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チキサニの秘密

「あー、その。若萌、すまない」


 手紙を読み終えた俺が言えたのは、そんな謝罪だった。


「人を襲おうとしておいてその謝罪はどうかと思うけど……私もこうなると聞いてたから覚悟はしてたし、問題は無いわ」


 大問題だと思うのだが。


「私が持っていた秘密はこれで最後。正義の味方と救世主の娘で、ジャスティスアイゼンに変身できる変身ヒーローで、未来から来たあなたの娘。もう、秘密はないわよ」


「……そう、か。疑って悪かった……」


「確かに未来を知っているのに言わないのは怪しいモノね。でも、ここから先は私もよくわからないわ。そもそも話してくれなかったもの。未来を変え過ぎるとヤバいからって。だからお父さん、私はスパイの正体も聞いてないし、女神がどうなったかも聞いてない。ただ、女神に打ち勝てるのはあなただけだった。そう聞いているわ」


 俺が、女神に? 女神の使徒についさっきブッ殺されたばっかりなんだけど?


「チキサニに、話を聞いて来ると良いわ。じゃあ、私はこれで」


 と、ベッドから立ち上がると先に部屋を出て行く若萌。

 取り残された俺は手に残った手紙をもう一度見る。

 信頼できるのは……勇者だけ、か。

 あ、この紙処分はどうしよう?


 俺はまずモルガーナを呼び出す。

 既にルトバニア潜入組もシシルシに言われて逃げて来たらしい。

 今は魔王城で休憩しているらしく、これから自分の種族が居る場所に向おうかというところだったらしい。


 帰る前でよかったと思いながらモルガーナに説明をしながらチキサニの居る俺の部屋に戻る。

 既にベッドでぐーすか寝てやがったチキサニを蹴り起こし、毒を貰う了承を得る。

 モルガーナが必要量を包み、若萌の元へと向かう。

 既に大福が用意されているだろうから、後は擬態して向こうでシシルシに説明することになるだろう。


「うぅ、寝てたら謎の衝撃来た。クアニに何があった?」


「さぁ、変な寝返りしたんじゃないか?」


 起き上がったチキサニが寝ぼけた事を言っていたので蹴った事実は伏せることにした。


「で? クアニに何の用? はっ、まさかトゥンネワ ソモマプ作っちゃう!?」


 確かトゥンネワが二人。でソモマプが赤ちゃんだったな。

 いや、作らねぇよ!?


「アホか。お前が前に俺に言おうとしていた重要な話を聞きに来た」


「あー。アレか。いいの?」


「大丈夫らしい。今回はちゃんと聞くよ」


「クアニ了解。じゃあ、ちょっと待つ。変身解いて、手を握る」


 と、差し出された手を、俺は変身の解いて彼女の手を握る。

 チキサニはそれを確認して眼を閉じる。


私が行くクオマン 神を来客として迎えるカムイソマウコロ 私が来たクエッ……私は カムイ


 ゆっくりと、その瞳が開かれる。

 その瞬間から、チキサニの雰囲気が変わっていた。

 チキサニが目の前にいるはずなのに、チキサニ以外の別人と対面しているような不思議な感覚。


「この会話ができているということは、目の前にいるのはジャスティスセイバー、河上誠でよろしいですね?」


 突然のことに、俺は反応出来なかった。今までのチキサニはなりを潜め、どこか神秘的な顔で俺を見る。別人が乗り移ったかのような表情に、俺は密かな警戒感を持つ。


「まず、チキサニに真名命令を行い私の言葉を一字一句違えることなくあなたに伝言を頼んでいます。きっと届くことを信じて、あなたがこの声を聞いていることを願っています。もちろん、伝言なので会話はできませんのであしからず」


 誰だ? チキサニを真名で伝言役にした人物は? 黒の聖女だ。きっとそいつだ。だけど、俺はそいつを知らない。そいつも俺を知らないはずだ。なのになぜ、俺の名を、知っている?


「初めまして……いえ、お久しぶりです誠さん」


 にこやかに、笑みを浮かべるチキサニ。いや、チキサニじゃなくて伝言をチキサニに吹き込んだらしい黒の聖女。

 久しぶり? 俺は、こいつに会ってるのか? 誰だ? お前は、一体……


「会った事があるといっても私が幼い頃に少しだけの間ですし、面識は殆どないかもしれませんね。ラナリアにあなたが来た時は驚きました。私が立ち上げ、インセクトワールドの首領さんがあなたを引き入れ、今はどうなっているのか、半端に投げ出した私ではもう理解する事も出来ませんが……」


 待て。待ってくれ。あんたは……黒の聖女って、まさか……


「ラナリアの……首領?」


「私の名は、ラナリア創設者、ラナ。今は黒の聖女と呼ばれています」


 クスリ、微笑むチキサニの向こうに、一度だけ見た首領の姿が浮かんだ気がした。


「なんで……あんたが、ここに……?」


「貴方を救うため。そして……ラナリアの首領として、部下の任務が滞りなく遂行できるように、下準備に来ました。一応、首領ですから」


 儚げに微笑む彼女に、俺はただただ愕然と驚くことしかできなかった。

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