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いざ、女神の元へ

「シシルシィィィッ!!」


 飛び起きた信也がシシルシ向けて走り出す。

 シシルシのレベルは5、4000ちょっとだったはずだ。当然だが信也には敵わない。

 その筈だったのだが、ひょいっと剣を避けたシシルシは、交錯した隙に「ほっ」と信也の身体を押し飛ばす。


 直線移動だった彼はその軽く押されただけの一撃でバランスを崩し無様にこけていた。

 ごろごろと地面を転がる信也を見て、シシルシは指差して「あはははは」と笑いだす。

 悔しげに立ち上がる信也に、シシルシは深淵の覗く眼でニタリと笑った。


「そんな特攻で魔神倒せるわけねーだろ。バッカじゃねーの?」


「テメェッ」


「赤いおじちゃん、選手交代。これはシシーが遊んであげるよー」


「いや、シシー、お前じゃ勇者は……」


 ―― 丁度良いや誠っち。女神サンニ・ヤカーが逃げた。つーか個室籠っちまったぜぃ、マロンちゃんテラピンチ。あちしらじゃ手出しできねーっす。なんか個室内に入れる方法とかにゃーい? ――


 ……あ?

 いきなりなんだ今の? 俺の聞き間違いか? 空耳か?


「あはっ。赤いおじちゃん、なんか変な声聞こえたけど女神の奴個室にヒキコさんだってよォ!」


「らしいな。個室……かぁ」


 一応、あると言えばある。女神から渡された宝玉。女神の元へ導く物だ。

 これを使えば、俺だけは向かえる。

 女神にたった一人で……か。


「ほーらほーら。どうした勇者ァ? そんなへっぽこじゃオレ様は倒せねーぞ?」


 遊んでいるシシルシを見て、溜息を吐く。さっきまでの真剣勝負は何処へ行ったのか。


「父さんっ」


「っ!?」


 突然、想定外の呼ばれ方に驚き振り返る。

 そこに居たのは若萌。そして、萌葱であった。

 二人とも年は殆ど変わらない。だが、萌葱の娘が若萌であり、若萌は未来から召喚されたために同年代に見えているだけだ。


「萌葱。若萌……」


「南の勇者は倒したわ。西はF・Tさんが向かったから大丈夫だろうし、後は目の前に居る勇者だけね」


「らしいな。シシルシが遊んでいるけど、あいつを倒すには彼女じゃ無理だろう」


「でしょうね。だから、私がやります」


「萌葱?」


「セイバーさんにはセイバーさんのやることがある筈です」


 萌葱が一歩前に出て、俺の正面へとやって来る。

 俺の右手を手に取った彼女はそっと両手を重ねて、真剣な目で俺を見つめて来た。


「セイバーさん。恐れる必要はありません。迷う必要もありません。あなたは魔王の器でも、勇者の器でもないけれど、でも、私が断言します。私を救ってくれたあなたは、まぎれもなく正義の味方です。だから、胸を張ってください。あなたが信じる正義を信じ、女神を、悪を断罪してください」


「萌葱……」


「この世界の後始末は私達に任せてください。あなたはただ、正義を成すことだけを、考えて」


 正義……か。

 確かに、自分を正義と思えば俺は強くなる。

 でも、それで女神に敵うかと言われれば否だ。


 このスーツにだって限界はあるんだ。上限一杯まで強化したところで女神をどうにかできるとは思わない。

 それでも。俺が正義の味方であると信じてくれる人がいるのなら。その人が信じる自分を、俺は信じよう。


「萌葱、それに若萌。この世界は皆に任せる。俺は……決着を付けに行く」


 女神の宝玉を取り出す。

 女神を倒せるかどうかは不安だ。きっとそう思うことこそが剣を鈍らせるんだろう。だから、俺は不安を考えないようにしなければならない。

 女神を倒せるかどうかじゃない。女神を倒すと信じながら剣を振る。それだけでいいんだ。


「ほーら、足掛けェ」


 信也の一撃を素早く避けたシシルシが足払いで信也をすっ転ばせている。

 しばらくは彼女が信也を足止めしているんだろう。

 まるで俺たちの話し合いが終わるまで待っているようだ。


「女神の勇者は私達で受け持つわ」


「分かった。何度も手数を掛けるな」


「気にしないで。折角会えたんだもの。あなたの助けになるならいくらでも」


 にこやかにほほ笑む萌葱に頷き、俺は宝玉を掲げる。

 さぁ、決着を付けよう女神。

 虹色に光り輝く宝玉。俺の身体だけを包み込む。


「父さんっ」


 思わず萌葱の側に駆け寄り俺に叫ぶ若萌。

 視線を向けると、躊躇うような、しかし、決意した顔で告げる。


「勝って! 勝利、信じてるからっ!!」


 二人の姿が光に呑まれて消える。

 虹色の光が七色に輝き俺をどこへと導いていく。

 光が収まった時、俺は暗い世界へと迷い込んでいた。


 否、暗いんじゃない。光が全く無いんだ。

 光が無いのに、黒い世界が遠くまで見渡せる。そんな世界。

 上下感覚も何も無い。地面もない。黒い空間に自分が浮かんでいるような感覚。


 女神は何処だ?

 まさか、騙された? ここはトラップ用の一室で、女神と会うことはなく一生この黒い世界で過ごす事に……いや違う。居た。女神だ。誰か、男と話をしているようだ。

 近づいて行くと、彼女も俺に気付いたようで、焦った顔で振り向いて来た。

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