フラージャ洞窟の攻防1
フラージャ洞窟に避難するのは、チキサニ、稀良螺、フェレ、ロバート、メデュパ、ポェンティムの六人であった。
皆、食料を抱えて洞窟へと避難する。
魔神フラージャがいたということもあり、この近辺には民間人は近づかない。
さらに言えば家主であるフラージャがいないため、魔神を倒す。等といった実力を勘違いした冒険者が来る事も無い。
得る物が少ない攻略済みの洞窟に足を延ばすモノ好きは、まずいないのである。
だからこそ、人族軍が此処に迫ることはまずない。チキサニ達が此処へ向うという情報が漏れていたり、彼女たちの動向を知る者が居ない限り。
「ふぅ、なんとか戦争が始まる前に来れたわね」
「クエッ」
「何ソレ? 鳥の真似?」
「クアニが来た。と言った。こんなことも分からないのかオソマクタプ」
「意味は分からないけどね……言いたいことは伝わったわ」
稀良螺はいつものようにチキサニの頬を両手で握るとびろーんと伸ばす。
「アルカアルカっ」
「さぁ、ちょぉっと言ってみましょうか? クタって何かしら?」
「ふぉっふぉ、何かを全部出すという意味だそうじゃぞ」
答えそうにないチキサニに変わり、ポエンティムが暴露する。つまり、○○を全部出す者と言われた訳である。
「チ・キ・サ・ニぃぃぃ」
「アルカアルカーっ」
「はぁ。めんどくさ。ロバート、メデュパ、ポエンティム。一応分かってると思うけど、敵が来ないかどうかちゃんと索敵しといてよ」
「フェレは索敵はしないので?」
「私は寝る」
「ダメです。チキサニ様の護衛なのですから起きてなさい」
チキサニが頬を抓られているのをバックサウンドに、フェレたちがこれからに付いての話を始める。
フラージャ洞窟に付いて既に数時間。今のところ危険な状況になる心配は一つもなかった。
これからも、ここが襲われることなどない筈だった。ない、筈だったのだ……
「むぅ!? 何か来る! なんじゃこの邪念!?」
「ポエンティム?」
突然青い顔になったポエンティムに、全員が押し黙る。
「如何、ここはダメじゃ。女性を切り裂く事に喜びを見出す奴が来るぞ!!」
「なんだそいつ?」
「待って、それ、軍団でここに来た訳じゃないの!?」
「一人じゃ。一人で、来た……」
フラージャ洞窟の前に、そいつは現れた。
ロバートとメデュパがチキサニ達を守るように位置を移動する。
「あはは……みぃつけたぁ」
女神の勇者、和美は洞窟内で怯えるチキサニ達を見て、ニタリと笑みを深めた。
「シャァ――――ッ」
「待ちなさいメデュパ!」
先手必勝とばかりに飛びかかるメデュパ。ロバートの制止も聞かない彼女が爪で攻撃を行うが、和美は手にした鞭を一振り。メデュパの腕に絡ませ上に引っ張り上げると、空中から地面に叩き付ける。
「あら、脆い」
アイテム入手ダイアログが出てきたのに気づた和美が落胆した様子でメデュパの遺体を放り投げる。
「ほら、さっさと復活させなさいな」
敵に言われるのが不思議ではあったが、稀良螺がメデュパを復活させる。
その間和美がこちらに攻撃を加えることはなかった。
「ふふ。つまりそっちの子が復活させられるのね。いいわ。本当にイイ。全員殺して女の子だけ生き返して弄って弄って弄ってまた生き返して、あはっ。虐めがいがありそうねぇ」
「下衆野郎……」
「ムニンマッネ」
「なんとでも言いなさい。これからあなた達は私の奴隷として死ぬまで、いえ、死んでも虐めてあげるから」
出入り口は阻まれ、倒す以外にこの女から逃れる術はない。
なのに、相手はチート能力を女神から貰った最強の勇者。勝ち目すらも無かった。
「メデュパ、行けるか?」
「やります!」
ロバートとメデュパが同時攻撃を始める。
だが、たかがレベル4000にも満たない彼らでは闘いにすらなりはしない。
和美が面白く無さそうにロバートを八つ裂きにすると、さっさとダイアログを操作してアイテムを入手する。
メデュパも倒されていたが、彼女は稀良螺の近くへと遺体を投げ飛ばされていた。
「男など死ねばいい。女は切り刻まれながら懇願して死ねばいい。すべて私の糧と成りなさい。ふふ、ふふふふふふふふふふ……」
パシン。鞭で威嚇する和美。ポエンティムがゴクリと息を飲み、フェレに視線を向けた。
「しゃーない。死ぬ気でやるしかないわね。お願いポエンティム」
「ちゃんと聞くのじゃぞ」
走り出すフェレが魔法を連射。
真正面から受けた和美だったが、ダメージは皆無。
「右じゃ!」
すっと身体を右に傾けたフェレの左側を鞭が地面を破砕する。
「飛べっ! 右から来るぞ!」
ポエンティムが感情を読み取りフェレに伝える。
相手の攻撃方法が分かるおかげでフェレは和美に近づけた。
「ふっとべ!」
一撃必殺の魔法で和美を爆殺。
やった! と思ったフェレの腕を、爆炎の先から無傷の和美が掴み取る。
「つーかーまーえーたぁ」
醜悪な笑みを浮かべ、悪魔が嗤った。




