エルフの森攻略戦2
騎士団の構成は騎馬が30名、歩兵50名、槍兵15名、弓兵15名、他40名である。
他ってのは衛生兵とか料理番とかだな。
別に今回はいなくてもイイらしいんだけど、全員参加させることに意味があるらしい。
ちなみに街の防衛にも同じぐらいの人員が残っているそうだ。
今回は討伐部隊に任命された隊員だけの参加である。
そんな騎士団に囲まれながら、俺達は移動する。
スケイルも今回は参加しているようで、うすら笑いを浮かべているのがちょっと不気味だ。
何かしらの考えがあるんだろう。
こちらの視線に気付き、ニヤリと笑みを浮かべた後、どうしましたかな? と白々しく聞いて来る。
何でもないと答えつつ、周囲を窺う。
エルフの森までは大軍ながら半日と掛からず到着する。
まずは長期戦になる可能性を考慮して陣地の構築。
ここに護衛の歩兵数体と、衛生兵や料理番が野営の準備を始める。
動物の皮をなめしたテントのようなモノを構築し始めるのを見ていると、ベックナーが声を掛けて来た。
どうやら俺達が所在無げに見ているのに気付いて気を使ってくれたらしい。
「軍の討伐戦を見るのは初めてでしょう?」
「あ、ああ」
正確には二度目かな。
一応別の異世界で和風の軍団戦は見たからな。陣地構築術は向こうの方が高かったと思う。
でも、ここは知らなかったでいいだろう。他の面々に合わせてしまおう。どうせ陣地の築き方なんざ覚えちゃいないんだし。
「本日は陣の構築になります。今しばらくお待ちください。この近辺でよければ自由に移動していただいても構いませんが、森へ入ったり魔物と戦闘することはご遠慮ください」
「ああ、了解だ」
どうやらこの時間帯は俺達がすることは何も無いらしい。
招待客みたいな扱いなんだろうな。
俺達は互いに顔を見回し動き出す。
玲人は女性兵士のもとへ向い、MEYはベックナーの横でコンパクトを片手に化粧を始めた。
大悟はどこに行けばいいのか分からずMEYの横で戸惑った顔をして右往左往している。
あれは可哀想だが放置しておこう。
俺と若萌は陣中視察。陣を構築する様子を歩きながら確認していく。
その後ろを矢鵺歌が付いて来ているのはなぜだろうか?
多分大悟と同じように佇むのが嫌だったからこっちについて来たんだろう。
俺達は殺人を既に犯しているのだが、頼れる行動派であることは確かなのだ。
何をしていいか分からない時はとりあえず俺達と一緒に移動してれば暇は潰せる。という魂胆らしい。
そんな矢鵺歌を知ってか知らずか若萌は周辺を物珍しそうに見回している。
「軍隊って結構面倒なのね。作戦行動って言えばぱぁっと戦場に向って闘って凱旋だと思ってたわ」
「実情を知らなきゃそんなもんだろ。多分料理番とかその他大勢が居る事も知らないだろ。あの辺りは楽師だぞ」
「楽師!? あっ……」
思わず呟いたのは矢鵺歌である。
楽師まで居るとは思わなかったか。
多分だけど兵士達の士気向上のための曲や凱旋曲などを弾く為の部隊だろう。
「あの辺りは軍旗持ちかな。あっちは多分だけど慰安婦だ。あそこに居るのは、奴隷かな? おそらく兵士達の身の回りの世話をするための奴らだろ。トイレ用の穴を掘ったりする人材だな」
「物知りね。軍務経験でもあるの?」
「そこまでじゃないが前に見たことあるからな。さすがに慰安婦とかはいなかったが。ただ……あの辺りは分からないな」
一角に存在していたのは恰幅の良い男達。
纏まって幌馬車を率いて男達で談笑している。
「なんだか商人って感じね。でも、あまり良い雰囲気はなさそうよ」
「どちらかといえば奴隷商とかが……」
若萌の言葉に同意する矢鵺歌。
その矢鵺歌が呟いたことで俺達は気付いた。
俺達が何を討伐するのか、そして倒したあとに残った女性エルフをどうするか。
答えなど既に出ていたようなモノだ。
「胸糞悪い展開だな……」
「でも、どうにもできないわ」
「本当に、どうにもできないのかな……」
今の状態では無理だろうな。
神様でもない限りエルフ族を救う方法は無いだろう。
どの道、この闘いを耐えきったとしても、魔族か人間か、必ず近いうちに敗北する。
その後の展開など分かり切ったモノだ。
どっちに転んでもエルフ族はおそらく詰んでいる。
武藤、お前なら、きっとなんやかんやでエルフ族を救うんだろうな。
クソ、俺じゃなくて呼ばれたのがあいつなら……
なんで俺なんだ。
俺が勇者なんかやったって何も出来てないじゃないか。
むしろ、エルフを壊滅させる手伝いをやらされてる。
まぁ、逃げるつもりではあるが、それでも……俺にエルフを救う術なんてない。
これじゃあどっちが正義の味方でどっちが怪人なんだか……
何故、俺の力は封じられてるんだ。あの力があればもしかしたら……




