魔王城防衛線1
「はぁっはぁっ。こ、ここまで逃げれば……」
ムイムイは一人、魔王城近辺まで逃走していた。
全力で駆け抜けたので追っ手などある訳もなく、味方は誰一人付いて来る気配もない。
皆、南に留まり闘っているのだろう。
「はぁーっしっかし酷いわ。女神の勇者凄すぎでしょ。あんなもんに闘い挑もうって方がバカなのよ。魔王陛下も逃げろっつってんだから素直に撤退すれば……げっ」
少し離れた場所から、魔王城向けて迫る100騎程の人族が現れた。
ムイムイを追って来た訳ではないだろう。それでも、そのチキサニのような民族衣装を身にまとった男達はムイムイへと向かってきているとしか思えなかった。
「なんてこと。逃げ切ったと思ったのに。と、とにかく王城で防衛任務受けてるスクアーレ隊長に報告しないとっ」
闘うという選択肢は初めからなかった。
全力で駆けだし、さっさと報告に向う。
魔王城城下町の門へとたどり着くと、護衛兵が出迎えた。
一応空城ではあるが、勇者達が城を目指すように兵士だけは配置しているのである。
「ムイムイじゃないか。出世頭が酷い顔だな。どうした?」
「どうした、じゃないわよ! 南から人族兵100騎、もうすぐ来るわよ! 毒付きの矢を持ってるから受けないよう気をつけなさいッ」
それだけ告げてさっさと城へと向かう。
魔王城前の広場にようやくスクアーレとコルデラを発見した。
「ん? ムイムイ? 南軍に居たはずのお前が何故ここに?」
「説明は後です。南軍から敵100騎、レシパチコタン軍だと思いますが、奇襲してきてます」
「ほぅ、功を焦ったか、それとも作戦か。コルデラ、私は迎撃に向かう。こちらは任せる」
「了解したわ」
コルデラが城周辺の防備を確認し始め、スクアーレが陣頭指揮へと向かって行く。
取り残されたムイムイはどうしようかと迷いおろおろした揚句、結局スクアーレから逃げるようにギュンターが居るはずの街へと向かうことにした。
「ムイムイ、悪いんだけど陛下に……って、あら?」
コルデラが気付いた時には既にムイムイの姿はなかったのであった。
「ふむ。アレが奇襲部隊か」
「スクアーレ総指令!?」
門番の二人は、やってきた一軍に振り向き驚きの声を上げる。
「総指令自ら出て来る必要はありませんでしょう。奴らは毒矢を使うそうです、万が一のことがあります、我らに任せ御自重を!」
「ふ。頼もしいな。だが私も折角の戦場をただ遠方で眺めているつもりはない。全軍戦闘態勢。レシパチコタンの匹夫共に我らが力を見せつけてやれ!」
鬨の声と共に魔王中央軍が走りだす。
重装歩兵を前面に押し出し、奇襲部隊から放たれてきた矢を弾きながら前進を始める。
これに驚いたのはレシパチコタン奇襲部隊。
指揮していたウェプチもまさか奇襲が読まれていたとは思っておらず、奇襲部隊を奇襲された状況に陥り泡食って反撃を指示したところだった。
「敵は手をこまねいているぞ、怯むな! 圧し潰せ!」
「クソッ、奇襲を看破されたのか!? ええい怯むな! オピッタロンノ!」
「奴らもやる気だ! 全滅させてしまえ!!」
双方100騎程の軍勢が激突する。
中央軍の殆どが各地で防衛に向かっている事と、空城を守るメンバーであるため、初めから蹴散らかされること前提として防衛人数はそこまで多くない。
それでも精強なる中央軍である。スクアーレ指揮の元、一丸となって相手を蹴散らさんと気勢を上げて突撃する。
矢を無数に打ち放つレシパチコタン奇襲部隊だったが、流石に距離が迫り、重装歩兵の防具に弾かれてしまうと、矢毒が有利。なとどいえなくなってしまった。
やむを得ずタシロを取り出し接近戦を始める。
「ロンノロンノ!! フンパフンパ!」
「訳のわからん言葉をッ! 殺せ殺せッ!!」
魔王軍もレシパチコタン軍も乱戦へと縺れ込み、双方甚大な被害を出し始める。
それでも彼らは止まらない。
必死に相手を殺し、自分たちの力を見せつける。
魔王軍は実力で、レシパチコタン軍は毒付きの刃で相手を殺し、互いに一進一退の攻防が繰り広げられた。
スクアーレもウェプチも必死に指揮を行い、やられそうになった場所にフォローを告げる。
結果、互いに指揮者を討つのが一番早いと結論付ける。
「我が名はスクアーレ! いざ、尋常に勝負!!」
「ふん。レシパチコタンの戦士ウェプチだ! 貴様等魔族は駆逐させて貰うぞ!」
名乗りを上げながら互いに剣を、タシロをぶつけ合う総大将。
指揮がなくなったせいで互いの戦線が崩壊を始める。
強い場所は弱い敵を駆逐し、互いに相手を食い合うように軍団を蹂躙し始める。
互いに一歩も譲らぬ攻防は、永遠に続くかとも思われた。
しかし、そこに向かい、各地から助っ人が現れる事を、彼らはまだ、知らない。




