対決女神、序章
「あなたで最後よ。行って来なさい」
「クク、任せろ」
女神、サンニ・ヤカーの元へ俺が辿りついた時、見知らぬ男が背を向け去っていく所だった。
歩き出した男が消えるのを見送っていた女神は、俺の気配に気づいて慌てて振り向く。
一瞬目を見開き、しかし、俺がここに居る理由に気付いたようだ。
「あらジャスティスセイバー。私に下る気になったのかしら?」
「下る? 既に下の決着は付きそうだぞ? 後はお前だけだぜ」
「私だけ? 何をバカな。見なさいな」
クスリと笑みを浮かべた女神が手を振るう。すると、俺と女神の中心当りの空間に大画面モニターが出現。
六分割された映像が飛び込んできた。
東西南北四方の映像と、魔王城近辺、そしてギュンターの居る街周辺を映した画像。
南ではネンフィアス帝国軍による魔族救出が行われており、魔王軍の無事な面々も協力して救出作業に精を出している。
南はエルダーマイアとレシパチコタン連合軍が斃れ、南方防衛軍が点呼を行っているところだ。
東は人族軍が瓦解したようで。安全を確保したラガラッツたちが防衛拠点まで下がり、同じく点呼しているところである。
魔王城周辺ではレシパチコタンのウェプチだったか? あいつがスクアーレ率いる中央軍と闘っている。チキサニや稀良螺、クソ怪人が参戦しているところを見るに無事に救出できたようだ。
ギュンターはこの報告を受け取ったようで、街から出て魔王城に戻ろうとしているように見える。
そこへムイムイが逃走して来なさった。あいつどこまで逃げてんだ?
敵前逃亡許可はしたけど、本当に逃げたのあいつだけなのな。
北の戦場は最終局面だ。ディアリッチオを倒した手塚至宝が信也の元へ辿りついたし。萌葱に若萌、ユクリ、シシルシが揃っている。信也の勝利は毛ほども残ってないだろう。
つまり、こちらの圧勝。女神の敗北は確定したも同然だった。
「随分と余裕だな矢鵺歌」
「ええ。何しろ、ここから虎の子のお人形が投入されるのだもの。だから、最後の選択肢をあげるわジャスティスセイバー。私に下るのならば、彼らを投入するのは止め。ここで終わり、貴方が絶望して死ぬ未来だけが残される。でも、あえて私に盾突くというのなら、人形達を投入するわ。魔族も人族も根絶やしになる。この魔族の大地に住む存在は全て消える。ふふ。さぁ、どうするの赤い魔王様?」
戯言だ。そう切り捨てるには、女神の態度が怪しすぎる。
第一この女神は俺達が絶望する姿を見るのが好きなのだ。これは多分脅しじゃない。俺が敵対を宣言した瞬間、人形とやらを投入して来るだろう。それは、本当の事のはずだ。
だから、女神に下るならば、本当にこれが最後のチャンス。
人形とやらがどれ程の実力かは分からないが、魔族を殺すくらい訳のない存在の筈だ。じゃないと女神の態度に説明が付かない。
だから、俺は……
「ロードセイバー」
「剣を手にするってことは、そういうことなのね?」
「確かに、俺一人が犠牲になることで魔族に平和が訪れるのならば、それはそれで価値ある犠牲だ。だが、お前にそれを託せると思うか? 俺達を絶望させる事だけが生きがいのお前が、律儀に約束を守るとでも? そもそも他の神々に見つかった今の状態で俺を下したところでどうなるという? だから。俺は信じる。俺の仲間を、魔族たちを、皆の平和を皆で勝ち取る。その為に……女神、あんたの悪を断罪するッ」
「あははっ。私が悪? 断罪? 魔王と呼ばれ人族に蔑まれる悪であるあなたが?」
「俺にとってはお前が悪だ。だから……輝けセイバー。俺の正義を見るがいい。我が名はジャスティスセイバー! この輝きこそ、我が正義の証であるっ」
セイバーを高く掲げる。
立ち昇る赤き光は正義の証。
俺の折れない正義力の具現化だ。
女神の顔が醜悪に歪む。
「ならば、貴方の選択により消える命を見なさい」
女神に打ちかかろう。そう思った俺の視界に、巨大モニターの端に映ったソレが見える。
四方の魔族軍に向かい、そいつらは現れた。海の彼方から、大陸の地平線から、ディアリッチオの群れが現れた。
思わず手にしたセイバーが手から零れる。
ちょ、ちょっと待て。いくらなんでもこれは想定してないぞ!?
「くく、あはは。あははははははははっ!!」
「でぃ、ディアリッチオが、こんなに?」
「あいつは私が作りだした人形なのよっ。そりゃ量産出来て当たり前でしょうがっ。あははははは。絶望に沈めジャスティスセイバー。魔族諸共全て滅びてしまうが良いわっ」
女神の高笑いが響く中、全ての方向からディアリッチオの群れが押し寄せる。
一体一体が強力なディアリッチオなのに、それが群れでくるとか、勝てる訳ないだろコレ!?
武藤、手塚、萌葱。ギュンターたちも、死なないでくれよ頼むからっ。
こうなったらもう、やるしかない。女神を倒して元を断つ。
それしかきっと、俺たちの勝利はない。




