エルフの森攻略戦1
翌日、俺達は謁見の間へと呼びだされた。
まだ早朝ということもあり、MEYと大悟が目を擦りながら扉の前に集まっている。
俺達が着くと、MEYがはよぉ、と声を出す。
俺達も返答を返すと、ようやく頭が回り出したらしい。MEYはしまった。といったバツの悪そうな顔をする。
どうやら俺達を無視する方向だったらしいのに、つい話しかけてしまったと気付いたようだ。
困った顔を一瞬したものの、まぁいっか。と自分で折り合いつけて跳ねている髪の毛を捩って直し始めた。
遅れて矢鵺歌が半目で現れる。低血圧らしく睨むような目でふらふらとやってきた。
最後に、キスマークだらけの玲人が頭を掻きながら現れる。
昨晩はお楽しみでしたね。相手は誰だクソ野郎。
「玲人君、その、き、キスマークは?」
「あん? ああ、この前見つけた貴族の女に魅了掛けてな。貴族ヤバいわ。腹だるんだるんでやんの。でも、まぁ、積極的でよかったっちゃよかった、かな」
聞いた大悟はどうでもいい風に告げる大人な玲人に何も言えずに口をぱくつかせていた。
おそらく自分の想像を軽く超えてしまっているんだろう。童貞君には刺激が強過ぎたようだ。
俺? その辺りはハーレム怪人の御蔭で耐性が出来てるんだよ。
「しっかし、朝早くから全員集合かよ。朝から辛気臭い顔見せられるとか、最悪な朝だ」
俺を見ながら舌打ちする玲人。それはこっちの台詞だ。朝から嫌なモノ見せられた気分だよ。
兵士達が俺達が揃ったのを確認して開門する。
玉座には既に国王が座り、その横に侍るように立つ姫様。
兵士に誘導されて赤い絨毯を歩きながら、階段状になっている玉座前の直前まで近づき、そこで傅くように促される。
傅く気が無い俺達を見咎める大臣達が罵声を飛ばして来るが、姫がソレを手で制す。
「改めてよく来てくれた異世界の勇者たちよ。本日より、本格的に我が国を救う闘いに向っていただきたく思う」
「ついに来たか。エルフの森攻略って噂を聞いたけど……」
「うむ。今、我が国は魔族からの侵略の危機にある。魔族がエルフの森を侵略するか、我が国が砦を建築するか、時間が勝負になるのだ。既に討伐部隊の編成は済んでいる。あとはそなたらが闘いに赴くのみ。しかと頼むぞ勇者たちよ!」
俺は周囲を見回す。大悟と玲人は全く疑問すら思わず頑張るぞみたいなギラついた目をしているが、矢鵺歌はやや不安気味、MEYに至っては面倒そうだから行きたくないといった顔をしている。
「スケイル、彼らを討伐軍に案内せよ。軍を率いてエルフを討伐し、城を築け、魔族の侵攻を阻む最前線基地を構築するのだ!」
「皆様、御武運を」
白々しく両手を合わせて祈る姫。綺麗な顔だから確かに絵になるのだが、嘘泣きは過剰演出だと思う。まぁ大臣達は騙されてるみたいだが、殆ど面識もない俺達がエルフ殺しに行くのに何を思って涙を流したのか小一時間くらい問い詰めたいモノだ。
宮廷魔術師に案内されて俺達は討伐軍なる者たちのもとへと向かう。
城の冷たい廊下を歩きながら前を歩くスケイルを見る。
今のところ彼が俺達に何かする様子は無い。
すでに全員のところに向った後なのだろうとは思うのだが、俺の命令がどこまで反映されたのかが気になるところだ。
討伐軍は銀色のフルフェイスヘルムとプレートアーマーで統一のされているらしい。
一糸乱れぬ隊列で並んでおり、騎士団長らしい人だけが突出して騎士団と向かい合わせになっている。
スケイルが彼の横に来ると、騎士団長が剣を引き抜き眼前に構える。顔と並行して空へ垂直に掲げられた剣を見て、騎士団全てが同じ体勢を取る。
「我々は!」
「「「「我々はっ!!」」」」
うわっ!? びっくりした。
全員が力の限り叫ぶように告げる。あまりの軍団の迫力に勇者たちは皆気圧されたように騎士団を見る。矢鵺歌が数センチ飛んだのが視界に映った気もしたが、多分気のせいだ。
「王国の剣である!」
「「「「王国の剣であるっ!」」」」
「我々は!」
「「「「我々はっ!!」」」」
「王国の盾である!」
「「「「王国の盾であるっ!!」」」」
すごいな。これだけの人数が本気で声を出すと空気が震えるほどの大音量になるらしい。
騎士団の討伐宣言はしばらく続き、納刀と共に騎士団長がこちらを向いた。
「初めまして勇者諸君。私は騎士団長ベックナーといいます。本日は同道となります。よろしくお願いしたい」
突然の振りに戸惑い浮かべる大悟たちに代わり、若萌が一歩前に出る。
「初めましてベックナーさん。我々も勇者として出来る限り力になりますよう、共にがんばりましょう」
コクリと頷きベックナーは騎士団に顔を向ける。
「行くぞ! 我が王国にエルフの森前線基地という吉報を持ち帰る! 出陣っ!!」
エルフの森侵攻戦が今、始まった。




