フラージャ洞窟の攻防3
「ネン カ クアニウタラ ニセ ワ――――っ!!」
チキサニの悲痛な叫びが響く。
無慈悲な女はナイフを真上に煌めかせ、チキサニの喉向けて一気に振り下ろす。
「最初は喉裂きから行きましょうかァッ」
チキサニの喉が切り裂かれ、鮮血が飛び散る……はずだった。
和美は期待していたし、チキサニも自分は死ぬのだと悲嘆した。
稀良螺とフェレとポエンティム。誰もがもうダメだと絶望に打ちひしがれた。
しかし……
キンッ
金属を金属が受け止める音が響く。
本来、それはありえないタイミングだった。
和美の眼前。そしてチキサニを守るように、地面に浮き出る召喚陣。一瞬の召喚でそいつはそこに立っていた。
煌めく薄緑の鎧を身に纏い、短めのショートボブに側頭部の髪を編み込んで三つ編みにしている赤紫色の髪の少女が剣を手にしてそこにいた。
迫るナイフを切り払い、ついでとばかりに和美を蹴り離す。
「ぎゃっ」と和美が地面に転がった。
「痛ったっ。なんなの? あ、あんた何者よっ」
「グッドタイミング、かな。グーレイ神様召喚タイミングシビア過ぎですっ」
なんとか危機に間に合ったと、女は大きく息を吐き、背中のチキサニを見ないままに告げる。
「よく頑張ったわ皆。後は私が引き受けた。女神の使徒だかなんだか知らないけど同じ異世界からの侵略者。あんたの相手は今から私、パルティ。パルティエディアが相手よ!」
透き通る程に綺麗な黄緑色の剣を和美に向け、パルティエディアと名乗る少女が立ちはだかる。
チキサニを殺せなかったことは許せない和美だったが、相手が女性であるならばむしろ願ったり叶ったりである。
どうせ自分はこの世界で最強なのだ。ならば一人増えたところで問題はない。
むしろ、楽しむ時間が増える。
「いい度胸よパルティちゃん。何処から何しに来たかとかどうでもいいわ。私を楽しませる悲鳴を利かせてちょうだいっ」
鞭が振るわれる。稀良螺もフェレも敵わなかった連撃が、パルティにも振るわれた。
剣に巻き付け武器を奪い後は無防備なパルティへと連撃が襲いかかる。
和美にとっての必勝パターン。
の、はずだった。
パルティは慌てることなく虚空から長い黄緑色の棍を取りだすと、振るわれた鞭を絡め取る。
さらに虚空から手作りボウガンを取り出し乱射した。
慌てて横っ跳びに逃げながら鞭を手放す。和美の身体を掠めて無数の矢が洞窟入り口へと飛んで行った。
「な、何よソレ!? 虚空から?」
「ただのアイテムボックスよ。あんたも持ってるでしょ」
そう告げるパルティの手にはいつの間にか槍が握られていた。
「神槍技、ブリューナクッ」
「っ!?」
とっさに飛び退く。
ぎりぎり避けた和美のすぐ側の地面が抉れ飛んだ。
大地が弾丸と化し和美に襲いかかる。
流石に飛んできた土までは避け切れなかった。
「痛い……私の顔に、傷が、ああ、血が……」
「うーん、初めて使ったけど神様方から教わったスキル、微妙に使いがって悪いなぁ」
「あ、あんた……殺す。殺してやるっ。目玉を抉って食べさせてやるっ。鼻も削いで四肢を切り落として、股間を縫い合わせてぇぇぇッ」
「サディストもここまで来ると出会いたくも無いわね」
「殺すッ」
怒り狂った和美が反撃とばかりにナイフを振るい飛びかかる。
それを、パルティは短剣を取り出し受け止めた。
特殊な形状のソレは和美のナイフを受け止め、さらに力を加えて破砕する。
マインゴーシュ。それが短剣の名前であった。
一瞬で武器が破壊され、焦燥浮かべた和美は数歩、よろめくように退がる。
本来、こんなことはあり得ないはずだった。
彼女の一人勝ちが約束されていたはずだ。
認められない。自分と同じくらいに強い存在が居るなどと。
女神は自分にチート能力をくれた筈ではなかったのか?
なぜ自分よりも強い女が敵に居る?
「カラミティミーティアッ」
武器がダメなら、と和美は至近距離から火炎弾の連撃を唱える。
本来、それは軍団相手に使う大規模魔法。それを詠唱の必要すらなく一瞬で唱える。
「セイクリッドシェルタ」
一瞬で肉塊すら残らず爆散する大軍魔法は、しかし、輝く光の壁に霧散する。
自分の魔力による凶悪な一撃だ。和美だって受け切る自身はない。
なのに、まるで神の加護でも持ったように、その女は防いでみせた。
よろめきながら和美は退がる。
聞いてない。こんな奴がでてくるなんて、聞いてない。
「なによ……何なのよあんたはッ!!」
「あんたと同じ、別の神様からチキサニちゃん守るように連れて来られた異世界人って奴よ」
稀良螺とフェレがパルティの背後へと辿りつく。二人がチキサニを守るように左右に来ると、三人纏めて守るようにパルティが和美へと一歩踏み出し、黄緑の刀身を持つ剣を向ける。ポエンティムが慌てて皆に合流した。
「ラマッ……カムイモシリから、クアニ、助けに来てくれた……」
黒の聖女の予言が成った。
神々の世界から来る神々たちに愛されし精霊が降りるまで、魔国にいなければ、チキサニには死ぬ未来しかない。その未来が、ついに形になったのだ。




