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命令

「河上若萌、命令だ。今後一切真名による命令を聞くな」


 という命令をしてみた。

 これで若萌が真名による命令を聞く必要はなくなるんじゃないか。という淡い期待を込めた命令だ。


「なるほどね。確かにこれが使えるようなら真名による強制はなくなるわね」


「んじゃ、河上若萌、命令だ。両手を上げて万歳しろ」


 軽めの命令でちゃんと命令を聞くなと言う命令が施行されたかどうかを調べる。

 しかし、若萌は万歳を行った。


「ダメみたいね」


「みたいだな……はぁ」


 命令を解除して俺は溜息を吐く。

 上手く行くかと思ったんだが、そう都合よくは行かないらしい。


「なら、個人に縛る方法はどうだろう?」


「個人で縛る?」


「ああ、絶対的に信頼できる相手だけの命令を聞くように告げる、みたいな?」


「つまり、誠以外からの真名命令を聞かないように命令するってことね」


「ああ。出来ると思うか?」


「微妙なところね。爆死で縛っているくらいだし、効果は無いかもしれないわ。それに、誠に命令を握られるというのも……」


 じと目でこちらを見て来る若萌。心配しなくともあいつの娘に手を出すようなバカじゃないぞ。それに今の状態だとエロイ事とかできないからさ。


「そうね。いいわやってみて」


「いいのか?」


「誠を信頼する事にする。裏切らないでほしいわ。本気で」


「裏切るつもりはないさ。俺の正義に誓って」


「貴方の正義が信用ならないんだけど。いいわ。やってみなさい」


 一言多いな。と思いながらも俺は命令を口にする。


「河上若萌、命令だ。俺以外からの命令を聞くことを禁止する」


 さて、これを調べるには他の人からの命令が必要になるんだけど……


「確かめる術がないと言うのが悲しいところね。とりあえず今日はここで寝ることにするわ」


「へ?」


「明日がエルフ戦になるのよ、下手に個室に居ると真名による命令をされかねないもの。一応、さっきの命令が無効である可能性を念頭に入れて行動しないと。私が操られたら、守ってくれるんでしょう? 正義の味方さん」


「ああ。守るさ」


 俺は正義のヒーローなんだからな。まぁ、既に廃業しているようなもんだが。

 ベッドを若萌に譲って、俺は床に寝転がる。

 この野郎、少しも遠慮することなくベッドで普通に寝やがった。いや、まぁいいんだけど。文句は無いぞ、文句は。




 深夜、ぎぃっと開くドアの音で俺は意識を覚醒させた。

 部屋に誰かが侵入している。

 そっと視線を向けると、スーツのセンサーが働き、暗がりの部屋を暗視スコープ入りの視界で表示してくれた。


 宮廷魔術師? なぜこんなところに?

 宮廷魔術師はゆっくりと部屋を見回し、俺を確認してぎょっとする。

 が、寝ているかどうかを確認して俺の反応が無いと分かると、俺を放置してベッドの若萌に視線を向ける。


「ここに居たか。河上若萌、命令だ。私以外からの命令を聞くことを禁止する。ならびに、明日のエルフ森林攻略に何の疑問も持つことなく参加し、エルフを一人残らず虐殺せよ」


 この野郎、寝てる隙に命令しやがった!

 しかし、良かった。誰か以外からの命令を禁止するってのは有効らしい。優先順位は俺の方が早かったから大丈夫なはず。


「さて、後は……ステータス強制表示」


 次に、俺に向けて飛んでもない事を告げやがった。

 慌てて小声で強制ステータス閲覧を発動する。


「ふん。やはり偽名だったか。しかし河上? 兄妹か何かか? まぁいい。河上ま……」


「スケイル・ミック・リヒテンシュタイン命令だ、今見た俺の真名を忘れろ。ならびに俺の部屋から退出し、俺と若萌には既に命令を与えたと誤認すること! またMEYと矢鵺歌への命令にお前の命令しか聞かないではなく、俺の命令以外禁止だと告げろ。二人への真名呼びかけ、別の人物への真名の暴露も禁止する」


 咄嗟に早口にまくしたてる。

 びくんと震えた宮廷魔術師は踵を返して部屋から出ると、そのまま去って行った。

 とっさに告げたけど、大丈夫だっただろうか?


 男性二人の事が抜けてたのはどうせ真名が知られているから仕方無いというところだろうか? ちょっと失敗した。

 しかし、ステータス強制表示で真名が抜かれる可能性もあるのか。

 となると、俺の真名も下手に奪われないように信頼できる奴に……若萌か?


 だが、本当に若萌に真名を渡して大丈夫だろうか?

 そもそも若萌の奴、俺の知り合いの有毒魔術師の性格がちょっと見え隠れするんだよな。アイツの影響ちょっと受けてんじゃないだろうか。将来心配だぞ。


 だが、現状俺の真名を知ってるのは彼女だけだろう。前の世界の俺を知っているのなら真名も知っているだろうし。

 そうだな。一応、明日、真名を悪用されないように彼女に縛っておいて貰うか。

 あと、つい言っちまった二人が俺の命令以外で動くかどうかも調べた方がいいかと思うんだが……いや、待てよ、あの宮廷魔術師が告げたことが実行されているんなら、二人は明日、エルフ殲滅に率先して向かうはずだ。そうでなければ俺が宮廷魔術師に命令したことが実行されたとみていいだろう。

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