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魔王軍南方防衛線3

「いい加減に……しろやっ!」


 カルヴァドゥスの猛攻を受けながらも、名偉斗はまったくダメージを負っていなかった。

 馬乗りになられた瞬間こそ焦ったモノの、ダメージになっていないので直ぐにパニックは落ち着いた。

 相手の攻撃はダメージにならない。しかしうざったい。

 涙に鼻水を流しながら、名偉斗は目の前の狂戦士を殴りつける。


 たったの一撃でそいつは吹き飛び地面を転がった。

 六回ほど地面を跳ね飛んだカルヴァドゥスは、そのまま勢いを殺して足から着地すると、咆哮上げて走り出す。

 立ち上がった名偉斗に蹴りが襲いかかった。


「やろぉ、同じ手喰うかっ。ぎゃぁ!?」


 押し倒された名偉斗は再び馬乗りになられ、拳の連撃を顔面に受ける。


「やめろっつってんだろがっ」


 むりやりカルヴァドゥスを殴り引き離し、なんとか立ち上がる名偉斗。

 もう同じ手は喰わない。そう思った瞬間また蹴り倒される。

 同じ事を何度繰り返しただろうか?

 徐々に減っていたカルヴァドゥスの体力の方が限界を迎え、走り出す直前に崩れ落ちる。


 攻撃を当てたのはカルヴァドゥスの圧勝だが、一撃の重さは名偉斗の圧勝。

 カルヴァドゥスは自滅もいいところであった。

 だが、その御蔭で周囲は魔王軍優勢になっていた。

 勇者三人が押さえられ、レベル差1000以上もある魔王軍を相手にすれば、エルダーマイアとレシパチコタンの連合軍が勝てる道理などなかったのである。


 押し込まれたエルダーマイア軍から光子を伴った猊下が脱出を始める。

 このままではまずい。彼は一度近くの村に引き、体勢を整えるつもりらしい。

 ソレを見たウェプチは舌打ちしながら矢を放つ。

 魔王軍の一人に当ったように見えたが、残念、当ったのは身体が炎でできた種族だった。

 自慢の毒も役に立たない相手に当ってしまい、再び舌打ちする。


「クソ、人族の一部が逃げるっ」


「アレは猊下だ。アンタ、俺に構わずあいつを倒してくれ!」


 ホルステンの舌打ちに十三が応える。

 言いながらも攻撃して来る十三にふざけんなと鼻息を荒くするホルステン。


「俺が押さえてねぇとお前が暴走すんだろうが。くそっ、べー、あの猊下ってのなんとかできねぇのか!」


「ギギ、ここからじゃ無理。辿りつく前に死ぬ」


 そりゃあそうか、とホルステンも納得する。

 逃げた猊下たちを追うにはここは遠すぎる。エルダーマイア兵を掻きわけレシパチコタンの弓攻撃を潜り抜け、さらに援軍無しで彼らに背を向け猊下を追わなければならない。

 残念ながら見逃すしか手はなさそうだ。


「あいつなんだ! あいつさえ何とかしてくれれば俺らは自由になる!」


「ンなこたぁわかってんだよ。ブモーッ!」


 十三と力比べしながら鼻息を漏らすホルステン。しかし、現状魔王軍に対応できる人材はいなかった。

 メイクラブに頼もうにも、彼女も琢磨相手で手いっぱい。しかも別の誰かに任せる訳にも行かない実力を持つ勇者が相手だ。


「はは、ようやくおとなしくなったか……」


 何度目かの転倒から立ち上がった名偉斗は、倒れたカルヴァドゥスへと近寄って行く。

 ダメージを喰らわないので完全に無防備だ。

 それを、カルヴァドゥスは待っていた。


 射程範囲へと近づいた名偉斗に、カルヴァドゥスは突然飛びかかった。

 驚く名偉斗に抱きつくようにして、首に噛みつく。


「ぎゃぁ!? って、喰らわねェッつってんだろ!!」


 カルヴァドゥスを引き離し投げ上げると、落下して来たカルヴァドゥスを自慢の槍で貫く。

 ダイアログボックスが出たのを見て、ようやく息を吐いた。


「ったく、煩わせンじゃねーつの。俺様無双できればいいんだよっ」


 クソがっ。と槍を振るう。

 貫かれたカルヴァドゥスが地面に投げ捨てられた。


「将軍!?」


「あああ、カルヴァドゥスやられてるじゃない!? も、もう無理よぉっ」


「ムイムイ様!? どこへ!?」


「こんなの逃げるに決まってるでしょうが!」


 一人、戦線から逃げ出すムイムイ。

 撤退命令すら与えられない魔王軍はただただ闘うしか出来ない。

 レレアは箱型連弩の後で一人取り残され、逃げ去るムイムイの後ろ姿を見つめるしか出来なかった。


 もう、指令を送れるのは自分しか居ない。

 魔王軍に撤退を。

 告げようと戦場に振り返った彼女の前に居たのは、青い失敗面。


「あ……」


「ちぇぇっく、めーいと」


 槍が振るわれる。

 咄嗟にバックステップで避けたレレアの鼻先を掠め、槍が連弩を破壊した。


「さぁて、次はお前だな。俺が心臓を貫いてやる。覚悟しろよ魔族」


「あ……あぁ……」


 もはや、逃げ場はなかった。

 恐怖で足が動かなくなり、すとんとその場に尻から落ちる。

 赤い槍が陽の光を受けて輝く。

 切っ先が一つ目の女へと向けられた。

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