魔王VS女神の勇者2
森を少しづつ魔王領側へ撤退しながら敵を相手取る。
いくらレベル差があるといえどもこの状態はあまりにも不利だ。
俺だけならダメージ覚悟で魔王領へと向かうのだが、べーやパリィが死にかねないしな。なんとか俺が殿やりながら撤退するしかないだろう。
「放て!」
一斉に放たれる毒矢をギルティーアーマーとセイバーで弾く。ハンドフリーシールドも使ってはいるが、レシパチコタンの暗殺者共の命中率のせいで仕事をしてない状態だ。
「ははっ。なんか本当に勇者になった気分だぜ誠っ。見ろよ、俺に味方する人間共がどんどん増えてくぜ」
「アホか。よく見ろ玲人。お前も討伐対象入ってんだよ!」
その通り、お付きの犬耳娘が矢を迎撃してくれているからダメージになってないけど、玲人向けても矢が放たれている。
「シェ・ズル」
「っ!?」
あぶなっ。
今のは完全な不意打ちだった。
正面の玲人とレシパチコタンの暗殺者に気を取られた隙を突き、側面からの魔法攻撃。
エルダーマイアの勇者光子が追い付いたようだ。
「くそっ、魔王避けろっ!」
男の声に、俺はそちらを向く。
魔法が来たのとは逆方向から光の奔流。
「全員散開しろっ!」
まるでギルティーバスターをくらったようだ。
光の奔流が飛びのいた俺の目の前を通過していく。
目がチカチカしそうな強烈な光が通り過ぎると、無数の矢が迫り来る。
タイミングが良すぎるっ。
バイザー越しで光が軽減されているとはいえ、この連撃はキツイ。
このままだとじり貧だ。
しかも……琢磨だったか、それと十三の二人まで現れた。
どうやらエルダーマイアの猊下様に真名命令を喰らったようで俺達を嫌々攻撃しているようだ。
「なんだ琢磨、随分嫌そうだな」
「当然だ。俺達は矢鵺歌さんが怪しいと勘ぐってた。案の定だよ。あいつお前を裏切ったんだろ」
成るほど。一応俺らがハメられたことは気付いたのか。残念なのは真名を奪われているせいで敵対関係にならざるを得ないってことだ。
面倒な。
「誠ぉぉぉッ」
「っ!?」
空から声が降って来た。
なんだ? と思った瞬間、見えた人影にセイバーを構える。
降り下りて来た大悟の一撃をぎりぎり受け流す。
「大悟!?」
「悪いが今回、ルトバニアはこちらに付く」
「正気か!?」
間髪いれずに攻撃して来る大悟。その視線が、さっさと仲間を逃せと言っていた。
おそらく自分が敵対関係として登場することで暗殺者達の射線を封じてくれたようだ。
こいつ、敵か味方かわからなくなるな。
「ホルステン、テーラ、他のメンバーを連れて撤退を始めろ。逃げるぞ!」
「おうっ」
「魔王様っ!」
ホルステンが元気に答えてバックステップで撤退を始める。だが、テーラは返事をしようとして慌てて俺に向って来た。
驚く俺を引っ張り、自分が前に出る。
次の瞬間……赤い槍がテーラに突き立った。
「テーラっ!?」
慌てて駆けよるが、既にアイテムボックスが出現している。慌てて『いいえ』ボタンを押してホルステンに投げ渡す。
「ホルステン、魔王勅令だ。全力で魔王城に帰還せよ。テーラを死なせるな。絶対に蘇生させろ」
「なっ、へ、陛下は!?」
「俺は……仇打ちだ。行けッ!!」
俺の声音に慌てて背を向け走り出すホルステン。
幸い、ホルステンに殺到する敵はいなかった。
幸運にも、大悟の狙い通り、彼が肉盾となり魔法や矢を放てないようだ。
流石にルトバニアの勇者を殺すことになれば彼らもヤバい橋を渡ることになるらしい。
「今のは……俺じゃないぞ?」
「分かってる。女神の勇者どもだ。だから大悟。今直ぐに引け。ここから先は……悪いが手加減不可能だ。お前まで殺しかねん」
「何を……ええいクソッ」
俺から発する何かを察した大悟がバックステップ。
距離が離れたのに気付いた光子や暗殺者共が遠距離攻撃を放って来るが、俺はギルティーアーマーだけで無防備にこれを受け止める。
玲人がここに来なければ、奴等に追い付かれはしなかった。
お前も纏めて潰させて貰うぞ玲人。
俺は確かに正義の味方だ。ジャスティスセイバーだ。
だけどな、一度、闇堕ちしてるんだ。
ぶわり、封じ込めていたソレを解放する。
俺の周囲をオーラのように取り巻く黒い靄。
空気が一変したことに気付いた敵が思わず手を止め戦慄する。
「良いだろう人間たちよ。俺の憎悪、存分に味わってくれ」
俺は恨んだ。自分の力の無さを、あのライバルである怪人が栄光の道を歩んでいるのに、落ちぶれて行くだけの自分を。そうしたら、ソレはいつの間にか俺に纏わりついたのだ。
恨み、辛み、憎悪、嫉妬。あらゆる負の感情で、俺の姿は赤から黒へと変化した。理性を無くし、暴走した獣のように、敵味方問わず襲いかかった。
その状態に、自分の意思で……落とし込む。
さぁ、始めよう人間達。勇者たちよ。暴走する魔王を御すのは骨だぞ?




