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東の魔神

 火炎球がラガラッツへと迫る。

 終わる。もはや逃げ場すらなかった。

 迫り来る火球を呆然とただ見上げる。


「まったく、世話の焼ける」


 火炎球を映す視界に影が走る。

 そいつはラガラッツと火炎球に割り入ると、左手で軽く払う動作をする。

 その行為だけで、火炎球が吹き散らされた。


 自分を確実に殺せる一撃が簡単に払いのけられたことに眼を見開くラガラッツ。

 彼に背を向けた人物はさらりとポニーテールを靡かせ、眼帯に掛かった前髪を魔法を払った手で払う。

 ふぅと息を吐くと眼帯を取り外しに掛かる。


「劣化型ディアリッチオ人形か。なかなか面白い余興だよ」


「ら、ラオルゥ……様?」


「ここは我が受け持とう。ギュンターたちに知らせて城に向かうと良い」


 割り入って来たのはラオルゥだった。

 生死不明で人族領に向かった筈の彼女が、ラガラッツの前に出現していたのだ。

 ふぁさりと眼帯を取り、虹色の眼をディアリッチオ人形へと向ける。


 一人二人と爆散し始めるディアリッチオ人形。

 ただ女の視界に入った。その事実だけで眼を合わせた個体から破裂していく。

 ラガラッツは慌てて立ち上がると、礼を告げて叫ぶ。


「全軍撤退! ラオルゥ様の御好意を無下にするなっ! 全員生還で行為に報いよ!」


 自分も撤退を始め、ラオルゥに全てを任せて戦場から逃げ去る。

 彼らを追おうとしたディアリッチオ人形は、しかしラオルゥにより目視で破壊され、数百体のディアリッチオ人形が一瞬で消え去った。


「ふふ、元より死を迎える筈だった我が最後の闘いに参加できようとは。シシルシに感謝せねばな」


 あの時、勇者大悟の一撃で死を迎える筈だったラオルゥに、シシルシは告げた。

 「やなこった」そう言ってラオルゥの顔横に足を踏み出し、勇者永遠に貰った完全回復薬をラオルゥにばしゃりと降りかけたのだ。

 そして言いながら立ち去った。「自分で伝えろ面倒臭い」と。


 素直に回復しないシシルシに苦笑して、ラオルゥはディアリッチオ人形の群れを見る。


「本当に、魔神等には向いておらんな。お互いに……」


 悪役になりきれないシシルシも、自分の出番はもうないだろうと見ているだけのつもりだったのについつい飛び出しラガラッツを救ってしまった自分もだ。

 魔眼に魔力は不要。ただ見つめるだけで自動発動してしまう致死の一撃。

 たとえディアリッチオに似た実力の人形といえども、この瞳であれば実力関係なく破壊出来る。


「そもそも。ディアリッチオよりも劣化した実力だから魔神であれば充分対処できるだろう。群れで来られると少々面倒ではあるが。シシルシ、ルトラそちらは任せるよ」


 姿すら見えない他の魔神に一人言ち、ラオルゥは敵を視界に納めて破壊していく。

 千に達する頃、ラガラッツがわざわざ戻ってきて街から魔王軍が撤退完了したと告げてきた。

 なので戦線を下げてラガラッツと共に撤退。

 流石にラオルゥといえどもこの数相手に一人で立ち向かうには限界があったので素直に従い皆に合流することにしたのだ。


「おや、マイツミーアとシオリアも逃げてなかったのか?」


「ギュンター様がどうしてもお礼を言いたいとおっしゃるのでその護衛です」


 ディアリッチオ人形たちを撃破しているラオルゥの背後に、ギュンターがやって来る。

 最前線なので危険ではあるのだが、彼はどうしてもラオルゥの元に来たかったのだ。


「魔神ラオルゥ様。私が不甲斐ないばかりにあなた様のお手を煩わせる事となり申し訳ございません」


「何を今更。それに魔王といえばセイバーだろう。お前のせいではないさ」


「それでも。魔王軍を実質動かしていたのは私でありました。皆を死地に追いやり女神との闘いを指揮し、撤退宣言すら出すことなく後は皆に任せて街に籠っておりました。本来はセイバーたちすら居ない状態でこの闘いを迎えていたかもしれぬところ、我が力の無さを悔いるばかりです」


「ふ。もしもの話など栓のないこと。ならばギュンター、今一度魔王に座し全軍を指揮せよ。セイバーもその方が動き安かろう」


「……分かりました。城で、またお会い致しましょうッ」


 背中に去っていく気配を感じながら、ラオルゥはひたすらに爆殺を繰り返す。

 物凄い勢いでレベルが上がる音が聞こえる。すでにレベル限界に達しているのにまだ上がる音が鳴りやまない。

 ディアリッチオ人形の経験値があまりにも多い、それ程に強力な生物なのだ。


「どうしたマイツミーア、ラガラッツ? 逃げないのか?」


「私めの拙き知恵でよければ、お貸し出来ればと」


「にゃ! 魔将として最後までお供いたしますにゃ」


「全く……ならばせめてパーティーを組め。今なら経験値も入り放題だ」


 二人の死亡を限りなく無くすためにパーティーを組む。

 ラガラッツの知恵が入ることで近づかれると危険なディアリッチオ人形から優先して叩いて行く。

 ラオルゥを見ようとしない人形にはマイツミーアが威圧を発して視線を集め、そのままラオルゥの背中に隠れることでラオルゥの視界に強制的に納めさせる。

 先程までよりも効率良くディアリッチオ人形が狩り取れるようになった。

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