外伝・動き出した何か
「居たああああああああああああああああああああああああああっ!!」
突然のメガネ女の声に、側にいた女が驚いた。
漆黒の空間の中、メガネ女の前にのみ生まれているブルーライトの光が二人を照らしている。
共に10代の少女達は、一人は椅子に座り光が出る画面を持つ薄い四角の開閉式機械を前に雄たけびを上げ、手元のキーボードを思わず叩いた。
「ひゃっほーう、来た来た来たっ。アンゴルモアっち居たからもしかしたらもう一人居るかもって言われて注意深く見てよかった。居たし、マジ居たし!」
椅子から立ち上がったメガネ女は小躍りを始める。そして、ようやく驚いた顔の女性に気付いた。
「うおわっ!? 何あんた、いつの間に後ろに!? まさか、秘密を知ったあちしを殺しに来たか!?」
「え? いや、あの……」
状況を理解できていない女に、ようやく冷静になってきたメガネ女は恥ずかしげに頬を掻く。
「あー、いや。その、今ちょーっと不始末というか、あちしのクラスメイトっていうのか、まぁ、ちょっと行方不明のが一人居てね、ようやく見つけたんだよねー。はっはぁ。あの野郎こんな場所に居やがったのかってね。あ、で、何の用?」
「いえ、次にスキルなどを教わるのがマロン様でしたので」
「あー、いや、でもあちきは今能力封印されてるからにゃぁ。パルティっちが下界に降りた際に使用したスキルを周囲に解説するくらいしかできないですな……ん、いや、待てよ。おお、これは名案ではないですか。ちょっとグーレイさーん。名案浮かんだよーっ」
メガネ女、マロンはぽんと手を打つ。すると彼女の頭の上に電球が灯った。突然光ったそれを、何コレ? とパルティと呼ばれた少女は首をひねる。
そんな彼女を無視してマロンは手招きしながら駆け去って行った。
パルティがブルーライトを灯す画面に向かう。
光が彼女の姿を照らしだす。
短めのショートボブに加えて側頭部の髪を編み込んで三つ編みにしている赤紫色の髪の少女。
画面の中には大陸の四方向から人族が進軍を開始しており、魔王城から逃げ出す魔族が映っていた。
魔族は東寄りの街に本拠地を移すつもりらしい。何も知らない人族は魔王城目指し進軍し、各地の関所で最初の闘いが始まろうとしていた。
既に魔王軍に逃げ場はなくなっている。後は追いつめられるだけのようにしか見えない。
その魔王軍の中に、一人、赤いスーツのヒーローに見える男がいた。
しばらくすると暗がりからマロンとともにもう一人の人物が。
銀色に光る身体に大きな頭。アーモンド形の巨大な目に掛けられた似合わないメガネ。
人ですらなかった怪しい人物はマロンに連れられ困った顔をしている。
「ほらほら、早く来る!」
「なぜ私が拉致されるのか不思議なのですが。というか、私はグーレイなんて名前じゃありません。あれは教国の一つが勝手に神の名を決めてるだけで……」
「監察官とかしか呼び名がないんだからいいじゃない。グーレイで統一しとけ。容姿もグレイじゃん。それよりほら、見てよ! これから回収部隊に連絡は入れるけどもう、ヤバい感じでしょ」
「おや、確かにこれは最終戦争といった様相ですね」
「しかもここの世界、管理者があの女神なのよ」
「あの女神……ですか。また面倒な」
「真名システムがあるけど、その辺りはあんたが何とかすればいいから、ほら、ちょちょっと助けちゃくれない? 助っ人送るまでの間でいいから、おねがぁい」
両手をすり合わせて猫なで声でグーレイに擦り寄るマロン。パルティは呆れた顔でソレを見ながら、一人蚊帳の外にいた。このままただただ見守っているだけ、のつもりだったのだが……
「貴女がやるとイラッとしか来ませんが。まぁ、あの知り合いには私の世界のお気に入りが世話になりましたしね。ああ、そうだ。丁度良いですパルティさん」
「はい?」
話しに付いて行けずに疑問符を浮かべるパルティに、グーレイとマロンが意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「ちょっと実力確認してみませんか? 【実戦】で」
「はぁ?」
思わず自分を指差すパルティ。
しかしグーレイもマロンも彼女を無視して話を再開する。
「となると、会議に掛けられないよう裁判長から許可貰わないとだよにゃ~」
「そのあたりはあたりめでも与えれば問題無いでしょう。こちらでやっておきます。あなたは河上誠のクラスメイトに連絡を。既に一度その世界に向かっているのなら用意でき次第送り込めるでしょう。あまり大人数だといろいろ面倒な手続きが要りますし、そうですね、三人くらいが妥当でしょうか」
「にゃるほど。じゃあパルティっちはさっさと送って残り二人?」
「いえ、パルティは実地研修の言い訳ができるので三人でいいですよ」
「おーけーおーけー。そんじゃぁこちらの勇者と救世主様をぶつけさせて貰いましょうか。それに、神殺しのあいつも……にゃぁ」
マロンのメガネが怪しく光った。




