外伝・勇者散開
「よぉーう、元気してたかクソガキ」
「ちっ、失敗面、何の用だ」
お茶会へとシシルシ達が戻って来ると、丁度勇者たちが戻ってきたところだったようだ。
永遠の元に三人の勇者が来ていた。
「あれー、信也ちゃんたち来たの?」
「馴れ馴れしいな。俺は永遠のように慣れ合う気はないぞ?」
「てひー。めんごー。シシーは名前呼ぶ時皆の事ちゃんづけするようにしてるのー。ディアちゃんもディアちゃんって呼んでるんだよ」
「ディアリッチオ様を気安く呼ぶのはシシルシぐらいだ」
溜息を吐き、永遠の側にやって来るルトラ。ディアリッチオも無言で永遠の背後に佇む。
「信也ちゃんも和ちゃんも青いおぢちゃんも残念だったねー。もうちょっと早かったら苺大福食べられたのに」
「いらねぇよ」
「ちょっと待てや。なんで俺だけ青いおぢちゃんなんだよ!?」
「失敗面はおっさん臭漂ってんだろ。僕のシシーに近寄んな」
「やーんもう、和ちゃんだって。シシーちゃんこんなチンチクリンじゃなくておねーさんと結婚しない?」
「止めろよ。というか女同士で結婚できないだろ。僕のシシーに言い寄んな変態っ」
席を立って必死にシシルシに近寄る二人を止める永遠。
ソレを見ながらシシルシはクスクスと笑ってみせた。
「仲いいねー」
「「「はぁ!? どこが!?」」」
「声が揃うところが特に、だな」
信也が同意してくっくと笑うと三人がムッと互いを見て一瞬。ふんっと三人同時に視界から相手二人を消した。
「さて、冗談はそのくらいにして攻略の話だ」
真剣な顔になった信也が告げる。
その言葉で名偉斗、永遠、和美まで真剣な顔になった。
「なんとか交渉の結果、ルインタ以外の人族を味方に付けた。あそこだけは俺達が男ということもあって交渉すらできなかったからな。和美の奴一人にしたら大問題引き起こして逃げざるをえなくなったし。アレはない」
「だって、あの女が強気過ぎたのがダメなのよ。もう、あんな娘目の前にしたら、やっちゃうしかないじゃない? 乙女の嗜みよ」
「公衆の面前で鞭打ちしながら殺すのがか? アレでルインタは完全に中立発表しちまったんだぞ。女神からお小言貰ったし。あいつの機嫌が良くなかったらお前チート剥奪されてたんじゃないか?」
ルインタを滅ぼすしかないと考えた信也と和美だったが、一応女神に伺いを立てておいたのだ。下手に国を滅ぼし勇者の名に泥を塗るのはマズいんじゃないかと思ったからである。
魔族がいた訳でもないのに人族の国を滅ぼした。しかも理由はこっちが一方的に殺害したせいで相手が交渉してくれなくなったという理由である。
当然女神が却下してきた。
その怒りようは笑顔だった彼女が頭を掻き毟って怒鳴り散らす程。
なんでそう私のシナリオを悉く破壊してくれるのよっ。次はないわよ。そう告げられてしまったのだ。折角の幸福感も一瞬で消え去った女神の怒りは凄まじいモノだった。
彼女は次の潜伏先をルインタにするつもりだったらしい。
なのに勇者達がかの国を説得するばかりか殺人して警備強化したせいで国に入る事すらできなくなったのだ。彼女の怒りも一入である。
お小言を貰ったうえにさっさと魔王軍追い詰めろ、と怒られルインタ放置でここに逃げて来たのだ。
「三日後、総攻撃を開始する。俺は北、名偉斗は南、東に永遠、和美は西から魔王国に進軍する。人族軍と一緒に攻め上がり誰が一番に魔王城に到達するか勝負だ」
「おもしれぇ。魔王城一番乗りは俺だぜ」
「ちょっと、なんで私は西なのよ! 海じゃん! 海魔のせいで船が沈むとか言ってなかった?」
「知らん。お前のせいで女神が怒ったんだ。このくらいで済んで良かったと思え。それにお前のチートなら別に問題無いだろ」
「はいはい。全く一人海からとか、最悪。ネンフィアスの船上部隊と行って来るわ。ああもうムサいのばっか」
溜息を吐く和美と、興奮気味の名偉斗が早速立ち去る。三日後の進攻に備えて配置に付くようだ。
「永遠、一応東はお前に任せるが、別に来なくてもいい。シシルシとゆったり過ごしても俺は何も言わん。ただし、ディアとルトラは連れて行くぞ。ディアは俺と、ルトラは名偉斗と共に魔王軍を蹴散らす。いいな?」
信也の言葉に頷く永遠。ディアとルトラの命令権をそれぞれ信也と名偉斗に委譲する。
「兄ちゃん。僕は……」
「無理に来る必要はない。ルトバニアには大悟とかいうのも居るらしいしな。一応あいつに迎えに来るよう伝えておくが、お前自身どうするかはお前が決めろ」
それだけを告げて、信也は去って行く。
後に残された永遠は所在無げに立ち尽くす。
彼自身も判断できないのだ。
シシルシとの甘い生活は捨てがたく、かといってこの世界に呼び出された使命である魔王討伐に参加しないというのも仲間外れになった気がする。
「シシー、僕は……」
心配そうに見つめるシシルシに振り向く永遠。シシルシはそんな彼を優しく抱きしめた。
「シシーはね。待ってるよ。ここにいるから。どっちを選んでも、シシーはここにいるよ。だから、永遠ちゃんは好きな方を選んで、ね……」
永遠にとっては好きな娘から待っていると言われて最高の気分だったのだろう。
傍から見ていたハルツェが深淵覗くシシルシのニタァッとした悪意ある笑みを見てしまい戦々恐々としていたが。




