えば、剣撃も聞こえませんね」
俺が答えるより先に矢鵺歌が声をだす。
なんだ、MEYと矢鵺歌も一緒に来るつもりか。
「ご安心ください勇者様方。そろそろ先頭が会敵するはずです」
不意な言葉に振り向けば、丁度MEYと矢鵺歌に隠れるようにして付いて来ていたスケイルがいた。
この野郎、付いて来てたのか!?
俺の視線に気付いたスケイルはニヤリと嫌な笑みを浮かべる。
まるでお前の行動などお見通しだとでも言うようにだ。
厄介だなこの宮廷魔術師。
一応真名は握っているものの、あまりイイ感じはしない。
こいつはかなりの曲者と思っていいだろう。
「ほら、戦闘開始ですな」
前方の方角で声が上がった。
悲鳴に怒号、剣撃に魔法弾の着弾音。
騎士団の叫びにエルフだろうか、女性の悲鳴と男の絶叫。
聞いているだけで嫌になるな。
「誠、そろそろ、私達も闘いに巻き込まれるわ。どうする?」
不安げに若萌がスケイルを流し見る。
分かってる。あいつを撒かないとどうにもならない。
エルフ達には悪いが乱戦になってもらうしかないだろう。
「突撃しよう。乱戦に」
「仕方無いわね。はぐれないように」
俺と若萌は同時に走りだす。
「ちょぉ!? なんで走るし!?」
「追いますかMEYさん?」
「ここで逸れる方が危険じゃん、追うよ矢鵺歌!」
MEYと矢鵺歌が俺達を追って来る。
やれやれとスケイルまで追って来た。
まぁ、そうだろうな。こいつも追って来るのはわかってた。
戦場に辿りつく。
騎馬部隊は森の中で機動力を失っているようで、馬から降りて闘う兵士長が多い。
何のために馬に乗ったお前ら。
馬達が所在なさげにうろつく横でエルフだろう美男子と切り結ぶ兵士たち。
倒れた女性エルフを抱きながら涙にくれる男エルフに殺到する兵士達がいたが、これは別部隊のエルフにより狙撃され、矢束を受けて絶命している。
さすがに戦場と言うべきか。
血煙り薫る戦場を目の当たりにして、絶句する女性たち。
スケイルを見れば、こちらもあまり戦場に慣れていないのだろう、顔を顰めている。
あ、MEYと矢鵺歌にはちょっときつかったか。
吐きに向った二人が奇襲されないよう、俺と若萌は立ち止まり、茂みに身を隠す。
スケイルもなぜか俺の横に身を潜めた。
「戦場に出るのは初めてでしてな。さすがにここまで凄惨な現場とは思いませんでしたな」
「城で指示するだけの宮廷魔術師にはキツイだろうな。正直、勇者と呼ばれていてももともと一般人の女性陣にはキツイだろうし、もうしばらくここに居てもいいだろうか?」
「構いませんよ。もともと勇者様方は今回の闘いで一人も欠けずに戻ることが使命です。活躍は二の次、戦闘に参加したと言う実績さえあればよいのですからな。私が見届け人です」
くっくと笑みを浮かべるスケイル。その顔はやはり悪人面にしか見えない。
実はイイ人、という可能性は昨日の段階で絶望的だろうし、最悪この闘いに紛れて消すしかないだろう。
ソレが正義かどうかといえば違うかもしれないが。
「うぇっ、チョーサイアク。何アレ、無理だっつの」
「うぅ、闘いってこんな怖いなんて……魔物と闘うのと違う」
二人とも、口元を拭きながら俺達の横に並ぶ。
鬼気迫る顔で戦うエルフ達に恐怖を覚えたらしい。
でも、その戦火は確実にこの辺りに近づいて来ている。
どうも決死隊と化したエルフたちの方が騎士団を押しているようなのだ。
流石に死を決意して突っ込んで来る相手とそこまでの気概の無い騎士たちでは士気が違う。
押され始めた騎士団は即座に瓦解し、次の一団が慌ててフォローに入る。
潰走した兵士達がなんとか集まって次の軍団を作る頃にはフォローに入った一団が潰走し、又次の騎士団がフォローに入る。
徐々にこちらに最前線が近づいて来ている。
覚悟を決めなければならないらしい。
さぁ、乱戦に突入だ。
俺は若萌と視線を交わして頷き合った。




