魔族少女戦3
「なるほどねぇ」
顎に手をやりながら若萌が呟く。
言える事だけの証言だけでもかなり有意義な事が知れた。
やっぱりあの国は危険思想が蔓延しているようだ。
真名についても色々知れた。
どうやら真名を握られればほぼ奴隷にされたと思っていいらしい。
ただ、真名を変える方法もあるらしいのは僥倖だろう。
魔族領の伝説の塔とやらに方法があるらしいので、ひとまずの目標が決まった。
まずは若萌の真名を変更して王国人と出会っても操られないようにするんだ。
エルフの森から魔族領に向うのはムイムイに協力させることにした。
まぁ俺らに掴まった不幸というべきか、辱めを受けることなく明日の闘いで俺達二人を魔族領に迎え入れさせるだけの仕事で開放されるなら安いモノだろう。
最後にムイムイをヒールで回復させてやり、明日のことを命令して別れることにした。
帰り際に俺達に魔法を放って来たが、もともと攻撃できないように命令されているので魔法が俺達に当ることはなかった。
ムイムイの去った森をしばらく見つめ、俺と若萌は頷き合う。
「これで、脱走の経路は確保できたわ」
「ああ。後は明日だな。でも、他のメンバーはどうするんだ?」
「男子二人は真名を知られてるからちょっと危険ね。女子二人は、昨日の一件で距離を取られてるし、放置でいいんじゃない? レベルは高くしておいたからまず死なないでしょうし」
大悟と玲人が暴走しても二人が逃げるくらいは出来るか。
そうだな。無理に全員に気を配らなくても……そうだ。俺は正義の味方にはなれないんだ。
だったら、若萌だけでも、俺の知り合いの娘だけでも元の世界に連れ戻してやらないと。
俺達は用事を終えて集合地点へと戻る。
森に一度侵入し、魔物を撃退しながら戻ると、既に他のメンバーが揃っていた。
玲人が俺達の姿を見て舌打ちする。
「チッ、またお二人でレベル上げかよ、仲がいいな殺人者共」
「玲人、そう言うのは……」
「戻って来たんだ。もういいだろ。さっさと帰るぞ」
あからさまな侮蔑の視線を向けた彼は、一人足早に街門へと向い、城へと去っていく。
何かあったのか?
「随分機嫌が悪そうね、どうしたの彼?」
若萌が聞いてみるが、女性二人は困ったように視線を外し、我関せずと玲人の後を追って走り去った。
兵士達の一人が慌てて彼らを追って行く。
残った兵士と大悟がバツの悪そうな顔をしていた。
「あー、そのさ。結局玲人は昨日動けなかったじゃん。アレでも女の子助けるのは男の役目とか思ってるみたいで、誠に持ってかれたのが悔しいんだよ。自分は相手を殺してでも女性を助けるとか思いもしなかったらしいから。それに加えて今日は二人とも他の女性とパーティー切ってどこか行ってたでしょ。若萌が誠とくっついてるように見えて嫉妬してるみたい」
なるほど、傍から見れば俺と若萌は恋人なりたてみたいにみえるのか。
俺と若萌は顔を見合わせる。
「誠と恋人? ……うん、無理ね」
「面と向かって言われると地味にショックだな。まァそう言う訳だ。俺と若萌は付き合ってるわけじゃないぞ」
「え? そうなの? ふーん」
意外そうに驚き、何でもない顔を装いながらふーんと告げる大悟。その顔は若萌に視線が行っている。もしかして僕にもまだチャンスあるかな? みたいな顔だな。
うん、無理だと思うぞ。
「とにかく、城に戻りましょ。どうせ他にもいろいろ理由があるんでしょ?」
「ああ、うん。えーっと。いや、ないよ。うん、そこまで気にするモノは無いよ」
ああ、隠してるけどまだ何かあるんだな。
というか、おそらくそっちが本命か。
俺と若萌は再び顔を見合わせる。が、思い当ることは無かったので首を捻りながら城へと向かう事にした。
今回のミーティングは俺達が部屋に入ると共に解散になったので実質なかった。
完全な無視らしい。
俺と若萌はそのまま俺の部屋へと向かい、ベッドに腰掛け密会する。
他のメンバーとは何も話が出来なかったが、俺達だけの打ち合わせはしっかりとしておいた。
何にせよ明日、俺達はこの国から去るのだ。
他の勇者たちがどうなるのかは分からないし、この国とエルフの森がどうなるかも分からない。
それでも俺と若萌は魔族領に向う事を決めたのだ。
この決定に否は無い。
上手く行く可能性は6、いや7:3くらいの成功率か。
一番のネックは若萌の真名だな。これをなんとかしておかないと……
何かいい方法は無いだろうか?
「なぁ、若萌」
「なに?」
「真名についてなんだけど、例えばこんな命令したらどうなると思う?」
俺はふと思いついた事を聞いてみた。
それはおそらく真名の盲点を付いたものだろう。否、既に使われている手法かもしれない。
ただ、これを行うという事はつまり、通常であれば奴隷宣言したも同じになるのだが。




