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魔王軍西方防衛線

 西方征圧部隊としてネンフィアス船団と共にやって来たのは、勇者蛭子和美。

 船からはほとんど見えないが、遠くに魔王軍の港街が見える。


「そろそろ、敵の砲撃来るかしら?」


「来るでしょうな。それよりも……海魔が来ます」


 ネンフィアス帝国軍総大将ラスレンティス。真剣さはなく諦めた表情と言うべきか、呆れた顔をしている。

 それはそうだろう。和美はこのムサい男だらけの船団に辟易し、我がまま言いたい放題なのだ。

 喉が渇いた。アレを持って来い。持って来た男に、今の気分はコレじゃないからやっぱソレもってきて。やっぱコッチがいいわ。でもやっぱりアレでいいかしら?


 こんな女が勇者だなどと笑い話にもならない。

 ネンフィアス軍にとって和美は邪魔者でしかなかった。

 しかし、彼女が勇者であることは確かだ。


「仕方無いわねェ。はいはい。スプラッシュシールド船底展開っ」


 見た目には変わらない。しかし、浮上を始めていた海の魔物の潜影がゴンゴンと何かにぶつかる音を立てている。


「これは?」


「面倒だから船底にシールドを張ったのよ。海の底から出て来る奴は居ないわ。そうね。あの辺りくらいからだと出てくるけど、もう通り過ぎてるでしょ?」


 言われた場所から巨大イカがざばりと出現する。

 しかし船団の遥か後ろであるため、船に攻撃が来ることはない。

 取り残されたイカがただただ後に流れて消えて行く。


「さて、そろそろ、かしら?」


「そう……ですな。お、来ました」


 港から砲弾が飛んできた。

 威嚇だろう。散発的に射出される砲弾が船団の手前に落下していく。


「さて、このままだと狙い撃ちにされますが、いかがいたしますかな?」


「気にせず突っ込みなさい。と言いたいだろうけれど、流石にあの数はムリか。仕方無いわね」


 掌を前に向けた和美。本格的な弾幕と化した港からの連撃が船に届く寸前だった。


「リフレクトフィールド」


 シールドではなくフィールド。船団全てを包み込む反射結界が一瞬で張り巡らされる。

 襲いかかって来た砲弾が結界に突撃し、独特の反射音と共に跳ね返る。

 無数の砲弾は全て海に落下していくが、船団が港に近づくほどに、その砲弾は港自身へと降り注ぎ始めた。


 ---------------------------------


「撃て撃て撃てッ! 魔王陛下の恩為に、ネンフィアスの兵団全てを海の藻屑と変えてやれ!!」


 西方将軍トドロキの指示の元、魔王軍は港から砲弾の嵐を放っていた。

 しかし、船団一つたりとて沈む姿が見えない。

 クワンクワンと変な音を空中で立てた砲弾が海へと落下していく。


 それでも、砲撃こそが唯一の手段だとでもいうように、魔王軍はひたすらに砲撃を続ける。

 だから、悲劇は起こるべくして起こった。

 それは砲撃がどういうものなのか、戦闘をすることも無く平和に過ごしていた魔王軍だからこそやってしまった失敗であり、敵の特性をよく理解しなかったために起こった悲劇である。

 トドロキが気付いた時にはもう、遅かった。


 ドゴンッ


 叫びながら指示を出していたトドロキは、謎の破砕音を聞いて思わず振り向く。

 そこには砲撃を行っていた砲塔の一つが台座ごと砲弾に砕かれた跡が残っていた。

 残念ながら砲塔は台座ごと海に落下してしまい。砲撃主だけが取り残されていた。


「なんだ? 今のは敵軍の攻撃か?」


「トドロキ将軍っ、アレを!」


「どうし……バカなっ!?」


 全く無傷の大船団が港に近づいている。その船団に向かった砲弾の悉くが跳ね返され、放った砲塔へと反射されていた。


「そ、総員退避――――っ」


 トドロキの叫びと共に跳ね返された無数の砲弾が港へと襲いかかった。

 無数の砲弾により港が破壊されていく。


「敵船より光源、魔法が来ますっ!!」


「バカなっ、こんな一方的に!? 我が軍は何をしている!?」


「トドロキ将軍、壊滅です。このままでは我が軍は……」


 光が、放たれた。

 無数に分かれた光の筋が港へと降り注ぐ。

 トドロキの目の前にいた魔族が光に貫かれて消え去った。


「バカな。これが、これが勇者? こんなもの、勝てるわけが……」


 破壊された壁が崩れる。

 物見台が破壊される。

 トドロキが気付いた時には彼に向い物見台が倒れて来るところだった。


「あ、ああ……うわあああああああぁぁぁぁ――――……」


 -----------------------------


「ふぅ。なんかあっさり過ぎて暇ね」


 西軍港にネンフィアス船団が辿りついた時、既に魔王軍西軍は壊滅していた。


「さって、索敵っと……あら? 民間人は一人もいない? 既に避難済みなのね? あら。うふふ。女の子が集まってるところ発見~」


「勇者様何処へ? そちらには確か魔神フラージャの洞窟しかないはずですが」


「私は所用をしてくるわ。あんたたちしばらくここで陣築くんでしょ。その間暇つぶし。終わったら直で魔王城目指すから、あんたたちは私の帰還待たなくていいわよ」


「了解しました」


 フラージャ洞窟向けて勇者和美が去って行く。

 その後ろ姿を見送り、ラスレンティスは己の軍団に向き直る。


「全員点呼は済んだか?」


「はっ。それなのですが、ゲドが見当たりません」


「ゲドが? ああ、なんか所用があるとか言ってたな。まぁいい。これより我々がやることは一つだ。魔王軍西軍の生存者を捜索、介抱する。我等の王を弑した女神の勇者になど組するものか。魔王軍に敵対したい者はこのまま王城を目指せ。他は我に続け。生存者を確実に救うぞ!」


「「「「はっ!」」」」


 将軍の言葉で散開するネンフィアス兵士たち。彼らが魔王城へと目指す事はなく、終始魔王軍を手助けすることしかしなかった。

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