ラオルゥ急襲1
「暇ね」
対岸のラガラッツたちを見ながら、ソルティアラは思わず呟いた。
周囲にいたルトバニア兵が彼女に同意する。
「勇者様が永遠様を呼びに行かれましたし、もうしばらくすれば動きがあるのでは?」
「そう思う? 大悟は移動スキルを使っていなかったから辿りつくまでかなり掛かるわ。多分まだ辿りつけてもいないでしょうね。スキルを使えばもう帰ってきても良いくらいの時間なのに」
「敵が攻めて来るわけでもなし、急ぐ必要はありますまい?」
事実、今回東側が動かずとも三方から攻めれば魔王軍は滅びるだろう。
ルトバニアは戦争に参加せず高みの見物をするだけで人族が勝利するのだ。
だが、それはそれで、ソルティアラにとっては暇であることに変わりはなかった。
「私としてはルトバニアの領地が増えればそれだけで問題はないのよ。だから今回は魔族討伐に参加したという事実があるだけでいいの」
魔族が片付いた後にコーデクラに攻め込めば領地の拡大はできるしね。
と、口には出さずに思考する。
そのコーデクラはすぐ側でテントを張ってソルティアラ達と同じように暇そうにしていた。
一部はカードゲームをし始めている奴らもいる。
「今回、目の前にいる東魔王軍は気が気でないでしょうね」
「いつ戦争に突入するか分かりませんからね。しかし、勇者様が辿りつき次第出立するとして、海を渡ることになりますがその辺りは何か考えが?」
「ないわよ? 永遠と大悟が突撃すれば大体カタが付くでしょう。なら二人に任せればいいのよ」
初めからソルティアラはルトバニア兵を動かす気はなかった。
今回彼女が狙っているのは戦争に参加したという名分を持ちながら、ルトバニアの損耗無く戦争を乗り切る事だけだ。
無事に戻ったら王を排斥し、大悟を王にしてコーデクラを攻める。既にムーラン兵がかの国近くで合図を待っているのだ。いつでも滅ぼせる。
それからは近くの国を併呑し、大陸東をルトバニア大帝国にする。
その後大悟を排斥し、初代ルトバニア大帝国女王となるのだ。
気に入った男どもを自由にとっかえひっかえし、好きに生きる。その為に、全てを操る。
思わずニヤつきそうになる顔を暇そうに演技しながら待つことしばし。なぜか魔王軍の方が騒がしくなった。
なんだ? 怪訝な顔で周囲の兵士たちを立ち上がらせ、いつでも攻撃に備えられるように防備を固める。
すると、魔王軍を掻きわけ、そいつは堂々現れた。
「魔神……ラオルゥ?」
ラオルゥはラガラッツとシオリアが止めるのを聞かず、海に足を踏み出す。
普通なら海に沈むはずなのだが、彼女は海上を歩き、そのまま人族側へとやって来る。
ソルティアラの頭に警鐘が鳴り響く。
「一番足の速い兵、ルトバニアに全力で走りなさい。勇者永遠を殴ってでも連れて来て!」
「で、では私がっ」
兵士が一人、走り出す。すぐにスキルを使い光と化してルトバニアへと駆け去って行った。
彼が消え去るのを見届け、ソルティアラは目の前にやって来たラオルゥを見る。
兵士達がラオルゥとソルティアラの間に割り入る。絶対にソレ以上は近づかせない。そんな顔をしていた。
「やぁ、こうして直接話し合うのは初めてかなソルティアラ」
「そうなるのかしら? 何か御用? 魔神さん」
「うむ。実はな。ガンキュが手に入れてきたルトバニアの情報を見ていて知ったのだが、ルトバニア王族の家系図にな、見付けてしまったんだ」
ソルティアラは、知っていた。シシルシにラオルゥの事は聞いている。シシルシの昔話に出てきた勇者とそれに救われた魔族の話。その後図書室で家系図などを探して既に知っている。
当時の勇者と、それに付き従っていた王族が結婚し、子を成し、今のソルティアラに繋がっているのだ。つまり、自分達は勇者の子孫でもある。
「あの腐った男の子孫が脈々と生きながらえているということに……許せるか? 勇者様から頼れる男を引き離し、我を騙し討ちし、勇者様を手籠にした。そんなクズ王の血脈がのうのう生きているのを、許せるか?」
「そ、そんな事を言われても……そいつは既に死んだのでしょうっ、私には関係ないわっ」
「そうだな。関係ない。我にとってもそのつもりだった。だが、お前も今の王も、あのクズ男と思考回路が一緒だ。一緒だったのだ。勇者様の優しさも、強さも、見当たらないっ。なぁ? 我は我の怒りに任せ、お前とルトバニア王を殺すが、いいよなぁ?」
「なっ!? わ、私にはその勇者の血も混じってるのよッ! 勇者を思うなら見守るべきじゃなくって!?」
「勇者の血? ああ、そうだな。勇者様の血を混ぜられている。お前達にあの勇者様の血が混じっていると思うと……虫唾が走るッ」
ぱさり、今まで覆われていたラオルゥの目隠しが地面に落ちた。
咄嗟にソルティアラは目を瞑る。
悲鳴が上がった。
何かが破裂する音が幾つも響く。一つ一つは小さな鈍い破裂音。しかし、それが重なればかなりな音になる。
ごくり、思わず生唾を飲む。一瞬で干上がっていた喉が水分を飲み込めずに咳込みそうになった。
「ほぅ、咄嗟に目を瞑り難を逃れたか。だが、兵士どもは無理だったようだな」
「バカな、こんな一瞬でルトバニアの兵を!?」
「これが……魔神?」
「ああ、お前達コーデクラとハーレッシュは関係ない。攻撃してこなければ何もせんよ。我の目的はソルティアラとルトバニア王の死。それだけだ」
ソルティアラはただただ後に退がるしかできない。
しかし、直ぐに木にぶつかり後ろにすら退がれなくなった。




