魔族少女戦2
「光の矢」
「ガァッ!?」
流石若萌か。俺が回避しかできないでいるのに対し、彼女は避ける間に反撃までこなしていた。
俺も何かできないか?
そうだ、相手のスキルだけでも分かれば……
「強制ステータス閲覧」
名前:ムイムイ 真名:ムイックルイーナ・ムルクスタット・イーレシア
Lv:48
状態:ふつう
スキル:スタンシザー・エアースラッシュ・四連撃・アイアンテイル・ドラゴンブレス
魔法:粉塵雷爆、悪意之羽、ディ・ム、ディ・ムナ、ディ・ムナシス、ラ・グライラ、ダ・クネ、ダ・クネム、ダ・クネムロート、呪怨之柱
装備:堕天使のブラ・堕天使のパンティ・世界樹の苗・密書
……え? 真名が丸見えだぞ!? いいのかこれ?
いや、でも、強制的に見られると相手にバレる可能性があるってことか。これじゃただただ偽名使えばいいってわけじゃなさそうだな。
というか、強制ステータス表示しただけで真名見放題じゃないか。
ただし、今回は幸運だった。
使わない手はないだろう。何にせよ相手を無力化しないことには話もできない。
あまり命令とかしたくはないが、背に腹は代えられないだろう。
「ムイックルイーナ・ムルクスタット・イーレシア命令だ! 攻撃を即時中止しろ、今後俺と若萌に攻撃することを禁止する」
「なんっ!?」
真名による命令を叫んだ瞬間だった。
びくんっと身体を揺らしたムイムイが呆然とした目をこちらに向け、マリス・フェザーだったか? が突如として掻き消える。
驚きを浮かべているのは若萌も同様だった。
慌ててこちらに駆け寄ってくる。
「誠、今何をしたの!?」
「何って、相手の無力化を……」
「だから、どうやって真名を知ったの!?」
「ステータスを強制的に開いて……魔法やスキル調べて少しでも助けになればと、そしたら真名でてたから、取り合えず無力化を……」
そう……と溜息を吐いて若萌は俺から離れる。
しかし、直ぐ横に強制的に開いたステータスボックスがあるんだが、気付いてないのか?
若萌はそんなステータスボックスを擦り抜けるようにして俺の横に並ぶと、警戒しながらムイムイを睨む。
「攻撃は、禁止したのよね?」
「ああ」
「なら、ついでに自害も封じておいて、話を聞きたいのに死なれては困るわ」
「わかった。ムイックルイーナ・ムルクスタット・イーレシア命令だ。自殺はするな」
「くぅっ。なぜだ? なぜ貴様は我が真名を知っている!?」
無防備に近づいて来る俺達に警戒しながらも、傷付いた身体では逃げ切れないらしいムイムイはその場に膝を付く。
喉元に爪を持っていき引き裂こうとするが、先程の自害禁止命令のせいで首に当る直前で爪が止まった。
悔し涙を流しながらチクショウ、チクショウと叫ぶ彼女には悪いのだが、俺達にとっても情報は欲しい。特に魔族側の話は一切持ってないので重宝するはずだ。
逃げられないようにムイムイの左右に陣取り他の魔物が来ないよう、彼女と共に広めの場所へと移動した。
「さて、まずは何から聞こうかしら?」
「くっ、殺せッ!」
クッコロ入りました。なぜ女騎士じゃなくて魔族なんだ。
「じゃあ、まずは魔族がエルフを襲う理由でも聞こうかしら?」
「誰が人間などに!」
「あなたこそ分かってるの? 真名を握られている意味を」
悔しげに呻く魔族の女ムイムイは俺を睨む。いや、今言ったのは若萌だからな、俺じゃないからな。
「えーっと、ムイックルイーナ・ムルクスタット・イーレシアだったかしら、命令よ。私達だけでいいわ。聞かれたことには正直に隠しごとなく話しなさい。ではもう一度、魔族がエルフを襲う理由は?」
「人間共が我が大陸侵略の拠点にしようとするからソレを阻止するためだ!」
正直に伝えてから悔しげに呻く。
どうしよう、若萌がかなり鬼畜に見える。
「どう思う誠? 魔族側の認識は人間からの侵略だって言ってるけど」
「嘘は付けないなら彼女にとってはそう聞かされてるってことだろ。上がそのつもりかどうかはわからんが。人間達も同じ感じでエルフ侵略するつもりらしいし」
「そっか、この娘がどの位置かによって情報の持つ意味が変わるわね。貴女、魔族での地位は?」
「魔王軍第5部隊所属突撃部隊だ。く、殺せッ」
少なくとも5つの部隊があるらしい。まぁ、その辺りは俺にはどうでもいい。とりあえずこの娘は下っ端中の下っ端だということは理解した。
「それでムイムイ、君は何故ここに?」
「ソレは……ぐぅ、があぁぁぁっ!? 言えん。それだけは言えないんだ。殺される!」
「ストップ、言わなくていいわ。とりあえず真名で禁止されていることは今は言わなくていい。禁止されてると言ってくれればいいわ」
「若萌?」
「おそらく、別の誰かに真名を握られてるのよ。そいつの命令のせいで機密を言うと死ぬようにされてるんだわ。あの奴隷みたいに」
俺は惨劇を思い出し最悪な気分になりながらもそういうことか。と呟くしか出来なかった。




